剣神プロデュース 〜北の剣神がアイドルたちを鍛えるようです〜

ぽち

アイドル資格試験編

第1話 北の剣神と呼ばれる男

 俺の人生は運が悪かった。


 だが、別にそれを恨むことはない。運が悪かったからこそ、それを打破する為に力を望み、力を手に入れてきたのだ。


 だから、文句を言うのはお門違いだ。


 むしろ、不幸は俺を成長させる糧であった。だから、自分の体質を呪ったことは一度もない。


 だが、やはり、心の中で何かしら思うところはあったのだろう。


「お主の寿命の蝋燭を間違えて消してもうた~! ゴメーンね! てへぺろ♪」


 禿頭に立派な白髭の『自称神様』の爺にそれを言われた時、俺は思わず爺を殴り倒していた。


 俺は悪くないと思う。


 ★


 爺は本当に神様だった。


 暴力に怯えながらも爺が説明するには、俺の生命が失われたのは不当な処理によるものであり、予定には無いものだった為、生き返らせてくれるという。


 実に神様っぽい。


 普通なら爺に感謝すべきところなのだろうが。


「ほれほれ~♪ 儂に感謝せぇ~♪」


 なんだろう。非常に感謝したくない。


「そういう時は、思ってても口に出しちゃ駄目じゃぞ?」


 口に出ていたか。すまん。


「まぁえぇぞ。それで、今度はどこに転生したいか決めるかの」


 それだったら、地球の中でも超大金持ちの息子として生まれ変わらせてくれ。人生イージーモードで生きたい。


「ん? 地球には生き返らせられんぞ?」


 え?


「儂のミスを隠蔽するため、お主の輪廻登録を地球から切ったぞい! メ~ンゴッ! グハビュ!?」


 思わず手が出てしまったが、俺は悪くないと思う。


 ★


「す、すまん。調子こいたのじゃ。なので、痛いのは勘弁して欲しいのぅ」


 爺は神様のくせに喧嘩が弱い。


 というか、武神じゃなくて創造神なので、そっち方面はからきしだそうだ。


 俺だって別に弱い者苛めがしたいわけじゃない。とりあえず構えを解く。


 爺はあからさまにほっとした様子で、俺に紙を渡してきた。そこには、細かい質問事項が色々と載っている。


「元の世界には蘇らせられんから、そのアンケートに転生したい条件を書いちくり~」


 爺のウザさに辟易としながらも、俺はアンケート欄に目を通す。前世で散々不幸だった俺は、こういった契約書類は必ず全て目を通すようにしている。そうすることで騙される確率がかなり下がるのだ。


 アンケートには転生先の条件が記載されていた。


 なんだこれ?


 出自とかだけじゃなく、剣と魔法のファンタジー世界への転生も選べるのか。


「腕っぷしに自信があるのなら、そういう世界がオススメじゃぞ!」


 別に腕っぷしに自信があるわけじゃないが、魔法は気になる。


 使えたら不幸な局面も武力で打破しなくて良くなりそうじゃないか。


 俺は剣と魔法の世界を転生先に選ぼうと思う。


 後は、生まれの家をどうするかだとか、チートスキルはどうするかだとか、転生後の記憶覚醒のタイミングはどうするかだとか、面倒臭い質問に適当に答えていく。


 最終的には、剣と魔法の世界で、そこそこの貴族の次男坊として生まれることにした。王族に産まれようとしたが、爺が言うには権力争いとか色々と面倒臭いらしい。


 そういうのは、俺も願い下げなので、あまり権力争いに関係のなさそうな、それでいて生活に困らなさそうな無難なところを選んだつもりだ。


 チートスキルは良く分からなかったので、爺に聞いてみたら「物騒な世界じゃし、【闘神】とか持っていけば良いんじゃないかの?」とか言っていたのでそれにする。


 【闘神】は戦闘に関するスキルのレベルが軒並み上がりやすくなるスキルだということなのだが……。


 というか、待て。……レベル?


 レベルという言葉に違和感を覚えたので、爺に聞いてみると、ゲームで良くある経験値方式のレベルアップ制度が、その世界には実在しているとのこと。


 技能の熟達も肉体の成長も全部経験値方式のレベルアップなのだとか。


 なんだそれ。


 地球ルールガン無視か。


 ヤバい。慣れるか不安だ。


「それじゃあ、そろそろやるかのう」


 ある程度、爺に異世界に対しての講習を受けて、ようやく準備が整ったところで、いざ転生。


 次に記憶を思い出すのは、七歳になった時だ。その時までに死ななきゃ良いが、初異世界なので不安だ。


 ★


 七歳になった俺は全てを思い出した。


 俺の名は、ディオス・マグマレイド。


 マグマレイド伯爵家の次男坊だ。


 兄貴と剣の稽古の最中、兄貴が思い切り俺の頭を木剣で叩いてくれたおかげで、前世の記憶が蘇った。


 とはいえ、兄貴に感謝することはない。


 この小心者は、俺に家督を取られるんじゃないかと疑心暗鬼に陥って、事あるごとに俺に対して酷い苛めを行ってきたのだ。


 こんな状況で兄貴に感謝できるほど、俺は人間が出来ていない。


「どうした、ディオス。もう終わりか?」


 俺に泣きわめいて欲しいのか、兄貴は得意顔だ。


 いつもなら、ここでズルいだの、年齢が違うだの、小賢しい理屈をこね回す俺だが、今の俺は違う。


 傍らに落ちていた木剣を拾って、静かに構える。蜻蛉の構えでぴたりと止まる姿は、見る者が見れば堂に入った構えであろう。


「何だよ、変な構えしちゃってさ!」


 兄貴はそんな俺を馬鹿にする。


 この世界の剣術は力でぶっ叩くのが主で、技術なんていうものは二の次なのだ。


 それというのも、人間が敵対しているのが魔物と呼ばれる人外の存在だからである。


 そんなもの相手に対人の技術など通用しようもない。


 だからこそ、より早く駆けて、より強くぶっ叩く技術ばかりが流行る。


「怖いのか?」


 俺が挑発すると、兄貴は顔を真っ赤にして罵声を喚き散らしながら、俺に突っ込んでくる。


 ――俺は兄貴の剣を軽く逸らして、ボコボコにしてやった。


 ★


 俺はどうもやり過ぎたらしい。


 前世で覚えた剣術で色々とムカつく奴らを派手にぶちのめした結果、英雄扱いされてしまった。


 そこまでは別に良い。


 だが、第二王子をぶっ飛ばしたのがいけなかったのか、俺は王命を受けてしまう。


「悪竜の塒に潜む邪悪竜を討伐せよ!」


 王城から持ってこられた羊皮紙ひとつで、俺の運命は決まった。


 いくら俺が腕自慢といえど酷くないだろうか?


 兵も軍も無しで、お前ひとりで竜を倒してこいと言う。


 これ、逃げても良いんじゃないか?


 でも、そうすると、父と母と妹に迷惑が掛かる。兄貴は別にどうでもいいが。


 仕方ない。何とかしてみよう。


 妹が泣きながら俺を止めるが、嫌がる妹にちょっかいを掛けてきた第二王子を暴力で何とかしてしまった俺の責任だ。妹を引き剥がし、悪竜の塒こと、北の森へと向かう。


 ★


 森の中の魔物は恐ろしく強く、そして狡猾だ。無傷で済むはずがない。しかも、病にでも掛かったのか、熱に浮かされてフラフラする。


 それでも、俺は気力を振り絞って奥へと進む。


 一週間くらいさまよって、ようやく邪悪竜を発見した。


 だが、まだ仕掛けない。


 生態を把握して罠に嵌めねば、アイツには勝てないだろう。


 必死で魔物を倒してレベルアップしながら、倒した魔物の肉を喰って生き延びる。相変わらず、熱で頭がフラフラするが、それも三週間が過ぎたあたりで治まった。


 爺との講習で聞いたレベルアップ酔いという奴が解消したのであろうか? それとも、魔物肉の異物感に体が慣れたか。何にせよ、そろそろ頃合いだ。


 俺は邪悪竜が好む魔物肉にキングベノムタランチュラの毒をこれでもかと仕込む。


 これを食べて毒が効いて、弱ったところで仕掛けよう。


 勿論、正面からは戦わない。少し怒らせるぐらいのダメージを与えて、罠を仕掛けた戦場まで誘導する。そこで、上手く罠に嵌めてボコボコにするつもりだ。


 これで上手くいかなかったら、どうしようもない。俺は食われるか、引き潰されて終わりだろう。


 最後に神にでも祈っておくか。爺、もう殴らないから力を貸してくれ、と。


 ★


 結論から言うと、討伐は成功してしまった。


 俺は邪悪竜の行動を制限する罠に嵌めた上でボコボコにし、最終的には毒で邪悪竜を殺しきった。そして、討伐の証拠として、竜珠というものを竜の体内から取り出したのだが、その際に大量の返り血を浴びてしまう。


 どうやら、それがまずかったらしい。


 俺は邪悪竜討伐から二百年経った今でも変わらぬ二十代の姿を保ち続けている。


 不老の呪い。


 どうやら、それが邪悪竜が俺に最後に残した呪いのようだ。


 なかなか厭らしいことをしてくれる。


 だが、これは逆に時間ができたと考えよう。不幸を乗り越えるには、体力と前向きな思考が必要なのだ。負のスパイラルに陥ってはいけない。


「剣聖様、どうかいたしましたか?」


 俺は今では竜殺しの剣聖として、妹が嫁いだティムロード家に身を寄せている。


「何か悩み事でも?」


 妹の子孫の姫は、どこか妹の面影がある可愛い娘だ。彼女は物語の冒険活劇が好きで、歩く伝説である俺に凄くなついている。


「いや、時間もあることだし、剣や魔法の腕をこれまで以上に磨きたいと思ってな」


「剣聖様は、そんなに御強いのにですか?」


「果てが見てみたいのだ(キリッ)」


 俺はそんなことを言いながら、足繁く北の森に入っては研鑽を積む。やはり、魔物は良いレベル上げになるのか、俺の力が益々増大していく。


 ちなみに、剣だけでなく魔法も大分上手く使えるようになった。


 そのお陰で北の森の中でも、飲み水や住むところに困らなくなった。水魔法での飲料水確保と土魔法による拠点建築は便利だ。あと風魔法で空を飛んで、飛竜なんかとも斬り合える。魔法万歳である。


 そんな風に過ごして五百年。


 人間たちの地に初めて魔族たちが攻めてきた。


 ★


 魔族というが、元は同じ人間種である。人間社会を追われた荒くれ者共が魔物ばかりの土地で環境適応したのが、魔族という種である。


 元が荒くれ者なので、その行動原理は至極単純だ。


 殺し、奪うこと。


 やれやれといった感じだ。


 彼らは積年の恨みを晴らさんとばかりに、人間の領土を方々から攻めてくる。俺は北の辺境伯家に恩義があったので、北から攻めてくる魔族共に立ち塞がる。


 魔族は千人くらいで一群となり、ティムロードの町に襲いかかった。


 流石に人数が多いと俺も捌くのに時間が掛かる。味方に少しの戦死者を出しながらも、俺は魔族共を皆殺しにした。結局、魔族と言いながらも野盗と変わらん。こんな奴らに人権などないし、苦戦もせん。


 ちなみに、北の領地の被害は軽微だったが、南や東の都市は魔族によりかなり良いように荒らされたらしい。


 西の都市はドワーフや、エルフといった亜人種が多いのでどうにか対抗できたようだ。種族によるパワーと魔力は偉大だな。魔族もその恩恵を受けているせいで妙に面倒臭かったが。


「剣神様、どうやら王が異世界より勇者様を召喚することに決めたようです」


 今代のティムロード卿が物憂げに言う。


 いやそれ、異世界からの拉致じゃないか。


 まずいだろ。


「ですが、王が決めたことには逆らえず……」


 俺が行って、外界の魔族を滅ぼしてやろうか? 最近覚えた星霊魔法とか使ってみたかったし。


 ちなみに、星霊魔法とは精霊魔法の上位互換の魔法だ。星レベルでの天変地異を巻き起こす魔法である。ちなみに、魔法は魔術の上位互換であり、一般的には上位属性の魔術が使えるだけでもかなりの腕利きとされる。魔法が使えるのなら亜神か、大魔道士かといった具合だ。当然のように、先に出した星霊魔法など威力が強すぎて、満足に実験出来ていない代物である。今回は、それを確かめる良い機会ではあった。


「いえ、我がティムロード家の損害が軽微だった為、これ以上の功を上げるのはちょっと」


 活躍し過ぎても、他の貴族から疎まれるらしい。


 権力争いか? やれやれだ。


 というわけで、俺は北の大地の守護者となった。


 剣聖と呼ばれていたのも、いつの間にか剣神と呼ばれるようになっていた。


 そして、半年くらい、ちょいちょい現れる魔族をボコボコにしていたら、俺の元に勇者が現れた。


 勇者は日本人だった。


 ★


 勇者は弱かった。


 普通の兵士よりはマシだが、騎士団長クラスには負けるイメージである。


 こんなので魔族に勝てるのか? 甚だ疑問だ。


「えぇ!? 北の剣神様も元日本人なんですか!?」


「まぁ。俺はなんというか事故で転生した感じだ」


「ちなみに帰る方法とかは知っていたり?」


「考えたことなかったな。転生だし、転移じゃなかったからな」


「そう、ですか……」


「まぁ、異性の幼なじみ二人との異世界生活だろ? 楽しめよ」


「命の軽い世界っすよ。毎日が不安で全然楽しめないっす。それに俺、ドルオタなんで今更幼なじみに、何か特別な感情は抱かないっていうか……」


「ふーん。まぁ、愚痴る前に気配を察知する術を身に付けた方が良いぞ? さっきから彼女たち、こちらを覗いてるし」


「えぇっ!?」


「ゆーくん、ちょっとお話しようか?」


 勇者君はボコボコにされた。女のパワーはたまに恐ろしいな。南無。


 ★


 勇者君たちが弱すぎたので、俺が鍛え直した。ボコボコにしても、回復魔法が使えるので、すぐに元通り。


 勇者君も幼なじみちゃんズも、俺の凶行に最初は戦々恐々としていたが、一年もすると慣れたのか、今ではボコボコにされた後で平気で反省会を行う始末。


 とりあえず、全体的なレベルアップと何よりもタフさが手に入ったので、そろそろ魔族の領地に攻め込んでも良い頃合いだ。後は実戦でレベルアップするのみである。


「分かりました。俺たち、準備を整えたらすぐに旅立ちます」


 俺がそう言ったら、勇者君は何を思ったのか、早々に旅立つ宣言をする。


 どうやら、他の都市が魔族の侵攻を受けている間、のうのうと修行していたのが心に引っ掛かっていたそうだ。


 そういう意味でなら、彼は確かに勇者なのかも知れない。


 結果、勇者君は旅立ち、七年の歳月を掛けて過激派である魔王軍の第三魔王を討ち取り、魔族の侵攻を抑えることに成功。王国は束の間の平和を教授することとなった。


 勇者君は北の都市、ティムロードに定住。


 王国から貰った莫大な褒賞を元手に色々とやっていたみたいだが、俺はほとんど山に籠って修行をメインにやっていたので良くは知らない。


 だが、勇者君がわざわざここまで持ってきてくれた故郷の味を再現したおにぎりと味噌汁の味には感動した。思わず泣いてしまった。


 やはり、なんだかんだと故郷に未練はあったんだなぁと感じた日であった。


 ★


 勇者君の没後、暫くは勇者の子孫を名乗る輩が大量に現れたが、それも魔族の侵攻が激しさを増すに連れて減っていった。


 まぁ、勇者の子孫だって偉ぶっていると最前線送りになるのだから、下火になって当然だ。


 代わりに、今度は剣神が持て囃され始めた。


 まぁ、実際に俺がいるからな。


 そう思っていたら、どうも西や南や東にも剣神と呼ばれる存在が現れたらしい。


 どうやら、国は前回の魔族侵攻に反省して、強力な個の武力を東西南北で置くことにしたそうな。それが剣神と呼ばれる存在ということだ。


 国防の要となる人物たちだ。余程強いのだろうと思っていたら、第一回剣神会議とやらに呼ばれた。剣神たちの技術交流会らしい。面白そうなので参加することにした。


 だが、この剣神会議というのは名ばかりで、どうやら俺を倒すことで他の剣神の名を売ろうという企てだったらしい。


 勿論、全員ボコボコにした。


 結果、俺を除く剣神は真っ当な剣の腕では俺には歯が立たないと理解したらしく、変な流派に傾倒したようだ。


 南は剣の天才ばかりを金や権力を使って集め、剣士たちの街を築いて、そこで年がら年中試合をやり、今代の最強の剣士を決めているらしい(俺を除く)。今代最強の剣士が決まったら、歴代最強の剣士の奥義の数々を伝授して今代最強の剣士が更に新たな技を生み出し、奥義に追加していくのだとか。


 一子相伝ならぬ、天才相伝だ。


 天賦の才に重きを置く――それが南の剣神だ。


 そして、東はどうやら剣術に魔法を取り入れたらしい。普通は、剣術は剣術、魔法は魔法で考えるから、それらを組み合わせようと考えるのはなかなかにチャレンジャーだ。むしろ、今までのノウハウが全く通じなくなる可能性だってある。


 いや、逆に対応しようとする側にも経験がないのだから、俺に対抗しようとするのには正解なのか?


 まぁ、昔、俺も調子に乗って魔法剣をやった過去があるし、それに特化するのは別に悪いことではないはずだ。


 ただ、あれ、凄く武器が痛み易い。


 だから、非常に金が掛かる。


 森暮らしの俺には、ちょっと真似できない。その辺は素直に東の剣神は凄いと思えるのである。


 そして、西の剣神は技に磨きを掛けずに、武器である剣に手を加え始めたらしい。まぁ、剣神というだけあって、剣は大切なパートナーだ。技だけでなく、そちらに目を向けるのも良いことだろう。


 西の剣神はエルダードワーフだし、そういう方面は得意なのだろう。


 そんなわけで、剣神会議はいつの間にか俺をボコボコにする会というか、最強の剣士スタイルを決める大会となっており、それが昨今でも続いている形だ。十年に一度ぐらいの頻度で開催されているが、未だに俺に土は付いていない。


 そのせいか、今では俺が剣神たちのリーダーみたいな役割を任されてしまっている。


 そういう面倒くさそうなのは遠慮したかったのだが、適任がいないので仕方がない。早く誰かに継がせたいものである。


 ★


 そんな俺は久し振りに北の森の深部から北の大都市に赴こうとしていた。


 北の大都市ティムロード。


 妹の嫁ぎ先の家も随分と成長したものだ。俺としては白米と味噌汁がちゃんと食べられる店があるだけでも有難い。やっぱり故郷の味が懐かしくて、ついつい寄ってしまうのだ。


 そんな俺が北の森の入り口にまで差し掛かった時、何やら異変が起きていることに気が付いた。


 殺気立った柄の悪い連中がウロウロしているのである。


(殺気を漏らしすぎだ。魔物に勘づかれ……遅いか)


 前世で言うところのチンピラみたいな連中が、森の奥から現れた狼の魔物と邂逅する。連中は一瞬だけ怯むが、一頭だけだと思ったのか強気に戦闘態勢に入っていく。


 残念だったな。そいつは囮で本隊が裏に回り込んでいるぞ。


 やれやれ。


 寝覚めも悪いし、助けてやるか。


 顔は強面だけど、意外と良い奴らということもあるだろう。俺もイケメンではないから良く分かるのだ。人は外見ではあるまい。うむ。

 

 と、臨戦態勢に入ろうとしたところで連中が予想外のものを連れてきた。縛り上げられた銀髪紫目に褐色肌の子供――ダークエルフだ。


 人拐いか?


 見た目も悪く、やっていることも悪だとすれば、救われないぞ……。

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