第46話 『でぃさいしぶ・ばとる!』

 先手を打ったのは、米沢だった。

(初日に龍崎と合流するまでにパチンコ店に行っていてよかったぜ。まだ弾はたっぷり残ってる。相手の能力はわからないが…そこはお互い様だ。)

 パチンコ玉を飛ばして爆発させる─いつもの戦術だ。

 ただし今回は、『無数の』がつくが。

(チッ…面倒そうな攻撃だな。最初っから全力で行かなきゃこりゃ死ぬぞ…)

 平は初っ端から『完成・純紅蓮パーフェクト・レッド』を発動する。

 ドドドドドドッッ!

 炸裂した爆炎を、平はすり抜けていった。

「はっ!炎に炎が効くわけねぇだろぉがよぉ!」

「おいマジかよ…じゃあこれはどうだ?」

 再び大量のが放たれる。

(今度は普通に貫く気だろうな。だが無意味!炎の肉体はありとあらゆる物理攻撃を無効化する。このまま突っ切って焼き殺し…)

「甘ぇよ」

(…ッ!?)

 ─平の体には、無数の孔が空いていた。

 咄嗟に平は横に走り出していく。

(こいつまさか…パチンコ玉はダミー。本命は弾丸にした空気!ヤツの能力は爆破と物体を放つ能力!後者はそれだけじゃねぇかもしれねぇが…ともかく、有効打があるなら迂闊には近づけねぇ。とっとと策を考えねぇと…)

 平の体がどんどん元に戻っていく。

(空気弾は効いた…ならこれで攻撃すりゃ良さそうだな。けど自己再生持ちってまたかよ…!?嘆いてる場合じゃねぇ。攻め手は緩めない。一気に畳み掛ける…!)

 米沢はそのまま、平を追いかけながら空気弾を連射する。

 ズンッガガガガガガ…

 逃げる方向に、標識がゆっくりと倒れ込んでくる。

(空気弾を放って倒したんだ…これで動きを封じる気か!)

(逆に折り返せば避けられる…が、既にそれには対策を打っている。)

 空気弾が数発、逃げる方向と反対側に爆発した。

 平とは、少し離れた場所だ。

(爆風で更に塞いだ。これで俺に逃げ場はねぇ…が、解は見えた。)

 平は自らの体を変形させる。

(嘘だろおい!)

 米沢は空気弾を爆破させて狙いを変える…が、平の方が速かった。

(俺は何も考えずに逃げ回ってたわけじゃねぇ。ヤツの周りを廻りながら、反撃をされにくく、かつすぐ攻撃できる場所をキープしてた。正直体の変形は賭けだったがな…)

「ぐっ…!」

 米沢は自分に力をかけて、後ろに逃げる。

 平はそれ目がけて、炎を放つ。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 米沢の肉体は、焼き尽くされていった。

「やれやれ、一応トドメは確認しとくか…」








(痛ぇ…最初は熱かったのに、今は何も感じねぇのが逆に怖い。俺はここで…勝つんだろ?ならまだ立てるはずだ。)

 米沢の心には、まだ幾分かの余裕があった。

(悪魔になるには…条件はいくつかあると見ている。一つは…強いエゴ、もう一つは…能力を使い込むこと。そう思っていた。けど、今ならわかる。最後の条件は…わらうこと。こんなゲームを企画してるぐらいなんだ、人間のことをゲームカセットぐらいにしか思ってないだろうよ。世界を『傲慢』に見下し、『怠惰』も、『憤怒』も、『虚飾』も、『嫉妬』も、『暴食』も、『色欲』も悦楽として『強欲』に消費し尽くす、食物連鎖の頂点となる。)

 ムクリと、米沢は起き上がる。

(こいつ…まだ生きてんのかよ!?)

(そうして初めて、俺は解き放たれるんだ、この『憂鬱』から!)

「そうだろ…アスタロトォォッ!!!」

 黒い何かが、焼死体になるはずの物体を染め上げていく。

 すぐに彼の姿が変わる。

 純黒は、鎧兜の姿を取った。

 まだ力が不完全だからか、彼の影はひたすら揺れている。

「人間やめて…どんな気分だ、おぉ?」

「…サイコー」

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