第29話 借金 5374万3490ゴル

「っていっても、物はねえけどな。」



「「は!?」」



ニクラスとテレージアがハモる。


「騙したのか!?」


「おいおい、落ち着けよ。

 『今は』ねえってだけだ。」


「どういうことですか?」


ニクラスもちょっと殺気立っている。


アイテムのことに関して、彼に冗談は通じない。


「”シーカーズマップ” は数がめちゃくちゃ少ねえから確かに貴重だし値も張る。

 だが、最高級品は実は需要がそこまでないんだ。

 ダンジョンなら範囲なんてダンジョン内が表示されればいいし、町の外は既成の地図と照らし合わせればほとんど事足りる。

 バカたかい金額で範囲が無限になる最高級品を使う理由があんまりないんだ。

 だから手に入れてもすぐ売りに出されることが多い。

 逆にマジックバッグなんかは容量が少なくても、市場に出回ることはほとんどない。

 お前らのように、持っていれば圧倒的に稼げるからな。

 手放したい奴がいないんだ。


 俺の伝手を使えば…、まあ数日で情報を得られるだろう。」


「ほ、本当ですね!?

 嘘じゃないですよね!?」


「まあ絶対とは言えんが、なんとかなるだろ。」


「ニクラス、フリーダーは人柄は最悪だが、商人としては誰よりも信頼できる。

 父が言ってたから間違いはない。」


「それ、さっきも言ったよな!?

 2回も言わなくていいだろ!?」


「お願いしますね!?

 本当にお願いしますよ!?」


ニクラスはフリーダーの肩を掴んで揺さぶりながら懇願した。


「わ、分かった!

 分かったから話せよ!」


「あ…、すみません……!」


「ふうっ!

 お前アイテムのこととなると、急に性格変わるな!?」


「この子はアイテムマニアだからな。」


「ったく…。

 まあ、いいお得意さんになるかもな…?」


「いや、もう2度ときたくないぞ?」


「お前さんはな?

 だが、俺と坊主はいい関係を築けそうだ…。

 坊主、そう思わんか?」


「まだ何も買ってませんし…、わかんないです…。」


「ハハハっ!

 まあ確かにな!

 じゃあ見つかったら連絡する!

 どこに泊まってんだ?」


「『青い鶏亭』だ。」


「分かった。

 見つけたら使いをやるから、また店に来てくれ。」


「わかりました!

 よろしくお願いします!」


ニクラスが深々とお辞儀をしながらそう言って、2人は店を出た。




期待と不安に悶えながら待つこと3日。



宿に、ニクラス待望の連絡が来た。



「本当に!?

 Aランクのアイテムを3日で見つけたの!?

 すごすぎない!?」


「落ち着いて、ニクラス。

 まだわからないわよ。

 落ち着いて、ね?」


あまりにも期待しすぎているニクラスをなだめながら、2人はフリーダーの店に向かった。




「おう、汚職貴族と詐欺師。

 待ってたぜ。」


「その呼び方はやめろ。

 本当に3日で見つけたのか?」


「ああ。

 仕事に関しちゃ、俺は嘘は言わねえよ。」


「仕事に関しては、ね。」


「どこですか!?

 どこにあるんですか!?」


そんなことはどうでもいいとばかりにニクラスが急かす。


「ハハハ!

 よっぽど楽しみにしてたんだな!

 ほれ!」



フリーダーが一枚の地図をニクラスに渡す。



「こ、これが…!

 本物の ”シーカーズマップ” !?」


「本物の?」


「実は以前粗悪品を掴まされてな。

 3日で使えなくなったんだ。」


「それはひでえな。」


「これが壊れない保証はあるか?」


「基本的に高ランクのアイテムはそうそう壊れるもんじゃねえんだがな。

 低ランクの不良品を最高級品って騙して売ったんだな。

 見抜けねえ方もマヌケだぜ。」


フリーダーをギロリと睨むテレージア。


もっともニクラスは ”シーカーズマップ” を見るのに夢中で全然聞いていないが。


「それは俺がちゃんと確認したから間違いねえ。

 それよりも、代金はちゃんと払えるんだろうな?

 なんたって詐欺師だからな…。」


「心配するな。

 必ず払う。

 それで、いくらだ?」



「1500万ゴルだ。」



「え?」


「1500万。」


「1200万じゃなかったのか?」


「それはあくまで相場だ。

 俺が動いて探した手間賃なんかもあるからな。」


「そ、それは…。」


「今更いらねえってのはなしだぜ。」


「う…。

 ニクラス…。

 …ニクラス?」


まだ夢中になっていて大事な話も聞いていないニクラス。


「ニクラス!」


テレージアが大きな声で呼びかける。


「…あ。

 なに!?

 テレージアさん!」


満面の笑みで返事するニクラス。


「それ…、1500万ゴルだって…。」


「せ、せんごひゃ……!?」


「…どうする?」


「どうするって…。

 ……欲しい…。」


小さな声でボソッとつぶやくニクラス。


「…だよね…。

 フリーダー、ちょっと金借りてくる…。」


「ああ、金なら俺が貸してやるよ。」


「本当か!?」


「利子はもらうけどな。」


「もらうのか…。」


「とりあえず払えるだけ頭金払ってくれ。

 ちゃんと返せよ。」




こうして頭金70万ゴルを支払い、ニクラスの借金が1430万ゴル増えた。

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