第7話 盗賊団討伐

 夏樹の冒険者登録を済ませたジョセフは、マリー達と出会した。


 「ちょうど良いところに来たね。今からクエスト始まるから準備して」


 いきなりの出来事に夏樹は困惑していた。


 「なぁジョセフ、こいつ誰だ?」


 「彼女はマリー、クラスは見ての通り魔法使いだ」


 「よろしく」


 マリーと視線が合い、マリーは夏樹に微笑を浮かべ会釈した。


 夏樹の態度を見てリサは唖然とした。


 「夏樹さん、初対面の人間に対して随分とフレンドリーなんですね……」


 「う〜ん、なんかタメっぽいからなんとなく」


 「リサちゃんが不安がるのも無理ないよね〜、肉体年齢は十六歳程度だけどね。こう見えて何千年も生きてるから」


 夏樹はマリーのという単語に身体を硬直させた。


 「この世界がまだ魔法が主流じゃなかった頃に生まれたわけだからねぇ。軽く千年以上は過ぎたと思うよ」


 それを聞いた夏樹はマリーを凝視する。


 「千年ってことはババア!」


 夏樹は絶句した。


 横から話を聞いていたジョセフは目を瞑り、煙草を咥える。


 「……やれやれ、だめだこりゃ……」


 「それでマリーさん、どんなクエストをするのですか?」


 リサはマリーに問うた。


 するとマリーは、ニコッと笑う。


 「それはね、聞いて驚くな?今回は盗賊団の討伐をします!」


 初めてのクエストが浮気調査だったのがいきなり盗賊団の討伐だ。


 ジョセフは順序が早すぎるのではないかと疑問を抱いた。


 「盗賊団の討伐って、これ俺達みたいな初級ランクでも大丈夫なのか?」


 「本当はワンランク上じゃないとダメなんだけど今回は報酬が少ないから私たちみたいな駆け出しでもいいことになってるみたい」


 マリーの発言にジョセフは顎に手を乗せ、首を傾げる。


 ジョセフ達のランクで受けていいクエストは低級クラスの魔物の討伐や街の掃除、浮気調査等の簡単なクエストばかり。


 「要するに依頼主がランク相応の依頼料をギルドと冒険者に支払いができないからそれでマリーさんが低い料金で引き受けたってことですよね?」


 マリーは察しがいいなと思い頷いた。


 「そうだよ~。困ってる人は放っておけないからね~」


 軽いノリで返す。


 ジンジャーはジョセフとリサに視線を向ける。


 「私はそれなりに実戦経験あるけどいいけどジョセフとリサっちは大丈夫なの?」


 「リサを守りながらになるだろうが死なない程度には……」


 それだけ受け答えるとリサは頬を膨らませ「子ども扱いしないで!」と言いたげだ。


 ジンジャーとジョセフの会話にテレサが急に割り込む。


 「二人の身に危険が生じないように私が二人を守ってみせます」


 「そう言ってもらえると頼もしいが俺も男として守られるのは……」


 苦笑しながらジョセフは肩を竦める。


 「城門前を抜けたら依頼主がいるから早く行きましょう」


 マリーは城門前までジョセフ達を急かすように促す。


 城門前にはそわそわと貧乏ゆすりしている青年がいた。


 「冒険者さん、来ましたか……それでは、私達の村を盗賊団から救うべく行きましょうか」


 青年はどこか落ち着かない様子だ。


 リサは相手の心が読めるので聞けばすぐに分かるが青年の置かれている状況を察したのか目を曇らせていた。


 村に到着し、ジョセフ達を見た村人達の視線はどこか冷たかった。


 「ここが村長のお屋敷でございます……」


 村長の屋敷はそれなりに立派なもので。庭木もしっかり整っており、他の村人の家とは比べ物にならないほどの高品質だ。


 建物は白を基調としており、裕福な生活をしているのだろうとジョセフでも分かった。


 青年は村長の屋敷の扉にノックをする。


 「村長、只今戻りました」


 返事はなく、静まり返っていた。


 途端に扉が開いた。


 「何だ、戻って来たのか?おっと、この様子だと……」


 村長は扉から顔を少しだけ出し、言葉を詰まらせる。


 「村っ……、父上!いつまでも盗賊団からビクビクしながら食料をたかられててもらちがあきません!冒険者でも雇って盗賊団の拠点を叩いてもらってこれ以上村に損害を与えないようにするためには……」


 「――黙れ!その冒険者を雇うにも金がいるだろうが!冒険者に支払う報酬はどうする?あいつらが来たせいで作物も減り売ることもできないんだぞ!」


 青年と村長もといその父親は口論を始める。


 これは親子で決めていい問題ではないからだろう。


 村の長である以上、村民の命を預かっているのだ。


 安易に盗賊団の討伐依頼を出してハイおしまいという訳にはいかない。


 村の様子を見る限り、報酬を出せるかも分からない。


 そんな中、青年は勇気を出して出せる財産を犠牲にこの討伐を依頼したのだ。


 この世界では盗賊団や魔物の被害による貧困はよくある事なのだろう。


 しかし、依頼を受けたからにはきっちりこなすつもりだ。


 「んで、その盗賊団っつーのは何処を拠点にしているんだ?」


 夏樹は青年と村長の間に空気を読まずに問うた。


 「村はずれに迷宮の森林付近に確か野営していたかと……」


 「そんじゃあちょちょいと盗賊団討伐しようぜ」


 全く状況を理解していない夏樹はすぐさま提案を出すが、テレサは「それには賛成できない」と反対した。


 「何だよ?村の人達が困ってんなら……」


 「盗賊団とはいえ必ずしも雑魚とは限りません。現に夏樹殿は丸腰の状態で戦えるとは思えないのですが……それに場所はわかるのですか?」


 「それは……」


 テレサは夏樹の格好に視線を向けながら肩を竦め溜め息を吐く。


 「せっかくだから中に入ってから詳しく聞こうよ」


 ジンジャーは提案を出す。


 その案に周囲は納得し、村長の屋敷の中へとあがることになった。


 屋敷の客室間に誘導され、ソファへと腰を掛ける。


 状況からお茶が出ることはまずないだろう。


 ジョセフは煙草を口に咥え”ファイヤー”と詠唱し指先に炎が小さく揺らめき煙草に火を付ける。


 「煙草はメッ!ですよ」


 「とは言ってもねぇ、一度始めたら……」


 リサは煙草を吸うジョセフに注意を促し、反論しようと試みるも言葉を詰まらせる。


 「お待たせしました。早速ですが、盗賊団の情報についてですが……」


 青年は村長と一緒にソファへと腰を掛け、盗賊団の情報を話す。


 「盗賊団についてですが、規模は十数人程でつい最近までは別の領土にいたんですよ……それが何故かこの村に目をつけ、不定期に村へやってきます。当然最初は断っていましたが犠牲者を出すわけにもいかないので従わざるを得ませんでした……。盗賊団の首領は確か覇王眼を開眼しておりまして、魔力を直接操作ができてあらゆる魔物を従わせることも可能です……他は大したことはないのですが首領にさえ気を付ければあなた達駆け出し冒険者でも何とかなるかと……」


 首領は覇王眼持ちだそうだ。


 ジョセフは覇王眼を左目だけ開眼しているが同じ眼を持った者同士で戦うことを想定するなら戦況はかなり悪化するだろう。


 迷宮の入り口にと言っていたが普通なら冒険者の出入りとかもあるだろうからそのような場所に拠点を置くのだろうかと疑問を抱く。


 夏樹は青年に問うた。


 「そのってのはなんだ?」


 「魔眼の始祖とも言うべき眼のことです。正確には覇王眼は神眼の部類に入るのではないかとも諸説ありますが実のところハッキリしていないんですよ……」


 「何で神眼なんだ?」


 「神にも悪魔にもなれる可能性のあるからだそうでして、それ以上は分かりません」


 「ふ~ん、そんなすげぇ眼開眼しちゃった相手倒すの無理じゃね?」


 ジョセフはサングラスを外し、左目を見開く。


 刹那、碧眼だった左眼は深紅に、黒目の周囲には紋様が浮かび上がる。


 青年と村長はジョセフの左目を見て驚いた。


 「「その眼は!」」


 「覇王眼らしい、何で開眼したのかは知らないがこの眼を開眼している相手を倒せるのは俺くらいしかいないかもしれないな……とは言ってもまだ力の制御が上手く出来ないから死ぬかもしれないがね」


 「そうならないように私達が支援するわ」


 マリーはそんなジョセフを見て微笑する。


 「しかし、片目だけとはいえどあの首領に勝てるかは……」


 村長は不安でいっぱいのようだ。


 「少し眩暈がしたな……覇王眼を発動しただけなのにここまで体力持っていかれるとは……」


 ジョセフは頭を抱えながらリサの方へと倒れ込む。


 「ジョセフ様……」


 リサの悲し気な表情を見せまいとジョセフはすぐに姿勢を整える。


 「盗賊団の拠点なんだが、俺とジンジャー、マリーで叩く!リサと夏樹、テレサは一緒にこの屋敷に残ってくれないか?」


 「私も一緒に……」


 「リサ、その気持ちは嬉しいが君にもしものことがあったら俺はどう説明すればいいの分からん……テレサがいれば安心だろうから……」


 「それでも一緒について行きます!」


 頑固なリサに気圧されたジョセフは同行を認めざるを得なかった。





 *****************************


 数時間後、ジョセフ達は盗賊団の拠点へと向かう。


 迷宮付近の森林には魔物も生息しており、その中には首領が従えてる魔物もいるだろう。


 その為か、周囲のあちこちに魔物が食い荒らされている痕跡がある。


 「盗賊団の討伐、生きて帰らねばな……」


 「ジョセフ様……そんな不吉なことを言わないでください!」


 「覚悟しているってことだよ。それくらい……」


 対人戦であればと思っていたがジョセフも人殺しの経験はない。


 命の奪い合いをどこまでやれるか、その覚悟が問われるのだ。


 「リサっちの気持ちも分からなくもないけどジョセフの言うことも一理あると思うよ?」


 「分かっています……でも、やっぱり愛する人に死なれては……」


 ジンジャーに反論しようとするもリサは言葉を詰まらせた。


 他に何か言いたげなリサを察したのかマリーは尋ねる。


 「他に何か言いたいことがあるみたいだけど?」


 「もしかしたら私の伴侶となるかもしれないからです……」


 「予言の人ねぇっ、その内容がどういうものかは聞かないでおくわ。リサちゃんも腰に差してる剣が飾りじゃなければ自分の身はしっかり自分で守ることね。戦場に出るって言うのはそれくらい覚悟を有されるものよ」


 にこやかなマリーの表情は真剣になっていた。


 「そろそろね」


 マリーは足を止め、詠唱を始める。


 「「――”詮索”!」」


 マリーの詠唱と同時にジョセフも真似をする。


 二人はシンクロしており、リサはジョセフの左目を確認すると覇王眼が発動していた。


 「気を付けた方がいいわよ……魔力の流れ的に盗賊事態は雑魚でも従えてる魔物は初心者冒険者には手強そうよ」


 「……んっ、確かにそうだな。”詮索”使っただけで頭痛がきやがった……魔力の流れが強すぎて一気に消耗した気がする……」


 「取り敢えず私も接近戦には備えておくわ」


 煌めいた剣を片手に浮かび上がり、右手に取ったマリーはそのまま剣を構える。


 「その剣、魔法使いとは言っていたが……」


 「この剣はカリバーン、かつてアーサー王がエクスカリバーを湖の貴婦人から貰う前に使用していたつるぎ。現在は存在しないはずの選定の剣」


 カリバーン、アーサー王がかつて使用していたとされる剣だ。


 諸説、エクスカリバーと同一視されているがこの世界では別物のようだ。


 「マリーさんはやっぱり……」


 「察している通りの人物よ」


 「って、ジョセフ!」


 ジョセフは覇王眼の残像を残しながら走る。


 盗賊二人は眠たげな表情で魔物を引き連れ見張りをしていた。


 森の中は真っ暗になっており、それを利用してジョセフは闇討ちを仕掛ける。


 「ん?うぐっ!」


 盗賊の一人を背後から首を跳ね、二人目は”スパーク”を纏わせた拳で顔面を殴る。


 「何だぁ、全然痛くねぇ……熱い、頭がいだだだだだだだぁ~!」


 ”スパーク”で盗賊の脳細胞を狂わせ、頭を抱え、体は蒸発し、頭部が電子レンジに入れた卵のように爆発し、血飛沫をあげていた。


 初めて人を二人殺した。


 そのことで頭がいっぱいになり、背後から魔物に襲い掛かられていることさえ気づかずにいた。


 「うぐるるるるるるるるるるぅ~!」


 盗賊が引き連れていた猿型の魔物は断末魔に似た咆哮をあげ、マリーは魔物の頭部をカリバーンで突き刺した。


 「気を抜かないで!こんなのは序の口よ!リサちゃんはジンジャーちゃんと一緒にいるから忘れないように!」


 「あぁ……」


 ここで「ごめん」と謝ることはしなかった。


 謝るのは生きて帰ってからでもできるからだ。


 今は害虫に等しい盗賊団を叩くことが最重要任務だ。


 「今ので気付かれたと思うからこのまま責めるしかないわ……」


 マリーの動きは戦い慣れしており、魔法使いと言うよりは魔法剣士の方がお似合いだった。


 盗賊はジョセフはリサを守りながらジンジャーと、マリーは魔物を討伐していた。


 魔物を引きつけ、魔法と併用しながらカリバーンで切り裂く。


 その動きを見よう見真似でジョセフは盗賊達を斬り捨てる。


 「マリーと同じ動き!噂には聞いていたけど覇王眼ってのは凄いわね……」


 「ハァハァっ……動きを真似しただけなのにここまで消耗するとは……グハっ!」


 体力と魔力を同時に根こそぎ落とされた衝動でジョセフは地面に跪き吐血をする。


 「ジョセフ君!」


 マリーはすぐさま駆け付け”ホーリーヒール”を発動する。


 ジョセフの体は白い光に包まれ、顔面蒼白な顔が元通りになる。


 「てめぇらか、俺の仲間と魔物をやったのは!?」


 盗賊団の首領と思しき男が怒号をあげる。


 「全く、女に囲まれてて尚介抱されるとはいいご身分だ」


 「お前がボスみたいだな。悪いがここで死んでもらう」


 「いい度胸だ。てめぇをやった後はそこの女達も食ってやる!」


 「ふざけろ、寝言は寝て言いやがれ!」


 ジョセフと首領の戦闘が始まる。


 首領の剣は半円状に湾曲している剣を振り回し、ジョセフは覇王眼の動体視力で間一髪躱す。


 「ふっ、どうやら覇王眼持ちのようだな。だったら俺も見せてやるぜ!」


 同じ眼を持つ首領は両目発動した。


 片目で制御が不完全なジョセフでは分が悪い。


 首領は剣術に長けているわけではないが剣に素人なジョセフ相手には一回りも二回りも上だ。


 「俺の覇王眼のユニークスキルは”パーフェクトテイム”って魔物を強制的に従わせる能力だがてめぇみたいな雑魚を殺すのなんて朝飯前だぜ!」


 首領の攻撃を躱す度に体力と魔力を同時に激しく消耗し、動きが鈍くなっていた。


 「オラオラ、休んでる暇はないぞ!」


 「ぐっ!」


 頬、腕等にかすり傷ができ、血が滲み出る。


 「野郎……大事な革ジャンを……」


 手が少しずつ震え、刀を握るだけでも精いっぱいだ。




 *****************************


 「マリーさん!ジンジャーさん!ジョセフ様を何とか……」


 「そんなこと言ったって……」


 「気持ちは分かるけどジョセフ君とあいつの間合いが近すぎて彼に当たっちゃうわよ!」


 リサは苦虫を潰し表情をし、体中を震わせる。


 大切な人に伝えたいことがあるのに、立ち向かいたいのに動かない。


 ジョセフなら相手が強者と分かっても立ち向かう勇気があるのに自分にはそれがないことにリサは苛まれる。


 「私が何とかするからジンジャーちゃん、援護頼むわ!」


 「うん、任せて……って、リサっち!」


 リサは必死に走る。


 鞘に収まってる剣の柄を握り締めながら地面を蹴り上げる。


 「ジョセフ様に手出しはさせない!」


 鞘から剣振りぬき、そのまま猪突猛進する。


 「リサ、来るんじゃない!」


 「よそ見してんじゃねぇよ!」


 首領はジョセフの腹部を蹴り上げる。


 「ぐっ……!」


 ジョセフは蹴り上げられた勢いでそのまま地面を転がる。


 「ふっ、小便くせぇ小娘か……犯さずこのままあの男の前でなぶり殺し……」


 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 剣を勢いよく振り下ろし、首領の左腕は水を斬るかのように綺麗に両断された。


 「うっ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 「………………………………り……リサ……」


 「ジョセフ様……!」


 「こ……このガキ……魔力の流れが強くなったかと思ったら感情とともにガラッと変わりやがった……俺の左腕を切り落とした罪……万死に値するわぁ!」


 首領は残った右手で魔法を発動しようとするも、ジョセフは刀を首領の背中目掛けて投擲した。


 「まずはてめぇからだ、死ねぇ!」


 首領目掛けて投擲したのに気付いたのか振り向いた直後躱し、右手から火炎弾が発射。


 火炎弾は直撃せず、地面に命中し、その衝撃によりジョセフの体は宙を舞う。


 「……………………」


 沈黙のまま地面に叩きつけられ、白目をむく。


 「隙あり!――”フラッシュ”!」


 「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 森は閃光手りゅう弾でも放ったかのように白く光り、その陰からジンジャーが双剣で首領の心臓を穿つ。


 「ぐっ…………!」


 双剣を引き抜き、首領は膝から崩れ落ち、地面に倒れる。


 リサはすぐさまジョセフの方へと駆け付ける。


 「ジョセフ様!しっかりしてください!まだ……、まだ何もしていないじゃないですか……新婚旅行だって、子作りだって……うっ、まさか……」


 涙がボロボロと零れ落ち、ジョセフの顔に雫が落ち、急に息苦しくなり、両手で胸を押さえる。


 それでもジョセフは微動だにしない。


 「マリーさん!ジョセフ様が!」


 「リサちゃん、ちょっとどいて!」


 マリーは剣幕とした表情で息苦しそうになってるリサを振り払う。


 ジョセフの胸に手を置き鼓動を確認しているのが分かった。


 「心臓は動いている……あれだけ消耗しているのによくもったわね……」


 慎重にマリーは”ホーリーヒール”を発動している。


 ジョセフの死が近づいているからなのか、リサの顔色が変わる。


 まるでジョセフの命と連動しているかのように、地面に倒れ込む。


 「リサっち、どうしたの?マリー、リサっちが!」


 「分かっているわ。今はジョセフ君が先よ!”ホーリーヒール”じゃだめか……心臓は無事でも地面に叩きつけられた衝撃で脳に相当ダメージが来ているはずね……でも、助からないわけじゃない!――”リストアレイション”!」


 ”リストアレイション”により息を吹き返し、マリーは安堵した。


 リサも息を吹き返したのと同時に一緒に目を覚ます。


 「俺は……、無事……なのか?」


 「治療が間に合っていなければ完全にご臨終だったわ……それにしてもリサちゃん……」


 「マリー、ジョセフってそんなに危険だったの!?」


 ジンジャーはジョセフの容態を聞いて驚愕した。リサの顔色も元通りだ。


 「うん、寧ろ普通の人間であの程度で済んでいること自体が奇跡よ。覇王眼と言うハンデを背負っていてあの衝撃で脳死してたで済んでいるんだから……彼の生命力は異常よ。それに、もし生還できても普通なら体を動かすことは不可能よ。私くらいの魔法使いなら脳死レベルでも治すことはできる、とは言ってもこのまま彼を安静にした方がいいわね。魔法でなんとかしたけど本人は精神的には疲れているだろうから……」


 「あまり女の子にされるのはいい気分はしないがありがとう。」


 「このくらいいいわよ。リサっちはあなたのこと本気で惚れ込んでるみたいよ」


 「知ってる」


 「ジンジャーちゃん、ジョセフ君にあんまり喋らせちゃダメよ」


 マリーはそう言いながらジンジャーはジョセフを背負い、リサはジョセフと一緒に死なずに済んだものの、顔を俯かせながら村へと帰路を辿る。

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