褒められるって嬉しい

「ん~!このハンバーグ美味しいっ!倉野くんが作ったんだよね?」


「まあね」


 ハンバーグを口いっぱいにほおばり、結城が幸せそうな声を上げた。

 作ったものを美味しいと言ってもらえるのは素直に嬉しいな。


「倉野くんって料理得意なんだ」


「そこそこは出来るよ。家でも結構やってたから」


「へぇ~。じゃあ今度、私の部屋にも作りに来てもらおっかな。料理は全然ダメで」


 結城に対して万能なイメージを勝手に抱いていたが、やはり苦手なこともあるのか。

 それにしても、ほぼほぼ初対面に近い男を部屋に誘うとはビッ……男慣れしてる女子は違う。


「食事って、結構アスリートには大事なんじゃないのか?」


「大事だよ。普段は璃奈っちに管理してもらってるんだけど、いつもいつもだと申し訳ないしね」


「確かに立花は料理上手だもんな」


「別にあんたに褒められてもうれしくないんだけど」


 横からけだるげな立花の声が飛んできた。

 右手にはオレンジと濃い紫の飲み物が入ったグラスが握られている。

 でもカシスオレンジではない。オレンジジュースとグレープジュースを混ぜただけ。

 やってること子供か。


「も~。すぐそうやってツンツンするよね。素直になりなよ?」


 そう言いながら、立花がとんがらせた唇を土川が突っつく。


「な!?変なとこ触んなバカ!」


「ふっふっふ~。素直になれない璃奈ちんにはお仕置きですぞ~」


 土川が立花の背後に回り込むとコチョコチョ攻撃を始めた。


「ひあっ!そこは……ふぐっ!ひゃっ!」


「ふふ。それ、反省するのだ~!」


 ……あの、俺はどういう気持ちでここにいればいいんでしょうか。

 とにもかくにも目を逸らすと、荒崎さんの視線がこちらへ向けられていた。


「倉野くん、何か取ろうか?」


「ごめん、ありがとう」


「ううん。何がいい?」


「春巻きをお願い。あとは適当にサラダとか」


「任せて~」


 荒崎さんは俺が渡したさらにバランスよく料理を持ってくれた。


「ありがとう」


「どういたしまして。私はハンバーグいただこうかなっ」


 俺が作ったハンバーグを荒崎さんがほおばり、「美味し~」と喜んでくれる。

 人に褒めてもらうってやっぱり嬉しいものだな。


 ※ ※ ※ ※


 ホームパーティーが終わり、部屋には俺と立花だけが残された。

 飾りつけなどの片づけは他のメンバーがしてくれたので、俺たちは洗い物を担当する。


「なあ」


「ん?」


「夜遅くだし、男と2人って不安じゃないのか?」


「襲ってきたら殺すから大丈夫」


 何にも大丈夫じゃねえよ。

 包丁洗いながらそのセリフを吐かれるとめっちゃ怖いのでやめてくれませんかね。


「襲わねえよ。そうじゃなくて、ほら、彼氏とか」


「ああ、そっち」


 立花は水を止めると大きなため息をついた。


「心配するな。別れたから」


「……別れた?」


「そ。まあ、何ていうか……」


 立花はさらに大きなため息をついたかと思うと、元気のない声でぼそりと呟いた。


「別れたっていうか、フラれたんだよね」

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