もぐら姫

メラニー

もぐら姫

 もぐら姫は太陽王子に恋をしました。

 しかし、もぐら国では太陽王子に会うことは禁止されています。

 そんな決まり事なんてクソ食らえ。姫の想いは募ります。

 王子のことを想って暗いあなぐら、掘って進んで潜って、どこまで行っても太陽王子のいない土の中。

 時々頭にあたるのはジャガイモばかり。


 恋しい、恋しい、太陽王子。


 ある三日月の夜、姫がいつものようにジャガイモ畑でずんぐりむっくりな体を寝そべらせて、星の瞬きに合わせて歌を歌っていました。

 すると冒険家のもぐらおじさんがやってきて、王子の話を少しだけしてくれました。虫がいい声で合唱を始める頃、まんまるのお月様が出る反対の方角に真っ赤に染まった太陽王子が公務を終えられてベットに入られると。

 もぐらおじさんの話を聞いて、姫は一段と王子が恋しくてひと目見たくて仕方が無くなりました。

 次の満月の夜、お月様に王子に会う決意し誓います。


 満月まで姫は躍る心を抑えながら待ちました。

 星の瞬きも月の光も、一緒に恋の歌を歌ってくれました。


 とうとう今夜は満月の夜。

 姫は赤く染まった太陽王子に想いを伝えようと虫が合唱を始めるまで待って、ジャガイモ畑から顔を出しました。

 ちょうど山の向こうに麗しい赤く染まった王子が眠ろうとしているところでした。


 なんて美しい!


 姫は王子の美しさに。そして見渡す限り全ての景色が王子の暖かい赤で染まっているのを見て、王子の偉大さを感じ息をのみました。


 早く王子に想いを伝えないと……。


 そう思うのもつかの間。王子は星空の天蓋のベットに潜ってしまいました。

 もぐら姫はまた星空の下、何度も何度も王子の姿を思い出し、王子に焦がれます。

 寝そべって王子のことを考えると意味もなく流れた涙でも、柔らかな土に溶けていきます。

 もぐら姫の想いはどんどん膨らみ破裂寸前。

 明日、王子がまだ謁見をされている間に、秘密で会うことにしようと決心しました。


 暖かく大きな、大好きな王子さま。

 きっとお優しい方なんだわ。

 毎年、ジャガイモがこんなに丸々としているのは王子さまのお陰だとおばさま達も言っていたもの。

 愛おしい王子さま。王子さまが土の中に来てくださらないなら、私から会いに行きます。


 想いは募るばかりで眠れません。

 明くる日、姫はもぐらの言いつけを破って王子が公務をしている時間、小鳥が朝の賛美歌を終えた頃、こっそり、ジャガイモ畑に顔を出しました。


 愛しい王子さま、今日はどんな姿をしていらっしゃるの?


 姫ははち切れん心臓を押さえながら顔を上げました。

 するとどうでしょう。

 目が燃えるように熱く、白く、頭がくらくら……


 どうしたのかしら?やっと王子さまに会えたというのに。


 それでも姫は失礼の無いように、ありったけでまっすぐでずんぐりむっくりの体を立たせ、王子の方を向いて話しかけます。


 ごきげんよう、王子さま。私が見えますか?もぐら姫ともうします。


 しかし、王子の返事はありません。

 ただただ、体も目も心も焼けるように熱いだけ。

 もぐら姫は本当に焼かれているのかと錯覚するほどで、そのまま気を失って、あなぐらに落ちてしまいました。


 姫は夢を見ます。

 王子が優しい言葉をかけて起こしてくれる夢。

 でも目が覚めると、もう月の時間でした。


 姫は切なくて、恥ずかしくて、淋しくて、いつものように寝そべりながら大好きな星の歌を歌おうと畑に重いからだを上げました。

 しかし、いつものように星が瞬きません。

 満月の次の日だから月も出ているはずなのに月も見あたりません。

 独りぼっちで姫は大声で泣きました。

 その声を聞いたもぐらおじさんがやってきて、姫に何があったか訪ねます。

 姫の話を一通り聞くと、もぐらおじさんは姫を抱きしめました。そして、なんて事をしたんだと一緒に泣きました。

 姫の目は王子に焼かれ見えなくなってしまったことを姫は知りました。

 もう星の瞬きにあわせて歌を歌えません。

 月の影踏みも出来ません。

 姫はただただ悲しくて涙が止まりませんでした。


 おしまい。

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もぐら姫 メラニー @meraniy

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