第9話 遠方探索依頼


 先日小隊パーティを組んだ僕達は、一日休みを挟んで再びギルドへと赴いていた。

 今回初めて小隊として任務を受けるつもりだが、どんな依頼が丁度良いのか見当が付かない。


「いやー、この地域周辺の依頼はあんまり実入りが良く無さそうだねぇ」

「そうだね。そうなると少し遠くへ向かわなきゃいけないけど……」


 四人で様々な依頼書を見比べる。

 いま六等探索者用に貼り出されている依頼は、小隊として受けるには些か報酬が少ない。

 かと言って他の依頼だと、ギルド本部から割と遠くへ向かわなければならない。


 報酬が少なくとも近場を選ぶべきか、報酬が良いが遠方の遺跡へと向かうべきか。


「お前達、何やら悩んでいる様だな」

「おや? 教官さんじゃないですか。こんにちは」

「ナイズ教官、お久しぶりです」


 そこに現れたのはナイズ教官。

 どうやら依頼板の前で悩み込んでいる僕達を見かねて声を掛けた様だ。


 エルンとレナも彼女にお世話になった事があるらしく、二人も彼女に向かって挨拶をする。


「何を悩んでいるんだ? 私で良ければ知恵を貸そう」

「実は……」


 教官に四人で小隊を組んだ事を話し、今回が小隊結成後初の遺跡探索という事を鑑み、どの依頼が向いているかアドバイスを求める。


「なるほどな。であれば、遠方の探索依頼を受注してみると良いだろう」


 話を聞いたナイズ教官はそう言って一枚の依頼書を僕に手渡す。


「小隊を組んだ探索者達には、ギルドから特別な依頼が任される事もあるのは知って居るな。そう言った依頼は基本的に本部から離れた場所に向かわなければならない事が多い。その為にお前達も、ある程度遠方探索の経験は積んでおいて損は無いだろう」


 教官が渡して来た依頼書の目的地はギルド本部から北西方向、商業国家プロ―ダク付近だ。


「遺跡に向かうついでに、そのままプロ―ダクへ向かって見ると良い。魔道具を製造している唯一の国だ。中には、ギルドにはまだ卸されていない魔道具もあるだろう」

「おぉー、何か面白そう!!」


 魔道具と言う響きに魅了されたリベラは目を輝かせる。どうやら既にこの依頼を受ける気満々の様だ。僕達はギルドからの支給品だったり、両親から譲り受けた魔道具を使ってはいるが、魔道具が実際に売られている所は見た事がない。


 その物珍しさに、僕も彼女と同じく惹かれつつある。


「二人はこの依頼で大丈夫?」


 とは言え、僕達はもう二人だけで探索する訳じゃ無い。

 同じ小隊の仲間である以上、しっかりとエルンとレナにも確認を取らなければ。


「うん。私は全然良いよ~」

「私も構いません。教官の勧める依頼であれば十分信頼に値しますしね」


 どうやら二人も異存は無いそうだ。

 早速僕が依頼書を持って行き、見慣れた受付嬢へ紙を渡す。


「そう言えば移動手段って何があるんだろ? まさか徒歩で行くのかな?」

「そんな訳があるか。お前もギルド本部まで来たのなら各国からここまで直通の馬車がある事くらい知って居るだろう。逆にそれ以外の移動手段でどうやってここまで辿り着くんだ」

「あ、そっか!!」


 依頼の手続きが終わるまでの少し間待ちぼうけを食らっていた僕は、リベラが間の抜けた発言をしてナイズ教官に呆れられている場面を目撃する。

 僕と共に馬車に揺られてここまで来たと言うのに、彼女はすっかりその事を忘れていた様だ。


 とは言えリベラは馬車の揺れが酷い所為で酔って居た為、忘れている方が良かったのかも知れないが。


「お待たせしました。依頼を終えた場合、依頼書はギルドに持参してください。ギルドであれば本部、支部を問わずに受付を行えますので、その点は覚えておいてくださいね」

「はい、分かりました」


 ほんの十日ほど前の出来事が随分昔の事の様に思えてしまう。

 それほど探索者としての生活は濃い日々だった。


 そして今日、僕達はまた新たな地へと向かい始める。


「お待たせ。受注出来たよ」

「やった、それじゃあ早く行こう!!」

「そう急ぐ事無いよリベラちゃん。今日の馬車はまだ出発しないだろうしね」


 ギルド本部から各国へ向かう定期馬車は一日に四度出る。

 今は一度目の馬車が出る前で、出発の時間にもまだ少し早い。


 それぞれ一度宿へと戻り、出発時刻までに荷支度を終えて馬車の発着場に集合する。

 するとそこには、見送りに来たのかナイズ教官の姿もあった。


「全員、時間通りに集まったようだな」

「もしかして、教官は見送りに来てくれたんですか?」


 おやおや、と少し意外そうな口ぶりでエルンは彼女に問いかける。


「あぁ。そんな所だ」

「あらら、本当ですか。嬉しいですね~」


 実際、教官は見送りに来てくれたらしく、僕達の顔を見回しフッと笑みを浮かべる。


「懐かしいな。私も、昔はお前達の様に未知の世界に胸を躍らせていたものだ」

「……いまはもう探索者として活動して居ないんですか?」

「そうだな。今の私は、本部で新米達の訓練を任されている立場だ、気楽にどこかへ行ける様な立場では無い。仮に行けたとしても、とうの昔にその気力も尽きているからな」


 そう語る教官の口調からは悔いが残っている様な様子では無く、ただただやり切ったと言う思いが伝わって来る。


「私の事は良い。それよりも、そろそろ出発の時間だぞ」

「あ、本当だ」


 出発時刻が迫っているからか、次第に馬車の周囲が慌ただしくなる。

 僕達も乗り遅れない内に荷物を持って、最後方の馬車へと乗り込む。


 教官は僕達が無事に馬車に乗り込んだのを確認し、その馬車へと近寄る。


「気を付けて行って来い。そして、無事に帰って来い」

「はい。教官もお元気で」

「教官にもお土産買って来るね!!」


 依頼を受けてプロ―ダクへ向かう馬車に乗って居るのに、まるで観光へ行くかの様な口ぶりのリベラを見た教官は思わずと言った様子で笑い声をあげた。


「あぁ、期待しているよ」


 その言葉が僕達の耳に届いた後、先頭の馬車が動き始めた音が聞こえて来た。

 次第に他の馬車がギルド街を出発し、しばらくして僕達の乗った馬車もこの街を後にする。


「……初めてあった時もそうでしたが、優しい方でしたね」

「そうだねぇ。まあ、今生の別れって訳でも無いし、依頼を終えて街で買い物して。そしたらまた顔を見せに行けば、教官も温かく出迎えてくれると思うよ」

「ああ。そうする為にも、頑張ろう」


 そうして、この街に戻って来る日の事を思う僕達を乗せた馬車はプロ―ダクへの道を真っすぐと進み始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る