第19話


 その日の夕方。


 俺と明と久利須と優希の四人は施設のキッチンでカレーを作る準備をしていた。



「・・・いや、まあ…いいんだけどさ。

どうしてクリスマスなのにカレーなわけ?チキンとか、ローストビーフとか…クリスマスらしい料理だってあるのに・・・」


 玉ねぎをみじん切りにし終えた明が、ザルをどっこいしょ☆と持ち上げながら首を傾げている。



「…たしかに……何も今日くらいカレーじゃなくたって、ねえ?」


 人参を果物ナイフで器用に星型に切りながら、優希も不思議そうな顔をした。



「…そういうなよ。ここの子達にはカレーライスは特別なんだ。

特に俺が作るカレーにはなにかと思い入れがあるんだよ。

…それに、カレーだけじゃないぜ?ローストポークだってすでに仕込んである。カレーの材料を用意し終えた頃には出来上がってるはずだ」


「ローストポーク??どこにそんなもんが……」


 明が周りを見渡しながら首を傾げている。

そりゃあ、普通はオーブンなんかで焼いて作るんだがそのオーブンにはクッキーが入っていて、今、まさに焼き上がる寸前といったところであってポークどころかチキンすらそこには入っていない。

だから、今、キッチンには甘い匂いが漂っているわけだ。



「……そこにある二台の炊飯器。その中で豚肉のブロックが合計四本加熱されてんだ。今日日の炊飯器はいろんな事に使えるんだぜ?」

「さっすが瞳ちゃん。炊飯器の使い方をよく心得てるね〜」


 俺と同じく料理男子の優希が嬉しそうに俺の顔を見る。

コイツを連れて来たのは料理を手伝ってもらうためだが、付き合いが良いと言うかなんと言うか・・・こちらから誘ったわけじゃないのについてきてくれた、って感じだ。

 まあ、料理の用意をするのに優希の料理の手腕はとてもありがたい。


 「・・・で、彼は何もしないわけ?」


 先程からカメラを構えてファインダー越しにしかこちらを見ない鳥間を見ながら明がぼやく。



「…せめてお皿を用意するとか、何か手伝つてくれてもいいんじゃなあい?」


「ソイツには構わなくていい。いい写真を撮ってもらうために連れて来たんだからな。今日日まともなカメラマンなんて用意したらいくら掛かると思ってるんだ?

ここには余分なお金を使う余裕なんて無いんだ。タダでプロ顔負けの写真を撮ってくれるコイツは必要不可欠なんだよ、って…手が止まってんぞ、明」


「ああん、もうっ!何で私が料理を手伝わなきゃなんないのよう〜」



 明は、と言えばあまり料理の経験値はない。

 時々クッキーを焼いて持ってきてくれたり、気まぐれに弁当を作ってきてくれたりはしてくれているので下手とか出来ないとかのレベルではないんだが、あとはたまに家でお母さんの料理を手伝うくらいのささやかな経験値しか積み上げていないのでこれだけの大所帯の食事の支度をするということそのものに戸惑っている…といったところだ。



「ぼやくなぼやくな。こういう時は、食べてくれる人達の顔を思い浮かべながら、とか、どんな顔して食べてくれるのかな?とか頭の片隅に置いておくと、意外と捗るもんだぜ?」


 料理だって仕事の一環だ…とか考えてしまったらモチベーションなんて一気にガタ落ちしてしまう。

やるからには何でも楽しまなきゃ損だ、てのが俺の持論だ。



「・・・ホント…アンタ、良いお嫁さんになるわよ?」


 ため息一つこぼした後ジャガイモの皮むきを始めた明にそんな事を言われてもなぁ…。



「あ☆その意見には僕も賛成♪」

「優希ぃ……そのセリフ、そっくりそのまんまお前に返すぜ?これだけの量の人参を、鼻歌交じりで型抜きじゃなく果物ナイフで星型に切り抜いてるような奴が良い嫁さんにならないはず、無いもんな」


大きなザルの中に大量のお星さまの姿の人参が山になっている様は圧巻だ。


「…僕も子供達が喜ぶ顔を思い浮かべてるからね〜。そこんところは瞳ちゃんと変わんないよ?」


「……いや、これはそういう事で出来ることじゃないような気がするんだが……」


 大きなフライパンにザル半分の玉ねぎをドサーッと入れて、炒めながらちらりと明を見ると、彼女は黙々と芋の皮むきをしていてくれる。


これなら、予定通りに美味しいカレーを作ることができそうだ。



さて、問題はこの先だ。


果たして作戦通りに事が進んでくれるだろうか?




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「・・・ま、こんなもんか、な?」


 きれいに敷かれているレタスの上に、これまたきれいに薄切りにされて飾られたローストポーク達に、バスケットに山になって盛られたクッキー。


 そして冷蔵庫の中にはプラスチックのグラスに盛り付けられたフルーチェがあり、ペットボトルのオレンジジュースやコーラなどが、飲み頃に冷えて待機していて。


 しっかり俺の味付けで美味しく仕上がったカレーも出来上がった。

…これで、クリスマスらしいことが出来るように整ったわけだ。



「……おねにいちゃん、すっごぉ〜〜い☆」


 いい匂いに我慢ができなかったのか、華羅ちゃんがいつの間にかキッチンにまで入り込んできていて、目の前に広げられている料理の山を見て眼をキラキラと輝かせた。


「今日は俺だけじゃない。そこにいるお兄ちゃんとお姉ちゃんたちも手伝ってくれたからな。味は期待して良いぜ?」


「あ、おばねえちゃんと………

おねにい二号ちゃんさんもつくったのぉ?ありがとう♫」


「ううっ…その呼び方はやっぱりあんまり嬉しくないなあ」「おねにい二号ちゃんて……色んな意味でダメージがっ……」


 キッチンで活躍したコック二名は名誉のダメージを受け、壁やテーブルに手を付きぐったりと項垂れている(苦笑)

まあ、小さな天使のちょっとした毒舌くらい……

多少の事は許してあげてくれ、二人共。


「・・・そんなことより、そろそろホールに行かないと。スーパーお姉ちゃんがもう少ししたらプレゼントを持って現れるんだ。プレゼント、もらいそこなっちまうぞ?」


 俺の姉さんも…予定より早く日本に帰ってきた彼女は今頃、子供達へのプレゼントを俺の家へ取りに寄っている頃だ。



(……さて。そろそろ始めないと……。

不良部の方々はそろそろ来る頃…か?)


時間は夕方5時半まで後少しといったところだ。

予定ではそろそろ彼らがホールになだれ込む頃合いだけど・・・。




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