追放された成長スキル持ちと三姉妹冒険者~彼は希望を取り戻し、勇者は没落する~

シトラス=ライス

第1話明日への希望を失っている冒険者訓練士のおっさん、またまたクビになる


「おっさん! アンタはここでクビだ!」


「いきなりだな……まぁ、良いけど……だったら解雇の理由を教えてくれないかい?」


 解雇理由を聞くのは、正直しんどい。

だけどちゃんと聞いておかないと、離職票が書けないってローゼンに文句言われるもんなぁ……


「だっておっさんとパーティー組んでても、俺ら全然成長しないじゃん! 役立たず! ばか! あほ! 詐欺師!」


 と、勇者のパルディオスは、そう言い放った。


 ちなみに俺の職業は【冒険者訓練士】ーー"トレーナー"、とかとも言われている。

冒険者に同行してアドバイスをしたり、【経験値倍化】の成長スキルを発動させて成長を促すのが主な仕事だ。

とある大事件をきっかけに、ムサイ国の冒険者ギルドが設けた割と新しい職種だ。


 もちろん、指示さえあればパーティーの一員として戦闘もこなす。

一応、これでも元剣豪の冒険者なもんで。

とはいっても、パルディオスくんは俺が気に入らないのか、これまで全然戦闘指示を出さなかったけどね……


「お前らが成長しないのなんて当たり前だろ。だって俺のいうこと全然聞かねぇし!」


言われてばっかりも癪なので、せめて口だけでも逆襲をしてみた。

だけど、パルディオスくんは全く効いた素振りをみせない。


「言うことを聞けば、俺たち成長できたって?」


「契約書にも書いてあっただろうが!」


 俺は改めてパルディオス君へ契約書を突きつけた。

 うん、間違いなく俺は成長スキルの発動条件として「トレーナーの命令の絶対遵守」と書いてあるぞ。


「んなの知るかよ。こんなちっちゃく書きやがって! こんなの詐欺だ! 詐欺!」


「ちっちゃいって、他の条文と同じ大きさのフォントサイズだろうが!」


「こういうのはでっかく書くのが親切だろうが!!」


 あらら、キレられちゃった……最近の人は契約書なんてちゃんと読まないもんなぁ。

てかこの契約書はギルドの記述規定に沿って作ってるから勝手にフォントサイズ弄れないんだよなぁ……


「だから口頭でもちゃん言ったと思うけど? 成長条件はちゃんと俺のいうことを聞くって?」


「覚えてねぇよ! それに勇者の俺に今更筋トレとか、剣技の基本とかいらねぇっつうの!!」


またまたキレられちゃったよ。

契約の時の相槌は適当だったのね。

きっとわがままを言えば、周りがなんとかしてくれる環境で育ったんだろうな。


それに基礎的な訓練を指示したのは、パルディオスくんはそうしたらもっと強くなれると思ったからなのにな……


「こうして改めて成長スキルの発動条件が確認できたわけだけど……俺をクビにする件、どうする?」


「お前のそういう態度が気に入らない! やっぱりクビ! この時この場を持って、勇者パルディオスは冒険者訓練士【トクザ】をクビにする!」


 


……

……

……



「……と、まぁ、これが今回俺がクビになったあらましよ」


「はいはい、そうですか、そうですか。これでトレーナー始めて何件目よ……」


「14件目?」


「15件目! まったく……この書類作るの面倒なのよねぇ……」


 顔なみじの冒険者ギルドで受付嬢をしている【ローゼン】は、ぶつくさ文句を言いつつ、ペンを走らせ始めた。

 こうして文句を言いつつも、すぐに離職票を作ってくれる、ありがたい女性職員なのだ。

しかも俺と同い年の割には結構いい女でもある。


「あんたなんでいつも事細かく説明とかしないわけ? そうしてればこういうトラブル少なくなると思うけど……」


「しているつもりなんだけどね。つーか12件目の解雇の時は、細かく説明してたら"長くてうぜぇ!"ってクレーム付けられたし……」


「まぁ、今の人ってせっかちさんばっかで、文章は良く読まないし、人の話も全然聞いていないなし……うちもそういうのでいちゃもんに近いクレーム受けること多くなったのよねぇ……」


 ギルドもギルドで大変らしい。

特に窓口は毎日いろんな人に会うから、ストレスは相当なものなんだろう。

俺なら絶対にやりたくない職業の一つだ。


「俺と契約するのはみんな大人な訳だし、子供じゃないんだから。こっちがいちいち事細かに説明するのって、そいつのためにはならないと思うんよ」


「確かにね。大人なんだから自己責任でちゃんとしてほしいわよねぇ……」


「よく読んでサインしましょう契約書! よく聞きましょう人の話! ってな」


「あはは! 私もここで一回ガツン! と言ってやりたいわ!」


「俺みたいな一介のトレーナーだったから良いものの、悪いやつだったらとんでもないことになってるだろ? だから俺は今最低限の説明と、じっくり読む時間を設けるだけにしている! 良い習慣を身につけてもらえるように!」


「……別にトクがわざわざそんなことする必要ないじゃない。なんで、敢えて貧乏くじ引くような真似を……」


 ローゼンは俺のことを昔のように、敢えて"トク"と愛称で呼んでいた。

きっと、心配してくれているんだろう。


「良いさ、俺のことなんてもう……これぐらいでしか社会貢献できそうもないしね」


「トク……」


 今日も冒険者ギルドにはたくさんの冒険者が集まって、夢だの、冒険だの、一攫千金などと沸き立っている。

 暑苦しいったらありゃしない。

 俺の情熱なんて、とっくの昔に消え失せている。もはや今の俺は冒険者崩れの萎びたおっさんだ。


「はぁ……昔のアンタはどこへ行ったのやら……」


「ん? なんか言った?」


「書類できた! さっさと総務窓口へ持ってって!」


「サンキュー! さすがは優秀で可愛いローゼンさん」


「優秀は認めます。でも可愛いなんて褒め言葉、おばさんには通じません! ほら、次つっかえているから、さっさと行く! シッシ!」


 ひょいと離職表を受け取り、奥の総務窓口のカウンターへ向かってゆく。

 これさえ出せば、暫くは冒険者ギルドの保険協会から失業給付金がもらえるのだ。

まったくありがたい時代になったもんだぜ。


 ここ最近はパルディオスくんに引っ張り回されてばかりで、ろくに家に帰れていなかった。

自分の時間だってありゃしない。

だからしばらくは失業給付金をもらいながら、悠悠自適な日々を過ごしつつ、次のパーティーでも探しますかね。


――心躍る冒険やら、冒険者としての偉大な気概なんて当の昔に捨て去った。

俺には重厚な人生なんて必要ない。

金は最低限で大丈夫だし、女なんてものもいらない……てか、ご無沙汰過ぎて役立たずだろうし。


俺はただ平々凡々と、薄っぺらい人生を送れればそれで良い。

適当に、そして穏やかに余生を過ごせりゃそれで……



「え――!! せっかく、苦労してここまで来たのにぃー!!」


 周りも、俺さえも注目してしまうほど、でっかく甲高い声だった。

 どうやらあそこのカウンターにいる、女弓使いが叫んだらしい。


 にしてもえらい美人だ。

 ブロンドの長い髪を後ろで結った、すらっとした体型の美人さん……冒険者じゃなくて、モデルなんかやった方がいいんじゃないか?


「どうすんだよ姉貴! あたし、他の訓練士なんて嫌だからな! 絶対に嫌だからな!」


 美人さんの後ろにいた、女の子も声を上げた。

弓使いになんとなく顔が似ているから、姉妹なんだろうか?

こっちは短めの髪で、少しがっちりしたスポーツ体型。たぶん戦士職。そして可愛い。

良いね! こういうスポーティーな印象の子も好みだ!


「シンも絶対やっ!」


 このおかっぱ頭の子もたぶん弓使いと戦士の妹で、職業は魔法使いと……すっげぇ可愛いな。お人形さんみたい。

てか、なんだ、あの立派な胸の双丘は!

背がちっちゃくて、子供っぽい顔をしながら、またご立派なお胸を……ごっつぁんです!


「うーんでも、本当にどうしよう……」


「あたしは待つからな! 何日だって待ってやる!」


「シンも! シンも!」


 と、おそらく三姉妹らしい美人な新米冒険者は、冒険者訓練士の斡旋カウンターの前でああだ、こうだと話し始めた。

おかげで順番待ちが発生し始めている。

 さすがにアレは迷惑だなぁ……と、思うが俺は手を出さない。

だって関わったら絶対に面倒臭そうなんだもん。


そんなところへすかさず、駆けつけたのはローゼンさん。

さすがは敏腕職員さんだ。


 ローゼンは三姉妹からなにやら話を聞いて、笑い出す。

 そしてこっち方を指した。

 俺の後ろになんかあるのか……?


「「「いたぁー!!」」」


 突然、三姉妹は大合唱を響かせた。

そしてドドド! と物凄い勢いでこっちへやってくる。


もしかして、俺……!?


「お久しぶりです、トクザ先生!」


「トク兄久しぶりっ!」


「トーさん、おひさぁ!」


「あ、あの……えっと……もしかしてお前たちは……?」


 昔々といっても、10年ほど前、俺はトレーナー研修の一環で"サク家"という地方貴族の家で半年暮らしたことがあった。

その時、仲良くなったのがちっちゃくて可愛い、サク家の三姉妹……


「サク家の長女の【キュウ・サク】です! ご無沙汰しておりました先生!」


 モデルみたいに綺麗な弓使いはハキハキ元気よく挨拶をし、


「次女の【コン・サク】だよ! 覚えてるかい、トク兄!」


 爽やかな女戦士は豪快に声を上げた。


「三女の【シン・サク】! トーさん! 本物のトーさん! ワクワク!」

 

 背は一番小さいくせに、姉妹の中で一番立派な胸の魔法使いは目を煌めかせた。


 こうして数年越しに会うって感慨深いものがあるね。

 10年前はただのちびっ子だったのが、ここまで立派になりやがって……なんだ急に自分が歳をとったて思っちまうだろうが、こんちきしょうめ。


「で、俺になんかようか?」


 三姉妹は顔を見合わせて、そして……


「ずっと、お誘いできる日を待っていました先生!」


「あたし達、今日から冒険者デビューなんだよトク兄!」


「だからお願い! シン達の冒険者訓練士になって! トーさんっ!」


 三姉妹は平伏し、おでこをピッタリ床へ付けて頼み込んでくる。


「「「お願いします!!!」」」


「お、お前ら! 頭を上げろ! こんなとこでいきなり何してんだよ!!」


 おいおい、なんなんだよこの状況は!?


 ……どうやら俺は失業給付金をもらってゆっくり過ごせないらしい……?




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