第十七章 帰国

 時は六月二十日の水曜日の午後八時だ。場面は英国に帰る、英国特別捜査機関のチャーター機の中だ。ルイス警部が主犯格と思われる男の、ジョルジュ・ミレーの捜査をスペイン警察に一時任せ、情報収集を頼み、手掛かりとなる事が分かり次第、英国特別捜査機関に伝える様にと、指示を出した後だ。ルイス警部は捜査が一段落して、やっとイギリスに残した家族の元へと帰れると、想いを巡らせていた。彼はそう想っていると、ふと眠気が襲い、眠りに落ちたのだ。それからかなりの時間がたったのだろう、チャーター機が英国に着陸する振動音で目を覚ました。ルイス警部は、自分の荷物を鞄に詰め込むと、行きよりも多くなった荷物を持って、チャーター機から地上へと降り立った。ルイス警部はロンドン・ヒースロー空港の地面を踏みしめながら、空港内へと入って行った。

 彼は近くの長椅子に荷物を置くと、自分も座った。それから彼は携帯電話を取り出して、家族へと電話を掛け始めた。ルイス警部は、ほっとした様な口調で、エメットに「やあ、僕だよ、ルイスだよ。エメット、君は元気にしていたかい?今イギリスに帰った所だよ、もうイギリスにいるんだ。電話をするのを今にしたのは、途中で仕事でスペインに戻らないといけない状況になって、君と僕の両親、それとパスカルをがっかりさせたくなかったからなんだ。それでね、パディントン駅に、迎えに来てもらえないかと思ったんだよ。どうだい?」と携帯電話でいった。エメットが、息を弾ませて、ルイス警部に「あら、ルイスなの。もうイギリスに帰って来たのね、今の状況を聴くと仕事に一旦区切りがついたみたいね。暫くは私たちと過ごせるって事なの?今から私がパディントン駅まで迎えに行くわ」と携帯電話でいった。ルイス警部は、会うのが待ちきれないという様子で、エメットに「そうさ、暫くは仕事で呼ばれる事は無いよ、海外での仕事があったからね、その仕事の報告書を書く事ぐらいなんだよ。報告書は自宅でも書く事が出来るからね。少しの間はほとんど仕事の事を、気にしないで一緒にいられるよ。うん、じゃあ、パディントン駅で君を待っているよ。じゃあ、また後でね、エメット、愛しているよ」と携帯電話でいった。エメットは、嬉しそうに笑い、ルイス警部に「あらそうなの、数日だろうけど、楽しく過ごせそうね。ええ、今から直ぐにパディントン駅に車で向かうわ、ええ、私も愛しているわ、ルイス。それじゃ、後で」と携帯電話でいった。ルイス警部はエメットとの通話を終えると、荷物を持って、パディントン駅に向かう電車のある駅を目指した。ルイス警部は、荷物を少し重そうに持ちながら、久しぶりの英国の雰囲気を楽しみながら、自分が英国へ帰って来たんだと感じながら、少し微笑みながら歩いた。彼は素敵なスペインでの捜査も、普段と違っていて、楽しくはあったけれど、やはり祖国英国の見慣れた風景や、空気がとても気分を落ち着かせているのが感じ取れた。これから世界で一番大事で安心の出来る場所に帰れるんだと思うと、心臓が高鳴った。彼は駅からパディントン駅行きに乗り込むと、どっかりと席に座った。電車が走り出した。ルイス警部はこれから帰るんだと心の中で思った。彼はいきなり緊張がほぐれて来た、少し頭がぼんやりして来た、今の今までスペインでの捜査で緊張して、そして色々と考えていたんだろう。彼はゆっくりしていると、うとうととして来たが、眠る前にパディントン駅に着いた。そして彼は目を擦り、荷物を持ってパディントン駅に降り立ったのだ。それから彼はパディントン駅の出口の傍の自動販売機で眠気を覚まそうと、ブラックコーヒーを選択して買った。彼は荷物とブラックコーヒーのカップを持って、エメットがパディントン駅に到着した時に、直ぐに分かる様に駅のタクシーなどが、停まっている所の傍の柱に立って待つ事にした。さっきエメットに連絡したから、少し長く待つ事になるなと、ルイス警部は思った。それで彼は柱の横に荷物を立てかけて置いて、ブラックコーヒーを少しずつ飲みながら、携帯電話で最近のニュースなどを読み始めた。エメットが四十五分位かかって、パディントン駅に来るだろうと思いながら、彼はゆったりと、電子ニュースで色々な分野の事を読んでいた。すると、あっという間に時間が過ぎて、JAGUARのXK8コンバーチブルで、色がトパーズの車のライトが、ルイス警部を照らした。そして運転席からエメットが、顔を出しながら、ルイス警部に「ここよ、待ったかしら、ルイス。直ぐにご両親の家に帰りましょう、色々とあっただろうから、話しを聴いて欲しいだろうからね」といった。ルイス警部は、嬉しそうに笑い、エメットに「ああ、エメット、待つのもそんなに、退屈じゃあ無かったよ。そうだね、両親の家に帰ろう。実はお土産もあるんだよ、楽しみだろ」といった。エメットは、にっこりしながら、ルイス警部に「さあさあ、早く車に乗って、急いで家族の元へ帰りますよ。荷物は後部座席に置いて、ルイスは私の隣に座って、少し話しをしながら帰りますよ、あなたが帰って来るのを心待ちにしていたんだから」といった。ルイス警部は、エメットに「ああ、そうする事にしよう」といって、後部座席の扉を開き荷物を入れた。それからルイス警部は、車の助手席に座った。エメットは、車の操作をしながら、ルイス警部に「ではご両親の家を目指して出発進行」といって、車を走り出させた。ルイス警部は、エメットに「うん」と頷いた。ルイス警部とエメットは、ゆっくりとルイス警部が、スペインで見たり聞いたりした事の話しをし始めた。二人が話しながら車を走らせていると、車の窓から見える景色が、スペインへ行く前に普通に見ていた景色で、安心感に浸っていた。ルイス警部はエメットとの会話の合間に、その景色を見て、ぼんやりとしていた。大分時間が経ったのか、車はルイス警部の両親の家に到着した。

 エメットは、器用に車を停車させると、ルイス警部に「さあ、着きましたよ、家族みんなで楽しくしましょうね」といった。ルイス警部は、緩んだ顔で、エメットに「良し、では家族みんなで過ごそう」といって、笑いかけた。ルイス警部とエメットは、車に載せている荷物を全て持って、ルイス警部の両親の家へと入って行った。すると、ルイス警部の両親が温かく迎えて、彼らはルイス警部の事を抱きしめた。アランが、優し気な眼で、ルイス警部とエメットに「二人とも今日は、この私たちの家に泊まって、明日自分たちの家に帰る事にすると良い、良いね」といった。ルイス警部は、アランに「ああ、そうする事にするよ、今日はとても疲れたよ。でも少し何か食事をしたいな、良いかい?みんなと少し話しをしたいんだ」といった。エメットは、嬉しそうに、アランに「お言葉に甘えさせて頂きますわ」といった。エレンは、ルイス警部とエメットの所へと進み出て「さあさあ、二人ともこっちへ来て、リビングでくつろいでいて頂戴、直ぐに美味しい料理を用意するからね」といった。ルイス警部とエメットの荷物は、アランがリビングの隣の部屋へと、持って行った。エレンが、大きな声で、ルイス警部に「仕事での色々なハプニングの事を、エメットやアランに聴かせてやって頂戴。その間私は料理の仕度をしますからね、そうすれば、私が料理で聴けない話しを、後からアランから聴かせて貰えるでしょう」といって、白い歯を見せて笑った。ルイス警部は、肩の荷が降りた様で、エレンに「ああ、分かった。二人によくよく話しておくよ、母さんは父さんから聴ける様にしておくね」といった。エレンは、慌ただしく手を動かしながら、ルイス警部に「それじゃあ、決まりね。楽しみに待ってなさい、エメットもですよ。ルイスから電話があって、ゆっくりと夕食を食べられなかったんじゃあないの。私に任せておきなさい、丁度良い量の美味しい料理を持って行きますからね」といった。それから直ぐにルイス警部が、エメットとアランに、スペインでの生活の事を話していると、エレンが大皿にたっぷりの、自慢の家庭料理を載せて、運んで来た。部屋中に、その料理の美味しそうな香りが、いっぱいになっているのだ。エレンは、にこにこしながら、ルイス警部とエメットとアランに「さあ、召し上がれ。あなたも良いのよ、食べて、アラン。その為に少し多めに作りましたからね」といった。アランが、顔をしわくちゃにしながら笑い、エレンに「ああ、嬉しいよ、エレン。本当に嬉しいよ」といって、自分用の小皿を用意した。ルイス警部は、エレンに「じゃあ、頂くよ」といった。エメットは、エレンに「私も早速頂きますわ」といった。こうしてルイス警部、エメット、エレン、アランは食卓を囲んで、一日の終わりを楽しく食事をしながら過ごしたのであった。


 この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る