第19話 借金 5080万8305ゴル

テレージアの家に抱え込まれたニクラス。



一言で言うと…、メルヘンだった。



モフモフのぬいぐるみがところ狭しと並んでいる。


「わあ、可愛いですね!

 こんなにたくさんすごい!」


「うぅ…。

 こんなガサツな女がいい歳して…、…変だろう?」


「全然!

 テレージアさんは綺麗でお若いですし!

 女の子ならこういうの好きですもんね!」


「お、女の子って…。

 私はもう27歳だぞ…。」


「え?

 もっと若く見えますね!

 ちっとも変じゃないですよ!」


「そうか…、変に思われなくてよかったよ…。

 じゃあすまないが、あの3人を衛兵に渡してくる。

 ゆっくり休んでてくれ。」


テレージアはそう言うと縄を手にして外に出て行った。


顔が真っ赤になっていたのは見間違いじゃないだろう。



1人残されたニクラスは城を出て以来のちゃんとした寝床に加え体のダメージもあり、すぐに眠りについた。





……。



…………。



(……いい匂いがする…。)



いい匂いとすごい空腹で目が覚めたニクラスは、体を起こした。


(ここは…。)



「お!

 おはよう!

 やっと起きたね!」


「テ、テレージアさん!?

 えーと、僕は…?」


「寝ぼけてるのかい?

 まああんだけ寝ればね。」


「……あ!

 すみません!

 いつの間にか寝ちゃってました!」


テレージアのベッドに横になっている間に寝てしまっていたことに気付くニクラス。


「なんで謝ってるんだい?

 寝てもらおうと思ってそこに運んだんだからいいに決まってるだろ?」


「す、すみま…、あ!

 ありがとう…ございます…。」


「そんな気を遣うなって!

 でも、あんまり起きないもんだからちょっと心配したけどね。」


「え?

 僕どれくらい寝てたんですか?」


「丸2日寝てたよ?」


「2日!?」


「ああ。

 今日起きなければ医者を呼ぼうかと思ってたとこさ。

 気持ちよさそうな寝顔だから大丈夫だとは思ってたけどね。」


「そ、それはご迷惑をおかけしました…。」


「何言ってるんだよ。

 これは私のお礼をさせてもらってるんだから。

 さあ、腹減ったろ?

 料理は苦手だから美味しくないかもしれないけど、ご飯食べよう!」


「テレージアさんが作ってくれたんですか!?

 ありがとうございます!

 実は…、お腹がペコペコです…。」


「はははっ!

 そりゃそうだろう!

 遠慮せずに食いな!」


「はい!

 いただきます!」


テレージアはニクラスと一緒にご飯を食べ、一息ついてから話を切り出した。



「…ニクラス、今まで大変だったね。

 …よかったら話を聞かせてもらえるかい?」


「…はい。」


ニクラスは今までのことをポツリポツリと語った。



特級職である【予知者】に覚醒して数日で国からお迎えが来たこと。


いろんな手を尽くしたけど、【予知者】の能力が使えなかったこと。


5000万という借金を抱えて両親と城を追い出されたこと。


首都の町の外れに寝泊まりしながら両親と暮らしていたこと。


冒険者とトラブルになり、両親が暴行を受けたこと。


その夜に、寝床が周辺ごと火事になり、両親を失ったこと。


それからニクラスも冒険者に暴行を受けたけど、それがきっかけで【予知者】の能力が覚醒したこと。


その能力で名も知らない冒険者から装備やアイテムを譲り受けたこと。


そしてこの町にやってきたこと。



テレージアは悲痛な表情でじっと聞いていたが、ニクラスに優しく声をかけた。


「勝手に迎えに来て、勝手に幻滅して、勝手に追い出したってわけだね。

 どうしようもない奴らだね…。

 それを信じてた私も同じだけどさ…。


 …1人でよくがんばったね。」


「でももっと早く覚醒してれば…、いや、【予知者】になんて覚醒しなければ…、父さんと母さんは死ななかったのに…。

 僕の…、僕のせいで…。」


それはずっとニクラスが胸の中に抱えている、重い重い枷。


両親が繋いでくれた命を守ることに必死で気付かないようにしていた枷が、安心したことによりニクラスのしかかってくる。


「僕のせいで!

 父さんと母さんが…!

 ごめん…なさい……。

 ごめんなさい!!

 うぅ…うっ………。」


張り詰めてた糸が切れたように、感情がぐちゃぐちゃになるニクラス。


むしろ1人で気丈に振る舞っていたのが異常だったのだ。


そんなニクラスを、何も言わずそっと抱きしめるテレージア。


ニクラスはテレージアの胸の中で、大声で泣き続けた。



ひとしきり泣き続けたニクラス。


泣き声は小さくなり、嗚咽が聞こえる。


喉が痛くなるくらい泣いても、ニクラスの気持ちはまだぐちゃぐちゃのままだった。



「ニクラス、あんたのせいじゃないよ。

 あんたの両親はきっと素晴らしい人だったんだろう?

 ニクラスを見てたらわかるよ。

 あんたやあんたの両親は真っ直ぐに、人として大切なことを忘れずにがんばった。

 

 だからニクラス、あんたが悪いなんてことは1つもない。」


ニクラスの反応はない。


「でもあんたは優しいから、自分を責めちゃうんだろうね。

 両親を守りたかったし、力になりたかったんだよね。

 両親を死なせたくなかったんだよね。

 それができない自分を自分で悪者にしちゃってるんだよね…。


 でも悪いのは、そんな優しいニクラスに酷いことを言った私みたいな人間だよ。」


ニクラスは力なく、かすかにだが、首を横にふる。


「…ありがとう。

 でもニクラス?

 どうか私にあんたへの罪を償うチャンスと、恩を返すチャンスをくれないかい?」


ニクラスの返事はない。


「お願いだよ。

 お願いだから、ここで一緒に暮らそう?」


ニクラスの嗚咽が小さくなっていく。


「…っく……ヒック……。

 ……レー……アさん……。」


「ん?

 なんだい?」


「……す……て………さい。」


「ゆっくりでいいよ。

 大丈夫だから。

 ゆっくり話しな…。」


「た……助け…て………ださ…い。」


「うん…。」


「助けて…ください……。

 独りは……いや…です……。」


「うん…うん…。

 あんたはもう、独りじゃないよ…。

 私がそばにいる…。

 大丈夫…。」


「う…うあああああ……!」



ニクラスはまた大きな声で泣き、そしてテレージアも涙が止まらなかった。


ニクラスはそのまま泣き疲れて眠ってしまった。



ニクラスに帰る家と、家族ができた。




〜第一章 完〜

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