第31話 『まい・おりじん!』

 ジェシカは二歩、歩み寄る。

 無数の光球がジェシカと米沢の周囲を覆う。

 そして、光球はそれぞれビームで連結した。

「わざわざリングを作ってくれたのか?ありがたいな。」

「主は言いました。殺せる時は確実に殺せ、と。これは『黄金聖典』第78章25節にある伝統的な決闘方法を、擬似的に再現したものです。上も塞ぎましたし、もう貴方は闘うしかないですよ。」

「じゃあ…そろそろ決着つけるか!」

 ジェシカは無数の光弾を生み出し、そして撃つ。

 普段なら米沢はこれを容易く躱せる。

 だが、空に逃げることができないというハンデは、彼にとってあまりにも大きかった。

「ぐっ…!」

 一発、左肩に命中。

 米沢も黙ってやられっ放しではいられない。パチンコ玉を放つも、ジェシカが手元に残していた予備の光弾に阻まれる。

(チッ…!そもそもこの能力自体かなりバランスがいい。光弾やビームは攻防一体。その上これだけの量を使いこなす。練度も相当なものだ。)

 ジェシカはダメ押しにビームを放つ。

 避けようとするも、光弾が既に自らの周りを囲んでいた。

「…避けられない、な。」

 唾を飲み込む。

 米沢は光弾の方向へと突っ走って行った。

 当然、体が焼かれる。

 米沢は痛みに退きそうなのを何とか抑えてジェシカの方へと飛んでいく。

 そして、ジェシカの目の前まで来る。

「アディオス」

 米沢の蹴りが炸裂しようとした、まさにその時だった。

 ジェシカが鞄から何かを投げる。

(これは…蓄で…!?)

 米沢は急いで方向転換するも、蓄電器の中から放たれた電撃は彼に命中した。

「ぎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 壁際の地面に倒れ伏す。

「やれやれ…、この手を使わせるとは。蓄電器壊れちゃうからもう使えないんですよ?」

 一歩ずつ、近づく。

 止めを刺しに行ったか確認しに行くのだ。

「今の声…!米沢ッ!?」

「おっと…、ここから先は一歩も通さないぜ!」

 宮藤も先程から攻撃を試みるも、全てブラックホールに吸い込まれている。

「ははっ、お前は誇っていいぜ?この俺のができたんだからなぁ!」

(……………はぁ、抑えとったけど、ここが限界か。)

 側溝から大量の血液が武丸に飛びかかる。

 武丸はいつも通りブラックホールに血液を吸い込ませる。

 大量の血のカーテンが漸く晴れた時、宮藤がすぐそこまで迫っていた。

(なるほど、直接攻撃を試みたか…、だが甘いぜ!俺のブラックホールは対象を途中で変えることができる!吸い込むのはもちろん、おま…)

 武丸…いや、米沢にトドメを刺そうとしたジェシカすらも思考が止まる。

 純粋かつ、圧倒的な恐怖が、そこにあった。

 その間隙を、宮藤は見逃さない。

 ザシュッ!

 血の刃が武丸の額に突き刺さる。

「あっ…」

 武丸はそのまま動かなくなった。

 しかし宮藤はそれを気にも留めずに、米沢に血液を放つ。

 宮藤は急ぎ光弾を放つも、血液のバリアがそれを阻む。

 宮藤が来る。

 米沢の前に立ち塞がる。

 ビームによる火傷も、ほとんど見当たらなかった。

 目がギラギラ光る。

「あなた…一体何者なんですか!?」

「んなんどうでもええやろ。それより…はよやろうや、続き。」








(ここは…?)

 目を覚ますと、そこは白い部屋。

 頭には、白いもやのようなものがかかっている。

(俺は…死んだのか?まぁ十分楽しんだし、できることは全部やった。もう後悔は…)

「本当に?」

 声が聞こえる。

 振り向くと、7歳の自分。

 非日常への憧憬の象徴。

 その瞬間、米沢は自らの原点を想起する。

 小学一年生の頃、米沢は初めてテストで100点を取ったご褒美に、新作のRPGを買ってもらった。

 内容は如何にも子供向け、といったもの。

 陳腐なストーリー、テンプレ通りのキャラ、単純な勧善懲悪。

 だがそのどれもが米沢の目を輝かせるのに十分だった。

 やがて米沢は退屈な現実と違って刺激的で、自身を楽しませるフィクションの世界にのめり込むようになった。

 しかし、それでは渇きは満たせない。

 大人達は、皆須すべからく現実を見ろと言ってくる。

 ウザかった。

 そんなの夢を見れないカス共の僻みじゃないか。

 高校でオカルト同好会に入ろうとするも、親はうんとは言わなかった。

 彼の親は、米沢に真っ当な道を歩んで欲しかったのだ。

 皮肉にもそれが、彼の心を余計によどませることになった。

(アスタロトが俺の所に来た時…、何年かぶりに喜びを感じたんだ。そうか…、俺は目の前の命のやり取りに夢中で、大切なことを忘れていたんだな。)

 扉を開ける。

(俺は…前に進む。そして…全部、壊す。)

 自然と悪魔のような笑みが溢れてくる。

「本当に…素晴らしいッスよ。」

 アスタロトの声が聞こえた気がした。

 息を吸い込み、足を踏み出す。

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