会いたくて会えなくて……フォーエバーラブ

モグラ研二

愛は、永遠……

《会いたくて会えなくて。切ない思いが募って、体が震える。心も震えて。寂しいよ。寂しいよって、毎晩泣いている……》


金髪ロングのマリは野球部の坊主マッチョのタカオが好きでタカオのチンポコを舐めたり入れたりしたいと思っているけどタカオはマリを好きではなくてタカオは軽音部のピアスしまくりのヨシアキが好きでヨシアキのチンポコを舐めたり入れたりしたいと思っているけどヨシアキはノンケだから別にタカオを好きではなく普通に友達としてしか見てなくてヨシアキが好きなのはライブ活動で出会ったガールズバンドのリーダーでスキンヘッドにしている痩せた女クラタセンホウでクラタセンホウのマンコやケツやおっぱいを舐めたりマンコにチンポコを入れたりしたい精液をマンコのなかに注いで妊娠させてやりたいと思っているのだけどクラタセンホウは別にヨシアキを好きではなくクラタセンホウはライブスタジオにたまに来るネットを使った音楽配信についての会社を経営しているコーン川内マクガルデスという男が好きであのたくましい肉体に抱かれたいデカいだろうと予想できるチンポコでマンコを貫かれたいと思っているけど50歳になるコーン川内マクガルデスには妻子がいて彼は妻子を心底愛していて好きだったからクラタセンホウなど眼中になく思いを告げられたときに正直にそのことを言ったらスキンヘッドで痩せ細った肉体のクラタセンホウはわけのわからないことを泣き喚きながらライブ中に急にカッターナイフを振りまわし始めて止めに入ったロビンソン淳一の眼球が両目とも切り裂かれ彼の世界からは永久に光が失われたのだった。


……光がない。


いつでも、光がなく、憂鬱な気分だ。


猫背で前を見ず下を向いている。


他人の顔を見るのが嫌なのだ。


他人はいつでも、眉間に皺を寄せて歯を剥き出しにし、攻撃的な表情で、憎悪をぶつけてくる。


それだけの存在だ。


だから他人の顔を見ないようにしている。


……人生に光などなく、嬉しいことや楽しいことなど幻覚であり、その辺で笑ったり楽しそうにしている奴らは全員薬でもやっているに違いがない。あんなに大声を出し、手を叩いたりして愉快そうに笑うのはありえない。普通に全員腕に注射の跡があるはず。薬でラリっているんだ。絶対そうだ。生きている限り苦しみは延々と続く。期待してはならぬ。何か希望があるとか自分にはもっといい未来があるとか、想像してはならぬ。それは自殺の原因になりかねない。人生への過度な期待は絶対にダメだ。糞にまみれながら蹲っているところを、散々に罵倒される。唾を吐きかけられて、死ね!と言われる。それが、人生だ。もう嬉しいことや楽しいことなど忘れたし諦めた。一人で、臭くて汚い狭い部屋で泣いていることが増えた。もう、全てがどうでもいいが、しかし泣けてくる。なぜ泣いているのか、わからない。睡眠導入剤、風邪薬を大量に服用し焼酎を一気飲みすればいいのか。しかし、ここの大家さんに迷惑をかけるのは、私の良心に反することだ。天井にハエが止まっている。休んでいる。あのハエは幸せだろうか。少なくとも私よりは幸せだろう。あぐううう、と私は発言する。そうして、私の肛門から汚物が放たれた。ベッドに仰向けのままだ。トイレには行かない。もう、それさえどうでもいいことだが、にわかに部屋中がウンチの臭いに満ち溢れ、不愉快な気持ちになる。こんな気持ちも感じなくなればいいと思う。


私の名前はタムラコウジさとる51歳。


25歳の時に発表した長崎の原爆投下への追悼を込めた第1交響曲ナガサキが日本有数のプロオーケストラ、奥田川フィルハーモニーの芸術監督アマデウス平田の目に留まり定期演奏会で演奏され大評判となり、マーラー以降最も重要な交響曲作家として地位を確立した。


以来、51歳になる今日まで、日本における芸術音楽の大家として生きている。


今日はそんな私の記念すべき第9交響曲が初演される日である。


タムラコウジさとる《第9交響曲》

大管弦楽と男女混声合唱、ロックバンド、ボーカロイド、顔だけ化粧した全裸の歌舞伎役者たちによる、史上類を見ない大交響曲。


《全ての人類が手を繋ぎ合い、差別のない社会、微笑み合い、平和を賛美する社会が実現した理想のイメージを音楽化したものである。》


《希望を感じて欲しい。明るい未来を感じて欲しい。私の天才によって実現した音楽を凄い有難い、聞けて感謝の思いが泉のように湧いてくるとか、拝み続けてますとか、とにかくこの最高に明るく希望溢れる音楽に感謝して欲しい。》


《分断が進んでいく現代社会において、全ての人々が手を取り合い微笑み合うイメージは何より大事。この交響曲は後半がコーラスになっているのですが、歌詞はとにかく「手を繋ごう!笑い合おう!ハッピー実現!」とか「希望が見える!光あふれる!翼広げて飛び立とう!」とか、そんなのを連呼しています。連呼することで私たちの体に染み渡る。明るくポジティブな希望溢れる気持ちがね。それが大切。》


そのように、配布された初演解説リーフレットには記載されている。


会場は日本有数のホール。《ペチョリヌス財団文化大ホール》。天井にはクリスタルによる装飾の施されたシャンデリア。壁には華麗な彫刻があしらわれている。


もちろん演奏は奥田川フィルハーモニー、指揮はアマデウス平田。


私とアマデウス平田は、会場の最終チェックをしていた。


「ここの響きは本当に素晴らしい」


私がエレガンスに溢れた口調で言った。


「そうだね。壁に仕込まれた西欧製反響装置のおかげだろう。日本製はダメ。西欧製が良い。とにかく日本製はダメ。日本はとにかくダメだ。……私は常々思うが、音響空間として全く不適格な体育館なんかでコーラス大会をしたりするのはアホくさいことだ、あれでは子供たちは音楽の素晴らしさを知ることはできない」


アマデウス平田の口調にも長年にわたる芸術活動の影響により固有のエレガンスが満ち溢れている。


そんなエレガンス溢れるやりとりを、エレガンス溢れる空間でしていたところ、まだ誰もいないはずの客席に、男がいるのに気付いた。


高級布によって覆われた客席に、坊主頭、目は虚ろで涎を垂らした男が座って、何をするでもなく、ぼーっとしている。


ぼーっとしながら股間のあたりをボリボリと掻いたり、その手で鼻くそをほじり、採取した鼻くそを座席に擦り付けている。


黄ばんだ白いタンクトップ姿で、いかにも汚らしい、存在を認知したくない感じがした。饐えた気持ち悪い臭いもした。エレガンスの欠片もない野蛮人そのものにしか見えない。排除すべきだ。


「おい!あんな汚くて気持ち悪い奴を勝手に入らせるなよ!早く排除しろ!!」


アマデウス平田も同じことを思ったのだろう、スタッフに指示を出した。

黒いスーツの強面スタッフ数人が、その気持ち悪い坊主野郎のところに行った。坊主野郎は抵抗することなく、追い出された。


「なんでわざわざあんな気持ち悪い奴を視界に入れなくちゃいけないんだ。私たちは至高の文化、芸術をやっているのだ。あんな奴は知性の欠片もない。死ぬべき奴らだろう?見たくないよなあ」


アマデウス平田の言葉にはもっともだと賛意を示した。


「その通りと思います。あんな気色悪い連中は逮捕して裁判なしで死刑にすべきですよね!!」


「不愉快な存在は最初からいないことにした方がいい。これは差別ではない。最初からいないものを差別することはできないんだから。」


「そうですよね!あんな気持ち悪い奴は最初から存在しないってことにすべき!」


私はアマデウス平田と固く握手を交わし、知人の政治家に電話、すぐに気色悪い奴は逮捕状なしで捕縛し裁判なしで死刑にできる法案を作成するように要請した。


坊主頭、目は虚ろで絶えず涎を垂らしている黄ばんだタンクトップ着用の人物はホールの出口に放り出されて尻もちをついた。


「……」


特に何も言うことなくゆっくり立ち上がると、男は路傍に停めてある原付バイクに跨りエンジンをかけ走り出す。


無表情、目は虚ろ、涎を垂らしながら、原付バイクをかなりのスピードで走行させた。


荒井イクちゃん4歳は、そのような原付バイクに撥ねられたのであった。

前作で、その光景がどのようなものであったかは描写をしたので省略する……。


荒井イクちゃんのお葬式には荒井イクちゃんのお友達とその両親、荒井イクちゃんの両親のお友達や親類縁者など、総勢50人以上が参列した。


荒井イクちゃんの死体が霊柩車によって出棺される際に、参列した人々が一斉に、大きな声で、イクちゃーーん!さよならーー!と叫んだ。


「イクちゃん!イクイク!」


そのように叫ぶ者も数人いたが、特定は不可能だった。


「イク!イクイク!イクちゃんだからイク!」


まだ言っていた。それは呟きのような音量であった。


あまりにも不謹慎すぎる。


みんな憤りを隠さない。怒りの形相で犯人を探すが、特定は不可能だった。名乗り出る者もいなかった。


「誰だよ!あんな不謹慎なこと言ったのは!」


荒井イクちゃん4歳の最も親しいお友達である甲斐田コウタくんの父親である甲斐田たかしは怒りをぶちまけた。


「あなた、そんなに怒らないで。」


そのように、妻の甲斐田かな子が言ったが、甲斐田たかしの怒りは収まらない。それどころか怒りは高まる。


「かな子!お前が言ったのか!イクちゃんの葬式で!イクイクって言ったのか!」


「違う!違うわよ!」


「じゃあなぜそんなことを言うか!」


「あなたが怒るから、コウタが怖がるでしょ!」


「嘘だ!コウタが怖がるわけない!嘘だ!」


「怖がってるじゃないの!」


甲斐田コウタは、部屋の隅の方で背を向けて、体育すわりをしている。身体を震わせている。グス、グス、と泣いているような声を出している。


「怖がってない!俺の子だぞ!!俺のチンポコから発射された精子から出来た子だぞ!そんな弱虫なわけがない!!」


「とにかく違う!あたしじゃないわ!!」


「うっせえぞ!かな子!!!」


甲斐田たかしは甲斐田かな子の髪を引っ張り引きずる。痛い!痛い!痛い!と甲斐田かな子は泣き叫ぶ。


「痛いとか言うな!荒井イクちゃんの方がお前の数百、数千倍は痛かったんだ!それをなんだ!お前は外道だ!外道!外道だ!」


甲斐田たかしは顔を真っ赤にして手には金属バットを持っていた。


「これからお前の脳漿をぶちまける!お前には生きるのをやめてもらう!」

激高して怒鳴りつけながら、甲斐田たかしは金属バットを持った方の手を振り上げた。


バットはかな子の頭部を砕いた。甲斐田たかしの宣言通り、かな子の脳漿がぶちまけられて、部屋中が血飛沫で汚れた。


「かな子……ああ……どうして……かな子……」


金属バットを持った状態の甲斐田たかしは真っ青な顔になり、脳漿をぶちまけてすでに死んでいるかな子を見る。


頭の上半分が打ち砕かれ脳みそを露出させ、その脳みそは半ばぐちゃぐちゃに潰れている。白目を剥き、口を大きく開けているかな子はグロテスクなオブジェそのものであった。


「愛していた……かな子……どうして?もう、二度と会えないのか?」


甲斐田たかしの脳裏には様々なかな子との思い出がイメージとして溢れて来た。


初めて出会った学生時代。

かな子は鮭やおかかの入ったおにぎりを作り、渡してくれた。

かな子の握ったおにぎり。

おいしかった。

そのことを告げると、恥ずかしそうに頬を赤くしていたかな子。


映画館にレイトショーを見に行った。

甘ったるい恋愛物を見ながら、手を繋いで、指を絡め合った。

他の席から、くちゅくちゅ、という音や、あんっ、あん、という喘ぎ声が聞こえ始めて酷く興奮した。


お花畑にも行った。黄色い菜の花畑だった。

結婚してすぐの頃だろうか。

白いワンピース、白いスカートを穿いたかな子が、無邪気に笑いながら、咲き乱れる黄色い菜の花の中を走り回っていた。


ばえ!ばえ!と二人で叫びながら、色んなところに写真を撮りに行き、それをインスタにアップした。


かな子との楽しく幸せな日々……。


そしてセックス……かな子のマンコに、たかしのチンポコが、にゅるるっと入り、生でいつもセックスした。その結果、息子のコウタが生まれた。


すべてが瞬時に思い出された。


かな子のマンコのなかにドピュドピュと発射するときの快楽。つい大きな声で毎回「イグイグイグ!イグーーーー」と叫んでしまった思い出……。


「顔に掛けて!顔に!」かな子は叫んだものだ。そして、たかしはかな子の顔にギンギンの赤黒いチンポコを向けて「イグウウウウウウウ」と絶叫、大量の白いドロドロの液体が、かな子の顔面を覆うのだ……。


かな子……また、幸せなセックスしたい……生で……かな子のなかに……。


しかし、現実は……。


「かな子の頭が潰れ脳漿がぶちまかれ、俺は金属バットを持って小便を漏らして泣いている……」


愛していたかな子に二度と会えない。


《会いたくて会えなくて。切ない思いが募って、体が震える。心も震えて。寂しいよ。寂しいよって、毎晩泣いている……》


そんな歌詞のポップソングを思い出した。

確か女性の歌手で、いつも《会いたいけど会えなくて辛いから身体が自動的に痙攣してきて大変だ》という内容の歌を、歌っている人物だったと記憶している。


もうすぐ、可愛い赤ちゃんが生まれるの、と聖母そのものの柔らかい笑みを浮かべ、膨らんだお腹を擦っていたかな子。


愛していたかな子に二度と会えない。


金属バットを床に落とし、蹲り「うおおおおおおおおん!うおおおおおおおん!うおおおおおおおん!!」と、甲斐田たかしは泣きじゃくった。涙が、鼻水が止まらなかった。部屋中に、甲斐田たかしの泣き叫ぶ声が満ち溢れた。


愛する人と二度と会えない。こんな悲しいことはない。


エモーショナルな空気感が、満ち溢れる。


悲しい恋愛物語が展開されるなか、息子の甲斐田コウタは部屋をそっと抜け出して裸足で路上を歩いていた。


路上は暗かった。人通りもなかった。


甲斐田コウタは涙を拭い、裸足で、路上を歩いていく。

唇を噛みしめ、どこか、精悍な表情である。


握りこぶしに、ぎゅっと、さらに力を込めて。


決然とした眼差しで、前方を見つめて。


「僕はこれから、一人で生きていく」


そんな力強い宣言を、コウタは心の中で行ったが、その刹那、五十嵐太一郎89歳の運転するダンプカーに撥ねられ、頭が千切れ跳び、胴体は縦に真っ二つに裂けて赤黒い肉や血や内臓が飛び散り、即死した。


千切れとんだ頭は、路上から外れた雑木林に転がっていき、枝に突き刺さった。

右の目玉を貫通し、後頭部まで、枝は貫通している。


甲斐田コウタの千切れた頭部は、白目を剥き、口をあんぐり開け、長い舌が、だらりと垂れていた。


五十嵐太一郎89歳は、俺は悪くないダンプカーのブレーキが正常に作動しなかっただけ、と素早く認識、裁判でもなんでもかかってこいや!とハンドルから両手を離してガッツポーズを決めた。


ガッツポーズをすると、とても、勇気がでるし、元気になることができる。


五十嵐太一郎89歳は、ことあるごとにガッツポーズをした。


そうして国立大学を首席で卒業しエリート商社マンとして働き代表取締役社長まで勤め上げ、国から表彰されたこともある。


すべて、ガッツポーズの効用なのだといってよい。


セックスの前にもガッツポーズをした。


そうすると、チンポコが鼓舞される。


鼓舞されたチンポコは、ダンスを踊るかのように、ビクン!ビクン!と元気よく動いた。


89歳で、最後にセックスをしたのは71歳の時だから、もう20年近くも昔の話ではあるが……。


五十嵐太一郎89歳は、両手をハンドルから完全に離し、ガッツポーズの態勢のままである。アクセルは踏みっぱなしだ。


ぼんやりと、昔のことを思い出していた。


エリート街道を進んできた人生だった。


とにかく、たくさんの女、出世したいから抱いてくださいという男とセックスしまくってきた……。


濃厚な夜の数々……。華麗なる人生といって過言ではない。


さっき何かを轢いたかもしれない。


だが、恐らく貧乏人だ。社会的弱者だ。


私は、社会的強者であり、一時期は王者だといってもいいくらいの存在だった。


それが、糞みたいな、クズみたいな、いてもいなくてもいい、むしろいないほうが風景が綺麗になるような貧乏人を轢いて殺した。


それの何が悪いのか。


糾弾してくる奴はこのダンプカーで滅茶苦茶に轢いてやるんだ……。


ぼんやりとして、五十嵐太一郎89歳の視線はもはや前方を見ていない。


ほとんど白目を剥いて、夢の世界のような、朧げな幻想の世界、思い出の世界に、意識が移行しているように思われる。


そうだ。私は王者だ。勝ち組とかそんな言葉では当てはまらない。王者なんだ。


……悩みが深い貧乏人ども。苦しみにあえぎ続ける人々……ならば、死ねば悩みが解決するではないか?


……なぜ、死なないのか。王者が手伝いをするべきだろうか?


ダンプカーはそのまま電信柱に激突し、五十嵐太一郎89歳はガッツポーズを決めた状態で、頭だけ原型を留めないほどにぐちゃぐちゃに砕かれ即死した。車の天井には砕かれて飛び散った五十嵐太一郎89歳の脳みその断片が血と一緒にへばりついていた。


暗い路上はしんとしていた。


冷たい夜の空気のなかで、虫が延々と鳴いていた。

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会いたくて会えなくて……フォーエバーラブ モグラ研二 @murokimegumii

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