第10話 出会い

 外のうだるような暑さの中、屋敷の中は涼しい。僕の造った冷気と暖気を出せる魔道具が動いているからだ。(ケネス達はエアコンだと言っていたね。)そのおかげで僕は快適に仕事ができる。まぁ、仕事と言っても僕の指揮下にある騎士たちが森を巡回しての報告書が主体なんだけどね。領民とかいないし。


 その代わりに送り出した人達の記録を綴っている。個人や家族ごとに分けていて、時々こちらに顔を出してくれた時に近況とかを聞いて書き足していっている。以前、送り出した人から「いつもあれだけの宝石を渡して大丈夫なのか?」という主旨の質問を受けたことがある。答えは「大丈夫。」魔法で生み出しているからね。元手は僕の魔力のみさ。地球に行ったときに宝石の成分を書き記しておいて、それに必要な魔法で造り出しているんだよね。あ、でもこちらの世界には流通させないよ。相場が滅茶苦茶になっちゃうからね。


 この時期と地球と言えば、ケネス達を救い出したことを思い出すなぁ。


 あれは、2年前。僕が学園の大学部を卒業して王家からお屋敷と森を貰って、クレメントおじさんの寄子になったばかりの頃だね。僕の注文を盛り込んで設計・建築されたこの屋敷には使用人なんていなかったから、父さん達に掃除とかを手伝ってもらっていたんだよね。


 それで、まぁ、息抜きといった感じで訪れたのが地球。特に場所も指定しなかったので乾燥した山々に囲まれた所でどうしようかと迷っていたら、「ドンッ!!」という音が空から聞こえて見上げると、長い胴体をして2つの回転する翼のようなモノを持ったモノが煙を噴きながら墜ちてくるところだった。しかも僕の所に。(今はヘリコプターだって分かるけどね。)


 急いで逃げて岩陰に身を隠すと、ヘリコプターは山の斜面にぶつかり横転しながら僕の目の前に墜ちた。そのヘリコプター目掛けて白い尾を引いて何かが飛んでくるのが見えた。それがヘリコプターの近くの岩に当たり爆発する。(ロケット弾のことだね。)ロケット弾による攻撃が終わったら、今度は銃による射撃が始まった。


 僕は“ラゴツロフ”という異世界で先込め式の銃を見て使ったことがあったからピンと来た。でもあんなに早いテンポで撃つことはできなかったはずだと思い、岩陰から少しだけ身を乗り出すと、ヘリコプターの後部からよろめきながら人が出てきて反撃をしていた。武器が銃と確信したのはこの時だね。構え方とか使い方を見てね。(ちなみにラゴツロフの銃は地球ではフリントロック式マスケット銃というらしい。)


 それで、ヘリコプターからは続々と人が出てきて最初の人に続いて反撃を行っていた。けれども、敵の数が多かったのか次第に劣勢になってきた。いや、違うね。ヘリコプターが墜ちた時点で相応の怪我を負っていたからだね。


 山からの攻撃は永遠に続くかと思っていたけれど、何の前触れも無く銃撃が止んで、その後、山々から雄叫びが聞こえた。降りてくる気だ。と僕は思って、どうしようかと思案していると、負傷して逃げることもできないヘリコプターに乗っていた人たちが目に入った。そして、そのうちの1人と目が合って、銃を向けられたので、すぐに両手を高く上げて、


「敵じゃないよ!!通りすがりの旅人だよ!!」


 と言うと、その銃を向けた人は、


「なら、早く立ち去れ!奴らが来る!巻き込まれるぞ!!」


 と言ってくれた。でもその時の僕は戦闘を間近で見て興奮していたのかもしれないね。思わず、


「助けるよ!!医療の知識ならあるから。」


 と言って墜とされたヘリコプターへ向かって駆け足で近寄る。僕がローブしか身に纏ってなくて、フードも被ってなかったのも幸いしたのか声をかけた人は銃口を下ろしてくれた。


「なら、止血と骨折している者に添え木を頼む。自己紹介が遅れた。私はアメリカ海軍のケネス・リックマン大尉だ。君は?」


「僕はオーギュスト・ユベール。大学を卒業したての22歳さ。よろしく。」


「ああ、よろしく。」


 これが僕とケネス・リックマンの出会いだよ。で、なぜ彼がこちらの世界にいるかというと、この話しにはまだ続きがあって。


「大尉、この負傷者の数じゃ、戦うのは無理だよ。遺体だけでも置いて逃げよう」


 僕は渡されたファーストエイドキットで治療をしながらケネスに言った。


「わかっている。だが、遺体でも置いてはいけん。仲間だからな。オーギュスト、負傷者の治療の手助けに感謝する。奴らが此処に来るまでに君は逃げろ。」


「やだね。ねぇ、もし家族と一生離れ離れになっても別の世界で今生きている隊員達全員と暮らすのとこのまま戦死するのをどちらを選ぶ?遺体はしかるべき場所に運ぶとして。」


「・・・家族と離れることになるのは辛いが、部下が死ぬのはもっと辛いな。何か手があるのか?」


「実は僕、魔法使いなんだよね。」


「冗談はよせ。」


「冗談じゃないんだよなぁこれが。」


 そう言って、光魔法によるヒールを負傷者全員にかけたんだ。みんな傷が癒えたことに驚いていたね。そのまま、水魔法と土魔法を使って石の弾丸と水の弾丸を無数に作り出し、風魔法で加速させて、山を下りている敵に向かって狙いを付けて発射した。僕の魔法の弾丸は追尾式で避けようとした敵も一撃で仕留めたよ。辺りが静寂に包まれると、改めてケネスに向かって言った。


「別の世界で生きるか、この場で記憶を操作されてこの世界で生きるか選んでいいよ。」


 さて、あの時にケネスは何て言ったかな?日記には書いてあるだろうけど、いちいち確認するのは面倒だな。


 はぁ、今年の夏も暑いねぇ。

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