第39話 『ざ・えぼりゅーしょん!』

 卯月は周囲の瓦礫を持ち上げて、十文字に投げ飛ばす。

(新生した奴のスピードは驚異的だ…!まずは動きを封じて…!)

「いい足場だね」

 十文字は瓦礫に乗って飛んでいく。

(…無駄だ!電撃は既に透過の用意はできている!)

 しかしそんな車田の予想は、信じられないような現象に遮られる。

 十文字の腕が触手へと変わり、卯月達を襲う。

 絡みついた触手は卯月に跳ね飛ばされるも、どんどん攻め込んで来ていて切りがない。

 車田が、引き剥がされていく。

「…まぁこれは事実を述べてるだけなんだけど、君は私には勝てないよ?」

(まずい…!車田が引き剥がされれば電撃を透過できない!)

 車田を引っ張り返して助ける。

 車田を奪い返したものの、卯月は触手の力が少しずつ強くなっていっていることに気づいた。

「こいつの触手!強化されて行くぞ!」

「お?それに気づいちゃうなんてやるなぁエリート君は、食べちゃいたいぐらい惚れそうだよ!」

「悪いが…私はここでは止まれないのだよ!」

 直接殴るために卯月は接近するも、容易く躱されていく。

「卯月ッ!短期決戦だ!」

「あぁ…やむを得ない。だが契術は使えない!を使用する!『狂歌ハイドープ』ッッ!!!」

 卯月の肉体がどんどん、鉄のようなものです覆われていく。

「ほーう?」

(この力を使えば防御力だけではなく、およそ10分間自身の能力を更に強化することができる…!ただし反動はもちろんデカい。あまり使いたくなかったが、やむを得ないだろう。)

「さぁ、第2ラウンドだ…!」

「オッケー!」

 卯月は迫りくる触手を掴んで引っ張る。

 十文字の体が、引きずり込まれていく。

「お、おぉ…?」

(パワーアップしてるね…これはまずい。いくら一分一秒ごとに強化されていくとはいえ、私が死ぬまでに進化しきれないよぉ…!)

 十文字は触手から振り回されて、投げ飛ばされる。

 ドンッ!

 そのまま壁に激突する。

(傷があまりついてない。皮膚を硬質化させてダメージを減らしているのか…!)

「なるほど…インファイトじゃなきゃダメっぽいね。」

 十文字が全速力で、後方に回り込む。

(車田狙いは変わらなさそうだな。だが、その程度読めてる…故に、対処は容易!)

 卯月はとんでもない勢いで振り向き、十文字に殴りかかる。

 ボスンッ!

 十文字に、殴打が炸裂する。

「うぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 ドダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!!!!!!!!!!!

 更に殴打の連続。

 十文字の体が、どんどん歪んでいく。

(よし、これで…!)

 ─ニタリと、十文字が笑う。

「つかまえたぁ」

 十文字の腹から生えた触手が、卯月の体を腕から包み込んでいく。

「…ッ!?」

 振り解こうとするも、さっきよりも強い力にたじろいでしまう。

 それが、十文字に付け入る隙を与えた。

 ジュッ!

(熱い…!肉が溶かされている!)

「うぅ…痛くしちゃうね…本当に…ごめん…。でも大丈夫!電撃は流してるから!透過解いたら楽に死ねるから!お願い、そうして!」

(体が抜けない。防壁がどんどん剥がれていく…!もがけばもがくほど、どんどん吸い込まれていく。まるで底なし沼のようだ…。)

「卯月、使え!」

「…ッ!でも、そしたら車田が…」

「一人死ぬか二人死ぬか…悩む必要あるか?」

「…すまない」

 次の瞬間、十文字と車田の体が震えだす。

「がっ…!」

「な…何をしたのかな…?」

「ここいらの気圧を急速に下げている。もうそろそろ『0,1』といったところだ。一括でしか操れないのが難点中の難点だ。私は身体強化で耐えられるが…できれば、コレを使いたくはなかった。」

「ははっ…!凄いね…君…?」

 拘束が更に激しくなる。

「でもねぇ…私の加護は『適応』!例え気圧下降でも、今の進化したこの能力なら、死ぬまでに耐えきれる。ごめんねぇ!」

「…別に、それでも問題はない」

「!?」

「戦いでも飲み物ぐらい…持ってきてるんだぞ?」

「そ…それはっ!?」

 卯月は自由な方の腕で鞄からペットボトルの緑茶を取り出す。

 ─ペットボトルが破裂して、緑茶が十文字に飛び散る。

「…!」

(ダメージはないだろう…だが、これで目を潰せた。)

 そして、そのままの腕で十文字の体に人差し指を突き刺す。

(身体強化、部分解除!)

 次の瞬間、気圧差で人差し指が破裂。

 脳を、一瞬で貫いた。

 ─すぐに減圧を解除する。

 車田は、事切れていた。

(よく…頑張ったな。)








「およ?私死んじゃったぽい?」

 白部屋。

 十文字の目の前には、アスモデウスがいた。

「その通りだ。即死では、流石に『適応』の対象外だったな。」

「そうなんだー。まぁどうでもいいけど。この世の未練なんてもっとヤりたかったぐらいだしさぁ。そうそう…私どうなんの?」

「君のような人間は実に希少だ。よって…」

 カードの中に、十文字の体が吸い込まれていく。

「あぁそゆこと?時々は出してほしいなぁとだけ、あ、一発ヤ…」

 完全に吸い込まれていった。

「最後まで…変わらなかったな。」

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