第32話 借金 6794万4451ゴル

「そろそろ1階層も終わりね。」


ニクラスがシーカーズマップを見ると、確かに1階層はほとんどマッピング出来ているようだった。


「あ、こっちに細い道があるよ?」


「どこ?」


ニクラスが示す方へ行ってみると、確かに細い道がある。


「ほんとね。

 今まで気づかなかったわ。」


おそらくシーカーズマップがないと気づけないような道。


シーカーズマップはDランクダンジョンにくる冒険者が持っているようなアイテムではない。


気付く冒険者は今までほとんどいなかったのかもしれない。



「多分こっちが予知でみたところだと思う!」


マッピング出来ている部分が、予知の光景と重なる。


「ここにお宝があるのね!」



2人が期待に胸を膨らませて先に進むと、1匹のカエルが後ろ向きで座っていた。



「げ。」


「どうしたの?

 あのカエルなに?」


「ニクラス、引き返すわよ。」


「なんで!?

 ここでアイテムが手に入るんだよ?」


予知の光景は、まさにこの場所だった。


「あのカエルはフリカエルって言ってね。

 振り返った時にちょっとの間だけ冒険者の意識を朦朧とさせるの。

 その間に食料なんかを狙って、荷物を奪って逃げるのよ……。

 攻撃はしてこないんだけど、マジックバッグ失うのは嫌でしょ?」


「嫌だ。

 それは絶対に嫌だ。

 でも、予知では喜んでアイテム手に入れてたんだよな…。」


「Cランクの冒険者でも必ずその状態異常になるのよ?

 倒したって話は聞いたことないわ。

 あいつがいなくなったらこの辺り探してみましょう?」


「それがね?

 もうすぐアイテムを手に入れた時間になるんだ。

 いなくなる様子はないから、きっと倒したんだと思う。

 テレージアさん、マジックバッグ預かっててもらえるかな?」


「どうするの?」


「もしかしたら、影レオンみたいに自分よりだいぶ弱い相手なら逃げないのかも。」


「逃げなくても攻撃してきたら危ないじゃない!

 状態異常で動けなくなるのよ!?」



「ゲコ?」



つい大きな声が出てしまったテレージア。


フリカエルがこちらに気付いてしまったようだ。



「あっ!」



しまったと思った時にはフリカエルは振り返っていた。


その瞬間意識が朦朧として座り込むテレージア。


フリカエルがバッグを奪おうと飛び跳ねてくる。



しかし。




ズシュッ!




フリカエルをニクラスの剣が切り裂いた。


突然深く斬られ、動揺するフリカエル。


その隙にニクラスがトドメを刺した。



「テレージアさん、大丈夫!?」


「ん…。

 …もう大丈夫よ。

 

 ニクラス?

 どうやって倒したの?」


「あのカエルが振り返っても意識ははっきりしてたから、近づいてきたところを攻撃したんだ。

 なんで僕には効かなかったんだろう?」


「??

 なんでかしらね?」



実は、ニクラスの装備する “虹蛇の帷子” のおかげであった。


カエルは蛇を苦手としており、高レベルの蛇種のモンスターの装備をしていると無効化できるのであった。



「わかんないけど、予知通りってことかな?

 となると……。」


フリカエルをマジックバッグに収納し、ドロップアイテムを探すニクラス。



「あったーーーー!!!」



予知と同じブレスレットを見つけた。



「これは…、”タフバングル“ だ!

 装備したら体力が50増える!

 Dランクのアイテムだ!」


「よくわかるわね…。」


「タフバングルはね!

 このゴテゴテしたデザインが特徴なんだ!

 他にも同じような効果のバングルがあるんだけど、それは……」


「わわ!

 今は説明しなくて、大丈夫よ!

 早く帰らないと閉まっちゃうから、戻りましょう!」


スイッチが入るとずっと喋り続けてしまうので、説明はまたの機会にしてもらう。



ダンジョンから出て急いでモンスターを売却に行く。


「…お、今日はDランクダンジョンに行ったのか。」


違うモンスターだったことで、業者さんの目が少し生き返った。


トカゲたちを出し、最後にフリカエルを取り出した。


「…おお?

 これはまた珍しいな!

 持ち込まれたのは初めてだぞ。」


男の目に光が宿る。


「だがこれは…どれくらいの価値があるかわからん。

 ちょっと査定に時間をくれ。」


「えーと、ちなみに他のモンスターで買取額いくらになりますか?」


返済額に届かなければヤバい。


「…ちょっと待ってくれ。」



ニクラスとテレージアが待っていると、査定を終えた業者の男がやってきた。


「…42万ゴルだ。」


「じゃあ大丈夫です!

 ね?テレージアさん。」


「そうだね。

 それで構わない。

 よろしく頼む。」



こうして無事、今月分を返済することができたのだった。

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