第28話 大遺跡からの帰還


「いたた……みんな、大丈夫?」

「う~、目がチカチカする……」

「私は大丈夫だよ。レナちゃんは?」

「はい、私も大丈夫です」


 遺跡の最深部である黄金の花園に辿り着いた僕達。

 そこに居た少女、フィリルとリベラの会話が終わり、部屋全体が眩い光に包まれた後に僕達が転移したのは全く知らない場所だった。


 小さな台座がポツンと存在するのみで、他には何も無い狭い部屋。

 一体何処だろうと観察していると、意識して居なかった場所から声を掛けられた。


「やぁ君達。どうやら、面倒事に巻き込まれ―――」

「うわぁ!? あ、アースさん……!?」


 先程まで何も無いと思って居た場所からニュッと現れたのは、ギルド長のアースさん。

 いきなり出て来た彼に驚き、思わず僕は尻餅をつく。


「うわっと……。ごめん、驚かせちゃったみたいだね」

「いえ、大丈夫です……」


 彼に手を貸して貰い起き上がった僕の頭に疑問が過ぎる。

 確か彼は遺跡群の中央にあった巨塔に向かったはずだったのだが……。もしかしてこの場所はその塔の中なのだろうか?


 そう考えた僕は彼に直接尋ねる。


「アースさん、ここはあの塔の中で間違いないですか?」

「状況の把握が早くて助かるよ。いかにもここは遺跡群の中央、今回の大遺跡だと思われていた遺跡の内部で間違いない」

「……思われていた?」

「あぁ。あの場所からここにやって来た君達なら何となく察して居るだろう? 君達が攻略したその場所こそ正真正銘、今回の大遺跡の内部だったって事にね」


 アースさんはまるで確信して居るかのようにそう口にする。

 確かにあの場所は通常の遺跡よりも遥かに謎の多い所だったが、本当に僕達が大遺跡の中に迷い込んでいたとは……。


「さて、色々と積もる話はあるが、まずはここを脱出しよう」

「うわぁ……入った遺跡とは別の遺跡から出るのを頑張らなきゃなのかぁ」

「うぅ……流石にちょっと元気ないかも……」


 幾ら体力や魔力が回復したとはいえ、精神的な消耗自体が消えてなくなった訳じゃ無い。

 エルンやリベラはまだ疲労を表に出しているだけ解り易いが、疲れをあまり顔に出さないレナも大分疲弊している事だろう。


 その状態で遺跡内からの脱出と言うのは確かに辛い。

 そんな僕達の様子を見て、アースさんは懐から一つの巻物スクロールを取り出した。


「なら、これを使うとしよう。まだ試作段階の物だけど、帰還用の転移魔術が刻印された巻物だ。これを使えば任意の場所に一瞬で移動出来る」

「何それ、凄い!!」


 巻物の効果を聞いたリベラと僕は目を輝かせる。普段であれば魔道具に余り興味を示さないレナも気になるのか視線を彼に集中させていた。

 実際、どんな遺跡の中からでも一瞬で帰還出来るアイテムが全探索者に行き渡れば、それだけで探索者の生存率は飛躍的に向上するだろう。


「……その巻物、全ての探索者に行き渡らせる事は出来ませんか?」


 そう考えた僕はそのままの意見をアースさんに伝える。

 だが現実はそう上手く行く訳では無い様だ。


「この巻物はまだ量産体制が整ってないんだ。私も直ぐにでも全探索者に渡したいんだけど……」

「そう、ですか……」

「はぁ……何処かの遺跡に、刻印された魔術を他の巻物に転写させるような聖遺物アーティファクトでも眠っててくれるとありがたいんだけどね」


 落胆した僕を見た彼は同じ様に溜息を吐きながら愚痴を零す。

 ギルド長として、彼も無為に探索者達を危険な目に合わせたくは無いのだろう。


 少し暗くなった雰囲気を断ち切る様にアースさんは手を叩いて場の空気をリセットする。


「まあ、今ここでその話をしていても仕方が無い。君達が大遺跡で入手しただろう物についても興味があるからね。本部に戻った後は、しばらく時間を貰っても良いかな?」

「はい。構いません」


 念のため三人にも確認しようと顔を向けると、全員問題無いようでコクリと頷いていた。


「よし、それでは遺跡の外に出るとしよう」


 そう言うとアースさんが周囲を取り囲むように巻物を広げる。

 円形に広がった巻物に彼の手から魔力が注がれ、刻印された魔術が起動する。


「みんな、離れないようにね。魔術の範囲内に居ないと取り残されてしまうよ?」

「それは嫌ですね。エルン、しっかり掴まってて下さい」

「お兄ちゃんもこっちこっち」

「わ、分かったよ……」


 流石に取り残されるのは嫌なので、僕達はアースさんの周りにがっちりと固まる。

 そんな僕達の様子を見て彼はフッと優しい笑みを浮かべ、そのまま五人で遺跡前の仮設本部へと無事転移して行った。

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