第34話トクザ、家を買う!?
「わぁ! この家、前に住んでたお屋敷みたい!!」
「って、これマジもんであたしらが住んでた屋敷じゃね?」
「これは流石に高くて買えない……ぐすん……」
ある日の昼下がり、三姉妹はなんかの雑誌をみて楽しそうにしていた。
ちょっと気になったので、後ろから覗いてみた。
「急に住宅情報誌なんてみてどうしたんだ?」
「そろそろお引っ越ししてはどうかと思いまして! ねー?」
「色々と装備やら増えてきて、少し手狭だなぁって思ってて」
「シンはおっきいベッド入れたい!」
なるほどそういうことね。
確かに最近、今の住まいじゃ少し窮屈な気がしていた。
お金にも多少余裕はあるので、検討しても良いんだけど……一つ大問題が。
「まぁ、俺らが引っ越すのは良いけどさ……多分、マインがショック受けるんじゃね?」
「「「あっ……!!!」」」
どうやら三姉妹揃って、そのことは失念してたらしい。
なにせマインは最近、隣の家に住み始めたばかりだ。
そうなのに、俺たちが引っ越しちゃ、なんかすごく可哀想な気がする。
「い、今じゃなくても! とりあえず見るだけなら!」
どうやらキュウの頭の中は、新居のことで一杯らしい。
でも、確かにキュウの言う通りだ。
とりあえず、見ておくだけでも。
と、言うわけで、俺たちは不動産屋へ出向き、幾つかの物件を内覧させてもらうことにした。
移動用の馬車も用意してもらって、そこで……
「こんにちは! 本日皆様のご案内をいたしますアクトと申し……ってぇ!?」
「よお、アクト。こんなとこでもバイトしてんだ?」
「あははー……来月学費の支払いがあって、すこーし足りなくて、派遣をですねぇ……」
相変わらずシンはアクトへ鋭い視線を送っていたのだった。
「と、とりあえず! 一軒目、ご案内しまーす!!」
アクトの運転する馬車に揺られて、10数分。
まずはキュウが目をつけた物件からだ。
「わぁー! やっぱり雑誌よりも、本当に見た方が素敵ー!!」
キュウはモダンな塔を見上げて興奮していた。
こいつは最近流行りの塔型集合住宅(タワーマンション)というやつだっけ?
「こちらの物件は弊社がプロデュースした最新型なんですよ!」
すかさずアクトが割り込んで来る。
声はすっかりワントーン上の、営業ようのものだ。
「エントランスは常に専属の衛兵さんが24時間監視してますのでセキュリティは完璧!」
「へぇ!」
「大階段を上がって2階は住民専用のカフェテリアとトレーニングジムを併設! ちなみにカフェには夜の20時まで、専属のバリスタが常駐しているんです!」
「わぁ!」
「驚くのはまだまだこれからですよー。お部屋は最上階のペントハウスを除いて、全て3LDK!」
「ひろぉーい!」
「キッチン設備はすべて最新式! 日当たりはどの部屋も最高で、いつでも、どんな時でも街全体を見渡せます!」
「すごぉーい!」
「こんな素敵なマンションが! なんと破格の一戸2030万Gのところを、本日の即決のお客様のみ! 1999万Gの分譲です! もちろん分割オッケー!」
「買ったー!」
「「「買うかー!!!」」」
ノリノリなアクトとキュウヘ、残った俺たちは声を揃えて突っ込んだのだった。
「姉貴、正気に戻れ! 1999万Gだぞ!? すんげぇ大金なんだぞ!?」
「売りに出ているシン達の屋敷より高い!」
「キュウ! 借金に借金を重ねんな!」
「あ……そ、そうだよね……あはは……すみません……」
俺たちの声で正気に戻ったキュウは恥ずかしそうに俯く。
「ぶー! 買ってくれないんですかぁ?」
脇のアクトは不満げに唇を尖らせている。
「いやいや、さすがに2000万G近くの物件は……」
「よっ! 一流冒険者トレーナーのトクザさん! 男前! ここは男らしく即決即断で! 私を助けると思って買ってください! 一戸売れればインセンティブで100万Gもらえるんです!」
「いやだから買わないって! いくらお前の頼みでもこれは聞けん!」
「ちぇ、ケチンボ……まぁ、良いや。んじゃ、次の物件ご案内しまーす」
不満たららたらなアクトの馬車に揺られて、二軒目へ。
次はコンの選んだ物件だった。
「なにこのごっついの……?」
「砦?」
「シン、ビンゴ! そうこの建物は元国立兵団の砦だったらしいんだ!」
コンは街の郊外に立っていた、無骨な石造りの建物を見上げて、満足そうな様子だった。
「100年以上も魔物の攻撃から街を守り続けた立派な建物なんですよ! ささ、中へどうぞー」
すっかり目の色が"お金"に染まっているアクトが案内を始める。
「間取りは脅威の10K! 一つ一つのお部屋は小さいですけど、とっても頑丈なんです!」
「おー! 10部屋も! 1人一部屋以上あるじゃん!」
「材質はすべてアダマンタイトを練り込んだ特製の煉瓦造り!」
「うおお! あたしがパンチしても壁が崩れねぇ!!」
「更にさらに! こちらをご覧ください!」
アクトは一番奥にあった大扉を開け放った。
巨大な部屋の中には剣や鎧などなど様々な武器が所狭しと並んでいる。
「なんと! ここにある武器が全部セットでついてきちゃいます! これでお値段なんと!1000万Gのところを、999万Gに! 今この場で即断即決してくださったお客様限定です! いかがですかー!?」
「買ったー!」
「「「買うかぁーっ!!!」」」
俺はコンから、手にした契約書を奪い去った。
「コン、あんたこんなとこに暮らして何する気なの!? 1人で戦争でも始める気!?」
「コン姉、見る!」
シンは武器の中から適当な剣を選ぶ。
苦労して鞘から抜いたそれは刃こぼれだらけの、錆だらけ。
更にディスプレイされていた鎧を蹴り飛ばせば、それだけで腐ったビスや紐が弾けてガラガラ崩れ出す。
「これ全部ゴミ! 不動産屋のインチキ!」
「い、インチキだなんて人聞きの悪いこと言わないでよー! 中にもまともに使えるものがあるはず? トクザさんは信じてくれますよね!?」
「いや、全部ゴミだな」
ここはアクトの今後のことを思ってキッパリ言ってやった。
「うわぁーん、トクザさんも冷たいー! うう……私頑張っているのに……こんなにも頑張っているのに……」
「あ、ああ! すまん! 泣くな! なっ?」
「ぐすん……じゃあこの物件買ってくれます?」
「いや、買わん! 絶対に!」
「ちぇ……ケチンボ」
なんだよ、今のは嘘泣きかよ。
全く逞しいというかなんというか……
「はぁ……じゃあここはこれでお終い! 次行きますよー」
そうしてスタスタと出ていって、馬車に乗り込む。
しかし3元目の物件……シンの選んだ物件の概要を見て、顔を真っ青に染めた。
「あ、あの……あそこを見るんですか……?」
「文句言わない。さっさと案内する!」
シンに睨まれて、アクトは諦めたように嘆息した。
「はぁ……わかりました……」
そうしてやってきた三件目……シンの選んだ物件は、型は古いが割と小綺麗な屋敷だった。
「ここお買い得! これで200万G!」
「「「なんだってぇー!?」」」
シンの言う通り、ここはいい物件だと思った。
でもこの規模でこの安さ。
更に、ここにきてからアクトがずーっと黙り込んでいる。
「不動産屋、さっさと扉開ける!」
「あ、えっと、はい……」
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