第10話 昇天


 心地よい春風とともに僕は家のドアを後ろ手に閉めた。


「いってきまーす。って、え?」


 家の前には白いワンピースを着た美しい外国人女性が一人、腰に手を当てて立っていた。


「おはようございます」

「おはよう。いよいよね」


 今日から僕は高校生。そしてまた、今日は僕とガイアソフィア様の作戦開始の日でもあった。


「頑張ってきます!」

「私もついてくわよ?」

「え?」


 僕は電車に乗って、歩いて、入試の時に来た以来の高校へたどり着く。


 ガイアソフィア様が近くにいたことでだいぶやり辛かったが、入学式はつつがなく終わり、クラスの自己紹介も何ともなく終わった。


 次の日から高校生活がスタートした。周りにも一緒に話す友達ができて、楽しかった。その分ガイアソフィア様と話す時間が減っていった。


 学校が始まってから一週間。新入生オリエンテーションがあった。部活動紹介でオカルト部がないことを知った。どうやってガイアソフィア様の信者を増やそうか。


 結局僕は山岳部に入った。月に一度山行があるという。楽しみだ。


 僕はクラスの信頼できると思った友達をガイアソフィア様に合わせようと思った。ガイアソフィア様も賛成で、ゴールデンウィークに遊びに行く時に、紹介することにした。


 結果、みんな最初は驚きながらも、信じてくれた。「お前何者だよ」と言われたが、事情や経緯も話したら何とか納得してくれた。


 この話は学校中に広まり、ネットを介して話題になった。どんどんガイアソフィア様を知る人が増えていった。


「力を感じるわ」


 6月に入った頃ガイアソフィア様が言った。どうやら、彼女を知り、信仰する者が増えたため、その分力がついたようだ。心なしか最近ガイアソフィア様が透けて見える。


「ガイアソフィア様。最近透けて見えるのですが……。それに、声も遠くなったような」

「それは、私の波動が高くなってきた証拠よ。もうじき天界に戻れるかしら」

「……」


 僕は喜びの言葉をかける事ができない。きっと心のどこかでずっとそばにいると思っていた。でも違った。ガイアソフィア様は確実に天に戻られる。別れが来るんだ。


 さらに月日は流れ、ガイアソフィア様の声も姿も分からなくなってしまった。


 この思いは何だろうか。心の中にぽっかり何か穴が空いたような。せめて言いたかったな。「好きです」と。


 その時、部屋に飾ってあるパキラが風もないのに揺れた気がした。


 もしかして?と思った。


 パキラに向けて言った。


「ガイアソフィア様。お慕い申し上げております。どうか僕に声を聞かせてください」


 すると、胸が、心が、じんと暖かくなった。


 僕はこの観葉植物を掛け替えのない友達のように、好きな人のように、神様のように育てることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

地母神の苦悩 空色凪 @Arkasha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ