第18話 借金 5080万8305ゴル
「終わったな…。」
テレージアはそう言ってニクラスの元に歩み寄った。
ニクラスの顔に緊張の色が浮かぶ。
今まで両親以外のほとんどの人間に【よた野郎】と呼ばれ続けたニクラス。
ついさっき自分のことを信じてくれ、行動でも示してくれた相手だが、本当に信じてくれたのかどうか不安になる。
テレージアはニクラスの目の前に立つと、鞄からポーションを取り出しニクラスに飲ませた。
傷が少し治ったが、骨も折れているようで、そこまでは治らなかったようだ。
「すまない、今はこれだけしかないんだ…。」
テレージアはそう言いながら頭を下げた後、ニクラスを強い目線で見つめながら再び声をかけた。
「…少年。」
「は、はい…。」
「…すまなかった!!!」
あっけに取られるニクラスをよそに、おもむろに土下座するテレージア。
「え?あの…。」
「私のことを助けようとしてくれた君に対して…、酷いことを言ってしまった…!
噂話を信じて、真実に目を向けようとしなかった!!
本当にすまなかった!!」
地面に頭を擦り付けて謝罪するテレージアに困惑し、うまく言葉がかけられないニクラス。
「あれだけの事をして許してくれとは言えない…!
せめて謝罪とお礼をさせてもらえないだろうか…!?」
「あ、あの…。
お、お願いですから頭を上げてください…!
別に怒ってないですから…。」
とりあえず土下座をやめてほしいニクラスはなんとかそう伝えた。
テレージアはなかなか頭を上げようとしなかったが、ニクラスの説得でお互いに普通に話せる体勢になることができた。
「改めて、本当にすまない事をした。
そして私の家を…、私を助けてくれてありがとう。」
ニクラスが立てない状態のためテレージアも座っているのだが、座ったままで深々と頭を下げながら心からの言葉を口にした。
「いえいえ!
結局止められなくて、テレージアさんが3人とも倒しましたから。
こちらこそ力不足ですみません。」
「何言ってるんだ!
君が教えてくれなかったら、私は家を失うところだった!
そうなればたくさんの物を失っていた…!
もしかしたらあの3人のパーティに入り、屈辱的なことをされていたかもしれない…。
君は、私の恩人だ!」
「そ、そんな…。」
面と向かって言われると恥ずかしくて、ニクラスは顔を逸らす。
「勝てたのもこの剣と盾のおかげだ…。
凄まじい性能だな。
ありがとう。」
テレージアは剣と盾をニクラスに渡した。
「はい。
僕はまだ使いこなせていませんが、大事な宝物です!」
「大事な宝物を私なんかに貸してくれて、本当にありがとうな…。
この町には両親と来たのか?
とりあえずは安静にしないとな。」
「じ、実は…、両親は死んでしまって…。」
「な…。
す、すまん…。
じゃあ、この町には1人で?」
「はい。」
「大変だったな…。
では…、お礼というか、お願いなんだが、せめて傷が治るまで私の家で看病させてもらえないか?」
「え!?
でも僕なんかを家に入れたら…、テレージアさんが…。」
「周りから何か言われるって?」
「…はい。」
「もともと私は周りからよく思われてないからね!
それに、陰口叩く奴らより、恩人である君の方が大事だよ。」
「で、でも!
それはこの人たちがテレージアさんの悪口を言って回ってたからじゃ?
この人たちを衛兵に渡して本当のことを言えば、誤解が解けるんじゃないですか?」
「…多分こいつらはデタラメを言って回ったわけじゃなく、私が隠してたことをどこかで知って吹聴したんだろうね。
だから誤解ってわけじゃないのさ。」
「か、隠してたこと?」
「まあとりあえず、家の中に入ってもいいかい?
怪我人を外に座らせたまま話はできないからさ。」
「ほ、本当に…、いいんですか?
…実は僕、住むところがなくて…。」
「なに!?
今までどうしてたんだい!?」
「この町では外れの方にテントを張って寝泊まりを…。」
「…11歳の子どもが1人で…?」
思っていたよりも過酷な状況で生きていたニクラスにショックを受けるテレージア。
「…テレージアさん?」
「…名前は?」
「え?
あ…、に、ニクラス…です。」
「ニクラス。」
「はい…。」
「私と一緒に住もう。」
「え!?
い、いやそれは申し訳ないですよ!」
テレージアがニクラスの両肩を掴む。
痛くないように気遣いながら。
「頼む。
私に恩返しをさせてくれないか。」
「で、でもそんな…。
絶対迷惑をかけてしまいます…。」
【よた野郎】と周りの人間から酷い扱いを受けてきたニクラスは、それにテレージアを巻き込むことになるのではないかが心配だった。
「ニクラスは頑固そうだからな…。
じゃあこうしよう。
ニクラスの傷が癒えるまで私の家に一緒に住んで、治ったらその後どうするか、改めて考えよう。
これだけは私も譲れないぞ?」
「…もし、迷惑がかかるようだったらちゃんと言ってくれますか?」
「大丈夫だ!
じゃあ、決定な!」
テレージアは剣と盾、イワトリのぬいぐるみを器用に持ちながら、ニクラスをお姫様抱っこした。
「わ!」
「あ…。」
「ど、どうしました?」
「家の中を見ても…、笑わないでくれよ?」
「はい?」
首を傾げるニクラスと、何かを思い出して恥ずかしそうなテレージアは家の中へ入っていった。
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