日焼けした肌と白い肌
いくら掛け布団のいらない季節とはいっても、硬い木の床ではそうすやすやと寝れるものではない。
案の定、俺は午前4時には目を覚ましてしまった。
ここからもうひと眠りする気はしない。
かといって荷ほどきをすればうるさくなりそうだから、俺はアパートのゴミ捨て場を掃除することにした。
仕事内容にはアパート周りの清掃が含まれていたし、何となく管理人と言えばゴミ捨て場を掃除しているイメージがある。
それにしても2日目の早朝から仕事とは、我ながら熱心で感心しちゃうな。
部屋の外に出ると、すでに少しもあっとした夏の空気がまとわりついてきた。
ほうきとちり取りはゴミ捨て場の横に置かれていたので、砂やら葉っぱやらのゴミを集めてゴミ袋に入れる。
それをゴミ捨て場に捨てたところで、タッタッタッと軽快な足音が聞こえてきた。
振り返ってみると、ランニングウェアに身を包み頬を上気させた結城が立っている。
「お、倉野くん。おはよ~」
「おはよう。早いな」
「倉野くんこそ。ゴミ捨て場の掃除をしてくれてたのかな?」
「そんなところ。結城は朝のランニング?」
「うん。この時間は気温がちょうどいいし、人もいないからね。毎朝5km走るのが日課なんだ」
「す、すごいな」
欠かさずに毎朝5km。
きっと学校がある日でもきちんとこなしているのだろう。
颯爽とトラックをかける姿ばかりが目立つが、やはりこうしてストイックな努力をしているからこそ成績を残せるのだと思う。
「倉野くんも朝は早い方なの?」
「いや、実は荷ほどきが終ってなくてさ……」
俺は部屋にある大量の段ボールの話や床で寝た話をする。
すると結城は、少し考える素振りを見せてから言った。
「その荷ほどき、私が手伝ってあげようか?」
「え?」
「もとはと言えば、私たちのパーティーを手伝ったから出来なかったんでしょ?昨日のお礼も兼ねて手伝うよ」
「なんか悪いな」
「いいのいいの。だって私たち、ただ同じアパートに住んでるだけじゃなくて同じ高校の同級生でしょ?」
俺は今ここでリア充女子への認識を改める。
立花のように人をストーカー呼ばわりしてくるひどい奴ばかりではなく(ちゃんと話したらいい奴だったけど)、結城のように優しく手を差し伸べてくれる人もいるのだ。
発情したサル呼ばわりして大変申し訳ありませんでした。
「ありがとう。それじゃあ、10時くらいから始める感じでいいか?」
「オッケー。準備できたら倉野くんの部屋に行くよ」
「よろしく」
結城はグーサインとともににっこり笑うと、103号室へと入っていった。
※ ※ ※ ※
約束の時間ぴったりに俺の部屋のインターホンが鳴った。
「いらっしゃい。本当にありがとな」
「ううん。お邪魔しま~す」
結城は早朝のランニングウェアから半袖短パンの服に着替えている。
それでもやはりスポーティーな雰囲気が漂っていた。
いや、確かにスポーティーなのだが。
……短パンが短い。
肌の日焼けした部分と焼けていない真っ白な部分の境界がくっきりと見えて妙に刺激が強い。
体育座りでもしたら大変なことになりそうな短さである。
「まずは何からやる?」
俺の混乱に気付かず、結城は無邪気な顔で尋ねてきた。
一つ深呼吸をしてから、気を取り直して指示を出す。
「そうだな……。冷蔵庫とかの大きな家電、家具は設置してもらってあるから、とにかく段ボールを消化するだけなんだよな。とりあえずキッチン周りから行くか」
食器や調理器具が入った段ボールには、マッキーで「キッチン関連」と書かれていた。
「これね。よ~し、頑張るぞ~」
「よろしく、結城」
「あ、そうだ」
結城は何かを思いついたように手をポンと叩いた。
「私さ、名字で呼ばれるのなれてないんだ。神奈って呼んでくれると嬉しいかも」
「ええ……」
「何で嫌そうなの!?」
「分かった分かった。よろしく、神奈」
「オッケー!これはどこ?」
結城……否、神奈が開けた段ボールにはフライパンなどの調理器具が入っている。
「その辺は台所下の収納スペースに頼む」
「りょーかいっ!」
元気よく答え、神奈は手際よく荷物を片付けていく。
俺もキッチン関連の段ボールを開けて作業に取り掛かった。
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