第38話

「よし、トレニア。そんなに我が家の事を気にしているなら今から伯爵家へ帰って両親に会ってみるといい。さぁ、帰るか」


とても急な展開に頭が付いて行けないわ。ターナ様に手を引かれ植物園の出口に向かって歩いている。


「えっと、ターナ様?」


「なんだい?」


「あの、付かぬ事を伺いますがターナ様は私と結婚しても良いとお考えですか?」


私のその言葉にターナ様は歩みをピタリと止めて私に向き直る。


「なんだ、そんな事。決まっているじゃないか。今すぐにでも俺の嫁になったって良いとさえ思っているけど?」


「ええと、いつの間にそんな考えに??」


 ターナ様がぐわっと目を見開いている。そして近くにあったベンチまで行き、一緒に座ると私の方に体を向けて話を始める。


「気付いていなかったのか…。仕方がない、詳しく説明しよう。あれはトレニアが仕事をし始めて1年経つか位の時だった。君の家から養女としての打診の話が来た時に君以外の薬師で集まって話し合いが有ったんだ。


もちろんファーム薬師長やヤーズ薬師、ロイ薬師は養女にしても良いとすぐに答えが出た。だが、若手組の俺とナザル、レコルトは拒否したんだ。俺達は養女としてトレニアを迎えるのではなく、妻として娶りたいと」


なんと、そんな話が私の知らない所で進んでいたのね。全く知らなかった。


「驚いているようだね。ははっ。トレニアは全く気づかないんだから。それでね、俺達3人は君を妻に迎えたい。長々と話し合ったが決まらなかった。そこでファーム薬師長は僕達3人に課題を出してきた。一番初めに課題を済ませた者を婚約者候補に推す、と。


酷いだろ?僕達はすぐに課題に取り組んだ結果、僕がトレニアの婚約者候補に躍り出たわけだ。僕はすぐにでも君と結婚したいと思っているよ」


「でも、聞いても良いですか?1年前に決まって何故今なのですか?」


ターナ様はふっと微笑み答える。


「それはファーム薬師長から許可が降りなかったからさ。愛弟子のトレニアは優秀な薬師だ。やって貰いたい事が沢山ある。加えて薬師は少数精鋭で人が足りずに抜けられると困る、とね。


みんな大ブーイングだったよ?今年はマテオが薬師として入った事でトレニアを口説く事が解禁となった矢先、君は隣国に行ってしまった。ようやく君が帰って来たんだ。とーっても待っていたんだからね?理解は出来たかな?」


真剣な表情で私を見つめるターナ様。か、顔が近い!


「理解しました。でも、ターナ様は2度も婚約破棄された私で本当に良いのですか?」


「あーやっぱり分かって無い。トレニア、君しか居ない。君が良いんだ。2度もって言うけど、俺はもっと見合いをして断られている。気にするはずがない。やはり、今から伯爵家に向かおう」


ターナ様はそう言って立ち上がり、私の手を引いて馬車へと向かった。馬車内ではしっかりと手を繋がれて懇々とトレニアが必要だと説明された気がする。


私はあまりに顔が近いターナ様に意識が半分飛んでいたような気がするの。


ある意味顔面凶器だわ。

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