第22話

「トレニアお嬢様、おはようございます。今日からお仕事ですよ」


ローサに起こされて急いで朝の準備をする。ローサはお弁当も作ってくれていたわ。なんて素晴らしい。ローサに感謝しつつ、薬師棟へ初出勤を果たした。


「おはようございます!トレニア、出勤致しました」


「おはよう、久しぶり。トレニア君。今日から王宮での仕事だったね。待ち遠しかったよー。君が来ないからみんなが瀕死の状態さ」


そう言って出迎えてくれたのがロイ薬師32歳。今日はみんな朝から薬師棟で仕事をしているみたい。


 ファーム薬師長を一番上として、ヤーズ薬師、ロイ薬師、ナザル薬師、ターナ薬師、レコルト薬師が席に着いていた。彼等は優秀な薬師の皆様方。ファーム薬師長以外を名前のみで呼んでいるのかというと、ここの薬師は平民も貴族も関係なく仕事するという事で名前呼びになっている。これは医務官も同じ。ファーム薬師長と医務官長以外は。


薬師長は職業上、陛下や大臣達と話す機会が多いからなのだとかどうとか。詳しくは分からない。そして私は未だに皆さんの家名が分からない。飛び込みで薬師の方々と知り合った当初から名前でしか紹介をされなかったので今更家名を聞く事も出来ずにいるのよね。


「さて、皆揃っているな。知っている通り、本日からトレニア君が薬師として急遽配属される事となった!これで我らも一安心だ。もちろん今まで通り仲良くしてくれ。トレニア薬師の慣れるまでの主な仕事は薬草園の手入れと薬の補充だ。


薬の補充先は王宮医務室と騎士団医務室だ。それと君が残念令嬢だと知っているのはごく僅かだ。いつもの君で過ごせるはずだ。特に注意するのは騎士団医務室だ。ムサイ奴が多く、君を1秒でも長く引き留める為にあの手この手で話しかけてくるが無視して大丈夫だ。


あと、1日1度は薬師棟でミーティングを行う。薬の状況や王都での病の流行、騎士団の怪我の状況等の話し合いを行うので必ず出ること。以上だ」


そう話をしてくれたのはヤーズ薬師。主に王宮医務室担当をしている。因みにロイ薬師は騎士団医務室担当、ナザル薬師、ターナ薬師、レコルト薬師は薬の開発や製造を担当している。私も慣れていくと薬の製造や開発に携わっていくみたい。ファーム薬師長は総まとめ役らしい。


因みに、ファーム薬師長もヤーズ薬師とロイ薬師も仕事の傍ら新薬開発を嬉々として行っているらしい。たまに誰かが新薬の犠牲者になるのだとか。




 私はヤーズ薬師に連れられて王宮医務室と騎士団医務室に挨拶に行く。薬師が深く関わる事になる王宮医務官は10人程。かなりの激務ならしい。薬師もあと10人位増やして欲しいと言ってはいるが、ファーム薬師長のお眼鏡に適う人物は中々いなくて少数精鋭のままとなっているらしい。


「今日から配属されましたトレニアです。薬師として薬の補充に毎日お伺いしに来ると思います。これから宜しくお願いします」


「トレニア薬師、私は王宮医務官のノームだ。宜しく頼む」


私は挨拶を終えるとヤーズ薬師に薬棚を見せて貰い、足りなくなっている薬をメモする。そして次の騎士団医務室へと向かう。


「今日から薬師として勤務しますトレニアです。宜しくお願いします」


すると白髪の医務官がにっこりと笑顔で迎えてくれた。


「君がファームの弟子か。ワシはイルスだ。ここの騎士達の怪我を診ている。宜しく」


「イルス医務官ー。俺には紹介は無いのー?」


医務室のベッドから出てきた1人の騎士。


「彼女はトレニア薬師。ファーム薬師長の愛弟子だ。彼女に近づきたいならファーム薬師長の許可を取らねばならんぞ」


イルス医務官は騎士にそう答える。


「俺は第三騎士団副団長のアインス・ラムダ。トレニアちゃん宜しくね。何歳?婚約者とか居るの?」


矢継ぎ早にラムダ副団長は質問をしてきたわ。


「ラムダ副団長様、トレニアです宜しくお願います。私の歳は18歳です。平民ですので婚約者は居ないですが、結婚に何の希望も持っていないので生涯仕事一筋の予定です」


私はニコリと笑顔で答えた。


「トレニア薬師はファーム薬師長の許可を貰ってから話しかけてくれよ。やっとファーム薬師長のお眼鏡に適った薬師なんだから大切に扱ってくれ」


ヤーズ薬師はそう言ってラムダ副団長を牽制してくれた。伯爵位ともなると平民とは付き合う事すら許さない人も多いのにラムダ副団長は気安い人なのね。私は挨拶も終えたのでヤーズ薬師と共に薬師棟へ帰る。


「さぁ、トレニア薬師、午前中の仕事は薬草園の手入れを頼む。君が来ない数日の間に雑草が生えてきて困っていたんだ。午後からの仕事はまたその時に話すから。あと、これが王宮薬師の支給されている服ね。


基本的に軍服の上から医務官と同じ白衣を着る。トレニア薬師は女の子だからスカートでも構わないよ」


私は白衣と軍服を数着貰った。数は少ないけれど女性騎士と同じような軍服みたい。ズボンだわ!庶民の間では働く女の人も履いていて動きやすいらしいと聞いているの。明日から早速着るわ。


 そうして私はいつものように薬草園の手入れをする。数日手入れをしていないだけでこんなに雑草が生えるのね。芽欠きや剪定、雑草取りで午前の仕事はあっという間に終わってしまったわ。


お昼はローサの手作り弁当を食べて午後は薬草を依頼分摘み、乾燥室へ持って行き丁寧に乾燥させる。そしてナザル薬師達が調合した薬を王宮医務室と騎士団医務室へとお届けに回り本日のお仕事は終了。




「ローサ!疲れたわ。でも仕事ってこんなに楽しいのね。今日は褒められたわ」


ニコニコしながら持って帰ってきた軍服類をローサに渡す。


「明日から制服での出勤ですね。湯浴みの準備は出来ております。今日はマッサージもしましょう」


そしてローサの美味しい手料理に舌鼓を打って寝る準備をしている時に気付く。


「ねぇ、ローサ。私が旦那でローサが奥さんみたいね。あーぁ。私、男だったら本当に良かったのになぁ」


「お嬢様が男だったら今頃グリシーヌ様に詰られながら領主となっていましたよ。お嬢様はお嬢様であったから今があるのです。ですがローサはいつまでもお嬢様の妻でいますよ」


「ふふっ、ローサありがとう」

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