第32話 『ぶらっでぃ・まりー!』

 宮藤は血を大量に使用して壁を創り出す。

(マトモにやっても勝ち目はないと見て目潰しに切り替えた…?でもそれなら!)

 ジェシカはビームを米沢の方向に放とうとする。

 ─が、その瞬間無数の血の刃がジェシカを襲う。

 ジェシカはビームで血を薙ぎ払うも、米沢への攻撃はできなかった。

 それどころか、頬にかすり傷をつけられてしまう。

 だが攻撃は止まない。

(目にも留まらぬ速攻のせいで攻撃ができない…落ち着くのですジェシカ・ファナティカ。相手は一人。しかも後ろの味方を庇いながらの戦い。有利なのは圧倒的にこちらの筈…なのに何故。)

「あぁ…揺さぶりに種明かししてまうと…蓄電器見てわかったわ。あんたのもう一つの能力は機械を自由に操作すること。車に空飛ばせてたんも見るに、おそらくかなりの応用力はあるな。」

「…えぇ、その通りです。」

(こんなに怯えているの?)

 一つ…また一つ傷が増えていく。

(恐れちゃダメ…!この際多少のダメージは覚悟しよう。恐怖を覚えるなら、その元を潰すしかない!)

 ジェシカは米沢を諦めて、宮藤にビームを放つ。

「単調な攻撃やのぉ」

 宮藤はビームを回避する。

 ジェシカもそれを追うも、まるて動きを先読みしているかのように宮藤はスルリとビームを抜けていく。

 しかし決して近づかない。

 その代わりに、血を只管ひたすら飛ばしてくる。

 再び米沢に照準を戻すも、血の直接攻撃でビームを逸らされる。

(キリがない!一つ一つは小技なのに、何でこんなにしぶといの?彼女には…何が見えてるの?わからない、わからない、わから…)

「げほっ…!ごほっ…!」

 思わず口を手で抑える。

 口から離した瞬間、ジェシカは驚いた。

「血ッ…!?」

「あぁそろそろ効いてきましたか。この血液、ぜーんぶ青酸カリトッピングしてますねん。注射やから、効き目も早いはずやで。」

「そ、そんな…!……殺す、殺す殺す殺す殺す殺…」

 ザシュッ!

 ジェシカを血の槍が貫く。

「がっ…あっ…」

「温い、温いねん、あんたの言葉は。貰いモンの玩具おもちゃ振り回すにも、それなりの覚悟が必要やねんで。あんたの敗因は、それを理解わかっとらんかったことや。」

(違う!私は覚悟してる!救われるために、神のために!どんなことでもしてみせる!)

 ふとお天道様を向く。

(…見つけた。天運、来た…!僥倖!私はやはり神に愛されている!)

「み…のがし…て…」

「なんや、まだ生きとるんかいな。」

 宮藤はとどめを刺そうと構える。

「さ…もないと…!」

「…ッ!?」

 ジェシカは上に指を指した。

 宮藤は空を一瞥…できなかった。

 旅客機が、落ちてくる。

「あは、あは、あはは!あっははははは!裁かれよ咎人共!貴様らに救いはない!その生は正に空虚、空虚、空虚!ただ地の獄へと堕ちていくのみ!」

「おどれ…、道連れにしようってことか!」

「道連れェ?ふふっ、何を言っているのでしょう。私には神の加護がある!」

 ジェシカは目を輝かせて言った。

「貴様らの様な下劣な恥知らず共に私が殺されるはずがない!私は神に選ばれた!そう、聖なるモノであり救世主!総ての人間が私の下神を崇拝する世界は、審判の日は、もうすぐ訪れ…」

 ザザザシュッ!

 ジェシカは、滅多刺しにされて事切れた。

「畜生、どないしてくれんねん!ウチの力じゃ流石にどうにもできひんぞ!」

「う、うう…」

 米沢がようやく目を覚ます。

「このお寝坊さんのど阿呆!もうイカレ女は倒したけど余計ピンチや!」

「…あぁ、どうやらそのようだな。…でも、大丈夫だぜ?」

 旅客機が少しずつ大きくなってくる。

 ちょうど自分達の頭の上に落ちてくることを、宮藤が理解したその時だった。

 米沢は右手を挙げる。

「今なら何でも、できる気がする。」

 伸ばした手を左に振る。

 旅客機が、あらぬ方向…いや、振った方向に飛んでいった。

「…覚醒ってのは寝て起きたらできんのか?」

「その間に変な夢を見るけどな。」

「うわぁぁぁぁん!最高にカッコいいッスよぉぉぉぉ!!!」

 アスタロトが現れて、泣きながら米沢に擦り寄ってくる。

「ち、近いって…!」

「やっとこの域に来たんッスね!いやぁ…米沢ちゃんならできるって信じてたッスよ!もうホント最高ッス!」

「…いや、まだだ。」

「…!」

「この先に、俺は進みたい。…俺の目標が少し変わったかもしれない。まぁ皆には関係ないから安心しろ。」

「…ならえぇわ。イチャイチャはそこまでにして、はよ龍崎迎えに行くで。」








「ここは…もしや神の世界!?あはっ…私はとうとう天国に迎え入れられたのですねぇ。」

 ジェシカは恍惚とした表情を浮かべる。

「…あぁ、私はとても憐れに思うよジェシカ・ファナティカ。君のような人間はまことに…救いようがない。」

「ほぇ?」

「…まぁ君には特に思い入れもないし、嫌がらせをする趣味も私にはない。まぁ雑に消えてもらおうか。」

「え…えっ…?」

 ジェシカの体が透けてなくなっていく。

「なんで!神様は私を…!」

 すぐに、呆気なく消えていった。

「あ、ルシファーちゃんお疲れッス!随分と優しいッスね!」

 アスタロトが現れる。

「私は興味のないモノには優しいからね。」

「興味があるものにも大概優しいと思うンスけどね…。それより、米沢ちゃんが…」

「また彼の話か。君は彼に相当お熱なようだね。」

(米沢乱流…だっけか。心底同情するよ。君が幸せになるには勝つしかないのはそりゃそうだけど、君の場合は尚更…)

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