第二十八話 熱っぽい吐息④


「ごちそうさまでした」


 冷えピタを額に貼って、パジャマも着替えた早坂が手を合わせる。


 あれから俺が不慣れながらもお粥を振る舞い、なんだかんだで面倒見のいい広瀬が早坂の食事を補助した。


 こう、なんだか美少女二人が「あーん」とかやってるのを見ると、ここにいていいのか? と思った。何なら見るだけで料金取られるかと……。


 冗談はさておき、少し顔色がよくなってきた早坂が、布団の中に入った。


「じゃあいっぱい寝て、早く元気になりなさいよ」


「うん、ありがとう、美乃梨」


「礼を言われるほどじゃないわよ」


 素っ気なくプイっとそっぽを向く広瀬だったが、俺の視界にはバッチリ、ほんのり赤く染まった頬が映っていた。


 素直に感謝をされたことが、照れくさかったんだろうな。


「じゃ、じゃあ私は、自室に戻るわね!」


 広瀬が部屋を出る。


 途中、俺に「あとは頼んだわよ」という視線を向けてきた。


 ……ほんと、どこまでいい奴で居れば気が済むんだよ、お前は。


「そろそろ寝るか?」


「うん、眠いし」


「じゃあ、俺も部屋出るわ。邪魔だろうし」


 そう言いながら立ち上がる。


「もし何かあったら電話してく」



「――ここにいて?」



 服の袖を、か細い手に掴まれる。


 きっと少し動けば剝がれてしまうくらいにわずかな力に、俺は進む足を止めた。


 すらりと伸びた手の元を見てみると、顔全体が赤みを帯びた早坂が、俺のことをじっと見つめていた。


 たったその一言だけを告げて、あとは俺に目で何かを伝えてくる。


 それが何なのかは、鈍感主人公でも何でもない俺だからわかって。


「しょうがないな」


「ふふっ。ありがと、透くん」


 椅子に座りなおして、わずかに口許を緩める早坂に安堵の視線を向ける。


 昼下がりの、薄い光がカーテン越しに差し込む中、早坂はゆっくりと身を預けるように目を閉じた。


 豊満な胸が、ゆっくりと上下する。


 よくもまぁ男の俺が居る前で、こんなにも無防備で居られるものだ。


 まぁ無防備で居られたところで、俺にどうこうする度胸もないけど。


 俺は早坂の額に滲んだ汗を湿ったタオルで拭うと、乱れた布団を正しく早坂にかけた。


 すると早坂が、目を閉じたまま口を開いた。


「ねぇ、透くん」


「なんだ?」






「――好き。大好きだよ」






「っ……⁈」


 な、なんだ⁈ なんで急にそんなこと⁈


 ってかストレートすぎだし⁈ なんだこれ、なんだこれ⁈


 なんの前触れもなく呟かされた、破壊力抜群のツーコンボ。


 これはさすがに動揺せざる負えない!


 しかし、そんな俺の様子なんてお構いなしに、早坂は穏やかな表情を浮かべていた。


 その後、早坂は眠った。


 ……とてつもなく混乱した俺を残して。





    ***






 翌朝。


「おかげで元気になったよ。二人とも、本当にありがとう」


「よかったわね。元気になって」


「うん、美乃梨のおかげだよ。ありがと」


「……感謝し過ぎよ。もうぅ」


「えへへ」


 仲睦まじい二人が作り出すほんわかな雰囲気漂う。


 だが、俺はとてもほんわかとは言えなくて。


「透くんも、ありがとうね!」


「……お、おう」


 妙に顔が熱っぽいことに、違和感を感じざる負えなかった。


 ……きっと、風邪が移ったに違いない。


 

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