第23話 『まーだーず・かるま!』

「…やるぞ。」

「うん!」

 米沢は目的地を視認すると、勢い良く飛んでいく。

(…急激な方向転換、何を企んでいる?ともあれやることは一つだけどなぁ!)

 巨人は米沢達を始末しようと我武者羅にテナントを振り回そうとする。

 ドゴォンッ!

 その時、ミサイルが巨人の足に命中する。

「うっ…テメェ…!」

(簡略化したとはいえ、戦闘機の操縦をしながらミサイルを創るのは難しいな…、ともあれこれで敵は膝をついた!協力者達が何か考えてるみたいですね…頼みます!)

 巨人が怯んでいる隙に、目的地の間近まで接近する。

「そこの戦闘機ィ!乗せろぉぉ!!!」

「…わかった」

 地面と平行になった戦闘機の真上に、米沢と龍崎が飛び乗る。

「よし、タイミングは私に合わせて!」

「あぁっ!」

 龍崎は巨大な氷の槍を生成する。

 そして、米沢がそれに『力』を加えた。

(俺の『力』がかかっている間には他の力は適用されないという特徴がある。パチンコ玉を撃っても落ちていかないのはそれが原因…!)

 槍は真っ直ぐ米沢の頭に向かう。

 巨人はそれに気づいて、手で顔を塞ごうとする。

 ─が、ミサイルのダメージで手が思うように動かない。

 グジャァッ!

 槍が巨人の顔に突き刺さった。

 ズンッドォォォ!

 痛みに耐えかねて、倒れ込む。

 そして、巨人の姿が縮んで、見えなくなっていった。

「や、やった!やったよ!」

「ふぅ、じゃあ一刻も早く宮藤の所に飛んでくか。」

 米沢と龍崎は南方へ飛んでいった。




「…よし、とりあえず戦闘機をどこかに降ろそう。」

「そうね、今のうちに巨人を始末できてよかっ…」

 その時、渋谷の戦闘機に、強い揺れが走る。その直後、急激に重力がかかった。

「渋谷さん!」

「…もしかして!」




「水のライフルってことで、いやぁ漁夫の利狙ってすみま千円!」

「狙撃が上手だな。どこで習っていた?」

「いやぁ昔ちょっと、ね…。まぁ言っていいか。アイムコロシーヤ!」

「殺し屋?ふんっ…随分と頼もしいではないか。」

「任務成功率100%だからさ!期待しちゃってOK牧場よ。」




「渋谷さん!通信が、切れた…!」

 次の瞬間、合理の戦闘機にも揺れが走る。

(パラシュートを作れば…、いやこれは恐らく狙撃。的になるだけ…!)

 地面がどんどん近づいてきている。

(いつもそうだ、僕は危機に瀕すると途端に思考力が下がる…。でも、それじゃ駄目なんだ!それを言い訳にしても死ぬことは変わらない!僕がやるべきこと…それは!)


 戦闘機が、落ちる。

 その前に、彼は飛び降りる。

 ボヨンッダフッ

 地面に敷かれた大きなクッションが、彼の命を救った。

(クッション敷いたとはいえ痛いものだな…、いやいやそうこうしている場合じゃない!渋谷は…)

 反応は、消えていた。

「渋谷、そんな…!」

 思わず声が出る。

(…ここはいつ狙撃が来るかわからない。音無の所に、向かわなくちゃ。)

 哀しみに打ち拉がれた体を無理矢理押して、音無を目指して行く。

 落ち込んでいる場合ではない、何としてでも気を紛らわせようと試みる。

「ねぇマモン」

「はい、何でしょうか。」

「悪魔って…死ぬの?」

「死という概念は、実体を持たない私達には適用されません。まぁ…魂を破壊されるとどうなるかわかりませんが。」

「魂?」

「えぇ、悪魔は魂のみの存在でございます。貴方達にも魂はありますが…、ここからは難解になりますので省略致します。端的に申しますと、レベルが違うということでございます。」

「…凄いんだね、悪魔って。」

「ふふっ、お褒め頂けるのは有り難いですが、程々にしてくださいませ。万が一その気になってしまうと大変なことになりますよ?」

「大変なこと?」

「悪魔に魅入られた人間がどうなるか…。嫌われるよりも遥かに恐ろしいことになるでしょうね。」








「ここ…は…?」

 犬神はようやく外を見た。

 倒れている珈砕を見て、彼女の敗北を知る。

「ぐっ…」

「珈砕…!」

「ハハッ…結局このザマか…!俺様はもうダメだ…。」

「一つ、聞きたい」

「早くしろ…」

「お前は楽しんでいたか?」

「んな訳ねぇだろ、命のやり取りだぞ…。まぁでも、護る人が俺様のファンってのは…悪くなかったぜ…」

「それだけ…か?」

「あぁ…、がっ…!勝てよ…犬神!」

「…わかった」

(奴らは皆私の栄光の踏み台に過ぎない。そう思っていたが…どうやら私にも仏心はあったらしい。)

 珈砕は息を引き取ったが、犬神は前を向く。

 感じたことのない高揚感が、そこにはあった。








「音無…」

 渋谷は、廃れた街の真ん中に佇んでいた。

 戦闘機が落下した際、音無は自身と渋谷の位置を入れ替えていたのだ。

「悲しんでる場合じゃない。」

 渋谷は、不意に昔のことを思い出す。

 小学3年生の時、彼女に新しい父親ができた。

 そこからは文字通り踏んだり蹴ったりの生活が始まる。

 それでも渋谷は耐える。

 ─あの時までは

 その日は、父は酔っ払っていた。

 口論の後、殴り殺された母を見た時に、渋谷の中で何かが切れた。

「お、おい…おい…、見たお前が悪いんだからな…!」

 足元が覚束なかったからか、父が転んだ。

 を、近くにあったからトロフィーで殴る、殴る、殴る、殴る、殴る。

 何回目からかはわからないが、彼は動かなくなっていた。

(久しぶりに思い出した。…いや、久しぶりって思う方が異常なのね。麻痺してなかった頃は毎日夢に出てき…)

 シュンッ!

 渋谷の刀が反応する。

 刀は、かすかに濡れていた。

「そんなバナナ!最強無敵の水弾を見ずに防ぐなんて!」

「自動反応系か…、ふん、良い契術じゃないか。」

 前から冥崎が、後ろから保中がやってくる。

「結局、私は人殺しの宿業からは逃げられないのね。」

 保中の目つきが変わる。

「殺す殺すねぇ…、簡単に言うなよな。」

「お生憎様、私は経験者よ。」

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