口は悪いが面倒見の良い死神研修生のはなし。

@sankaku-tousu

第1話

とある地方のとある家で。



ぼさぼさ髪で。目が血走って。ヨレヨレの部屋着を着てる少女が叫ぶ。




「あ――――――――――――――――――――――――――っ

何で?何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で

何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で?



・・・・・何で死ねないの―――――!!!!



吊る紐が切れた!

今度こそ死ねると思ったのに!強度が悪かったのかな?

角度かな?体重のかけ方に問題が?

リストは痛いだけで血ィダラダラ出てグロいだけだし!

一酸化とか、とにかく時間かかるのは嫌だ!


とにかくこう。

サクッと一瞬で痛み感じずにコンプリートなミッションで出来ないものかっ!」





部屋の中には年頃の少女の部屋とはとても思えない異物がズラリ。

首吊り用に使うと思われる、縄や革。

電気椅子を彷彿させる色んな電飾のついた椅子。

薬に刃物にそれらに関する物が書かれた高く重ねられた本やプリント紙。

何故かメイデンっぽいモノまで鎮座して。


元は小柄で可愛らしい顔立ちが見る影もない。

とにかく色々追いつめられてる少女の姿がそこにあった。






「じゃ。終わらせてやんよ。サクッとな」





「え?」






床に四つん這いになっている。

そんな少女の目の前に。

今までいなかったハズの場所にいる痩身の男。


男が少女の頭に銃を突き付けて立っている。


30前後の疲れたような顔立ちの。

ベースが深緑色のコートに紅葉色の線が所々に走ってる。

妙に現実感はないけれど、不気味な存在感はハッキリとある男が立っていた。




「そい」



パン!



軽い声と乾いた銃声。部屋の中に響き渡る。








死んだ 







と訳もわからず少女は悟る。






・・・でも。






「・・・アレ?生きてる。」




頭を撃たれて絶対死んだと思ってみたけど。

いつまで経っても生きている。

身体のどこを触っても痛みは無いから傷も無い。


全てにわけがわからない。



そんな想いが浮かんできた頃、目の前の訳のわからない男がこう呟く。



「外したか・・・」





「って誰――――――――――――――――――――――――!!?

・・・ひ、人殺し――――――――――――――――――!!!」














「あー。ハイハイ。いるんだよねー。人の事呼んどいてイザ、コッチが依頼通りに仕事しようとしたら、自分は全然知りません。って言う輩。


あ。でも、このマットに置いてある“月餅”はゴチです。もぐもぐ」




「あー!あたしの月餅!ってイヤ。呼んだ?依頼?何のコト?

ってゆーか誰?いつの間に家ん中!?」



「ハイ。自己紹介しまーす。オレは死神研修生。お前の召喚によってこんなジメったトコ来て、お前の“死にたい”って依頼を遂行しようとしたんだよ。質問あるならどーぞ」




「え?召喚って。この変な魔方陣っぽいの描いてあるマットから?

ドンキで雰囲気演出するためだけにテキトーに買ったヤツなのに」



「場所とか方角とか月餅とか月餅とか色んな要素が重なったんだろ」



「月餅要素が一番デカくない!?てか好物!?」








死神研修生と名乗る男は月餅を食べ終わり。

人心地ついたと床に座る。


少女も何となく座って2人は対面。

自殺を図って、失敗し、謎の男が現れて銃発砲。

最早現実感が完全に迷子してた。



「まー。とにかくちょっと事情聞かせろや。どーせ本気で死ぬ気ないんだろ?本人はともかくお前の体は」




「そ・そんなことないしー!バリバリ死ぬ気だったしー!

いきなり目の前に不審者現れたからビックリしただけだし――!!

人として当然の反応だし――!!」




「その不審者呼んだのテメーだろ。・・・って誰が不審者だ。

“死神研修生”だって言ってんだろ」



「イヤ。“死神研修生”って何?“死神”ならわかるケド」



「言葉のまんま。試用期間中の死神だよ。正式採用前だよ」



「そんなの死神の世界でもあんだ」



「そりゃあるだろ。どんな世界でもいきなり素人にプロの仕事させるワケねーだろ」



「確かに」



「研修生でも何でも良いや。死神って言ったら死んだ人間の魂を回収するのが仕事でしょ?」



「うん」



「だったら私の魂をサッサと持ってってよ」



「あー。ハイハイ出た出たー。ステレオタイプっての?原始な生活送ってた頃の人間と今が全然違うように死神の世界だって今じゃ色々複雑になってんだよ。

そーホイホイ調査だ審査だせずにスパッと殺して魂持って行けっかよ」




「さっき、いきなり人の頭に銃突きつけてブっ放したじゃん!!」



「あー。そこだよ。そこそこ。あん時、弾が外れたから話がややこしくなっちまったんだよ。」



「へ?」



「雑な召喚とは言え、あん時、部屋の物的証拠的にも本人の証言的にもまぁ、命を絶たせて魂回収してもOKなラインだったんよ」



でも弾が外れたから、死ぬ気は無かったと判定されました」



「外れた?そ言えば避けた覚えないけど当たらなかったし。どゆこと?」




「この死神専用の銃の仕様でな。寿命がまだまだある人間や、本気で死ぬ気の無い人間にはどんだけ至近距離から撃ち込んでも当たんないだよ。この銃。


逆を言えば寿命尽きかけだったり、本気で死ぬ気のヤツには絶対当たって命を絶つ」




「そんな!困る!殺してよ!!(出来れば楽に)」



「いや。一番大事なのはオレが殺す意思じゃなくて、お前が死ぬ意志だからな。そんな事言われてももう無理だから。仮に懇願された上で自殺の手ぇ貸す権限は“研修生”のオレにはねーから」



「この法の犬! いや死神ィ!!」



「オイお前言っとくけどな。社会出たら法の下で生活してるヤツはみんな法に縛られて生きてくしかねーんだからな。覚えとけ学生」










「って。なんだ。このテーブルの上の紙。

・・・何々。志望大学模擬試験判定「D」。“まだまだ頑張りましょう”・・・」



「ぎゃあああああああああぁぁぁ!!!見るなぁあああああ!!」





「・・・あー。うん。こんなこともあるよ。ドンマイ」



「今までで1番優しい反応!?余計に傷付くんですけどおおぉ!!

あ。また死にたくなってきた。」



「なるほど。大体読めた。受験のストレスとゆーか。志望大学に受かりそうにないのが自殺したくなった原因か」



「そーだよ!悪いかああぁ!!」










・・・・・・・・。






「いや。フツーだなって」



「フツーって言うな!!」












ステイ。



ステイステイと両手を前に突き出し、ジェスチャーする少女。

いいさ。聞かせてやるさと彼女の顔は物語る。






「・・・そう。あたしは生まれも育ちも地方人。そこそこ収入の良いサラリーマンのお父さんとパートを週4で頑張っているお母さん。そして結構有名な大学に2年前に入学を果たした優秀な姉に囲まれて。


まぁまぁ平和に穏やかに生きてきました」



「アレ?急に回想始まった」



「ちなみに今更だけども、両親は旅行。姉は大学寮暮らしなので、この家は現在あたし1人だけ(だからこんだけ騒いでても、誰もこの部屋に来ません)」



「本当に今更な」



「そして元々、勉強が得意でも好きでもないあたし。高校卒業後どうしよっか。

と漠然と不安を抱き始めた高2の始め。帰宅部だったし、遊ぶお金と社会勉強のため始めました。初バイト。家からちょっと離れた場所の」



「近所の人や学校の知人・友人に見られるのが恥ずかしかったんですね。わかります」



「そこであたしは気付いてしまう。今まで周囲の親しい人もあたし自身も気付いてなかった衝撃的事実」



「言ってみ」



「全っ然仕事が出来なかった!

超緊張してコケたり、棚に体ぶつけて商品落としたり、上手くしゃべれなかったり。

緊張してるから仕事内容も覚えられないし、要領が悪くて他の人が5分で終わることが30分もかかったり!!」



「・・・まぁ最初はそんなモンだろ」



「そして3週間でクビになりました」



「結構持ったな」



「最初は初めてのバイトだしー。あたしの才能に合ってなかっただけだしー。

あたしってかわいいしー。って泣きそうになるのを我慢して我慢した。

とにかく色々我慢した」



「泣いても良いんだぜ?そしてまた立ち上がれば良いんだ」



「どこのシンガーソングライター?」



「それからあたしはいくつもバイトの面接を受けて受かって働いて。

やってみました。ファーストフードに回転寿司に、ガソリンスタンド。えとせとら」



「スゲエな。その勤労意欲」



「だけども、緊張してはトチリ怒られ、落ち込んで。

どんどん削れるプライド・気力・頑張るこころ。


もう動いたら怒られる。と、動けなくなったら、サボってないで手を動かせと怒られて。焦って動けばまたミスる」



「身に覚えあるわ。その負のスパイラル・・・」



「そこであたしは思い至った。

よし!一端働くの止めて勉強しよう。大学行こう。もう働きたくない!」



「進学動機に同情の余地ありすぎて、もう何も言えねぇ」








語り終わった彼女は大きく広げてた両手を下げる。



その表情は何も言わずとも雄弁に語っていた。



以上!と。





「・・・そして今」



「OK。再び大体わかった」



「・・・だからさ。もうゴールしても良いよね?」



「ん?」



「もうゴールしても良いでしょ!人生のゴール!

さっき言ったじゃん。本人が本気で死ぬ気になれば死神の銃が撃てるって。

思い返したらまた死にたくなってきた!今なら逝けそうな気がする!

今ならヤれそうな気がする!!」



「待て待て待て待て待て待て待て待て待て!!近い近い近い近い近い近い近い近い!!

そして怖い!!」



「ふつーに仕事する能力なくて!ふつーに勉強出来なくさぁ!

もう生きてたくなくて調べたんだよ!色んな死に方!!

でもイザ死のうとしたらさぁ。怖くなって怖くなって!

でも、やっぱり生きてて辛いから死にたくてさぁ!!」



「痛てててててて!!肩掴む力強え!!

いるよなぁ!マイナス方面の事になったらジェット噴射かってぐらいにパワー発揮するヤツゥ!!・・・って。ん!?」






「何?やっと殺る気になってくれた?」


「無垢な少女のような瞳で何口走ってんだ。この女!」


「誰が処女だ。この野郎!」


「そんなことまで言ってねぇ!」


「もういい!あんたが殺らないなら、あたしが殺るよ!良いから貸してよ腰の銃!!」


「標的に死神が銃奪われて自殺されてたまるか!色々責負うハメになんだろ!オレが!!」


「大丈夫!あなたに責なんてないから!あたしが勝手にやったってことにするから!

実際そうなるから!!」


「うわ怖え!パイセンが対象者がどんなに弱ってても絶対油断すんなって言ってた意味、今、超わかったわ!!


つか、お前。そのパワーをバイトや勉強に活かせよ!」


「活かせなかったから現在進行形でこうなってるんでしょーが!

現在進行形で死神が目の前にいるんでしょーが!」


「うるせえ!過去は振り返るな!現在を生きろ!そして未来を見ろお!」


「うんうん。見てるよ。来世を!」


「見過ぎだアホンダラ!


仮に今のとち狂った魂の状態で命絶っても成仏出来ないで、タチ悪い幽霊爆誕のリスクの方が高いんだよ!!」


「んなコトやってみないとわかんないじゃん!」


「わかるから言ってんだよ!いくら研修生っつっても、そうゆうケースを何度も見てんだよ!!」


「じゃあ。あたしはこのままこの世で苦しみ続けろっての!

役立たずって言われて。バカだアホだ間抜けだノロマだって陰口叩かれて。

要領良く出来なきゃ愛想笑いも作れない女だってのにさあ!!」


「お前のスペックや人間性はよー知らんが!

バイタリティのクソ高えクリエイターだって事だけは、お前と話して!

この部屋見てわかったよ!!」




そこで初めてピタリと動きを止める少女。


まるで生まれて初めてそんな不思議な単語を聞きました。


そんな顔で目の前の男に問いかける。





「・・・クリエイター?」




「あにきょとんとした顔してんだよ」



「そんなこと言われたの初めてだけど。絵だってそんなに上手くないし」



「あ―――。お前、間違い無くクリエイター側の人間だよ。

少なくてもプレイヤー側では無いな」



「プレイヤー?」



「まぁ、プレイヤーってのはオレが勝手に使ってる言葉で。

要は何か直接アクション起こして周りに影響与える側な。

クリエイターは言葉のまんまで創る側。


聞けばお前が今までバイトしてきた業種って、どっちかと言うとアクション側のばっかだったろ?」



「確かにそうだけど・・・」



「さっきさ。部屋にある自害用のグッズをザっと見てみたけど明らかに市販の物に手を加えてあったり、自作で作ったって感じの多いよな」



「うん。何か肌触りとか。握り心地がしっくり来なかったりとかさ。

脚付くとヤダから色んな資料あさってDIYしてみた器具がいくつか」



「・・・あー、うん。やっぱクリエイターだよ。お前。

この大量の設計図やら印刷した紙はそん時の資料か。


・・・マジでお前、マイナス方面のパワー凄えな」



「でも。言われてみれば確かにどういう構造か調べたり、作ったり、改造している時は楽しかったな・・・。毎日辛くて辛くてしょうがなかったけど、何かを作っている時だけは全てを忘れて没頭していた気がする」




しんみりしながら、苦しい日々の中で楽しかったことを思い出す少女。

その表情は安らかだ。



その表情を見て男は少女に話しかける。

死神らしくないとは思いながらも。




「・・・なぁ。オレ思うんだよ。

仕事が上手く行かないとか。勉強が出来ないとか。自分で自分に絶望したりとかよ。

気持ちは凄えわかるんだけどよ。


自分が楽しいと思うコトして、それを大事にして生きていけば良んじゃね?

お前、自分の才能の無さに嘆いてたけどよ。

何かを“好き”って思える気持ち自体が才能だったりするんだぜ?



コレ年喰えばマジで実感するオレの実体験な」




本当に自分のことを想って話している。


そう感じたからこそ、男の言葉は少女に届く。


だからこそ返せた。

新しく芽吹いた気持ちと気付いてなかった気持ちを言の葉にして。




「・・・好きと思えること自体が才能か。うん。そうだね。そうかもね」



「おう」



だから少女はこう応える。

両の手の平をグッと握りしめて。





「うん。わかった。ありがとう!


決めたよ。


あたしコレからも自殺用グッズを頑張って作ってみるよ!」






「いい加減自殺から離れろや!!!」












その後。


面倒ついでと、死神研修生は彼女の高校卒業後の就活の相談に乗った。

相談の結果、彼女は地元で金属の錫を鋳造する工芸品を作っている会社があったのでダメ元で面接を受け合格。


現在はそこで未来の職人として働いている。


入った時点で開きかけてたクリエイターの芽が今では完全に開花。

とは言え、格上だらけの職場で大変ながらも日々を過ごしているようだ。









そして――――。



再び少女の部屋で。




「召喚――」


「オイ。オレがOFFん時に呼ぶなや」


「仕事中に呼ぶのはもっとアカンでしょー。ねぇ。ちょっと話相手になってよ。

ほら。月餅あるよ」


「ゴチになります。・・・ちょっとだけな。あ。オレの愚痴にも付き合えよ」


「えー」


「えー言うな」






2人とも何だかんだで仲良くなり、時々会っては駄弁ってる。







おわり。


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