第6話 初めての日本人

 ジョセフ達が持っている冒険者カードはクエストをこなすことでランクアップすることができる。赤、黄色、緑、青、銅、銀、金、白金の順で分けられており、ジョセフ達は赤から、黄色へと今さっきランクアップしたばかりなのだ。


 ゲームと似たようなシステムで、最初はランクアップしやすいのだが、ランクが上に行けば行くほど高難易度のクエストを受けないと上がりにくくなるということらしいのだ。


 簡単なクエストだけやられても組合側も困るだろうしそうするのは自然の道理ではある。


 「坂本龍馬の刀で思ったがやはり、異世界転移してる人間は俺以外にいるのだろうか?いるとしたなら俺以上に強い人間もいるはずだろうからな……もし、そいつらと相見えることになったら俺は勝てるのだろうか?」


 ジョセフは未だに理解できずにいた。


 ラノベだと日本でトラックとか車に引かれたり神様が手違いで雷落として死んだ冴えない社会人や学生とかをわざわざ危険な異世界に送るよりも記憶を消してまた普通に赤ン坊から転生させるのではだめなのか?そんなことを考えながらジョセフは宿の部屋で日記を書いていた。


 ジョセフは内心、自分以外にも転移させられた人間がいることを確信してはいたがどうも腸が煮えくり返りそうな気分でいっぱいでいた。


 他の転移、転生者は何の考えもなしにチート能力を授かり、無双してハーレムなんて生活を当たり前の如く、全て自分の力で築き上げたものだと己の力を過信している勘違い野郎がのさばっているのかと考えるととても気に入らない。


 かといって、ジョセフ自身あまり人のことをとやかく言える立場ではないため、自分以外にもいるってのは少し嫌な気持ちでいた。


 事実、神様からこの世界の読み書きができるようにしてもらったのだって一種のチートみたいなものだけど、それが俺TUEEEE、ハーレム生活ができる絶対条件ではない。


 ジョセフはこの世界に来て改めて思ったことは、リサのようにジョセフの人柄に惚れた傾向だってある。ジンジャーに関してはなんとなく一目惚れした感じと言っていいだろう。


 リサはお淑やかで心がとても綺麗であり、誰にでも気配りができる優しい女の子ではあるのだが、ジョセフに異常なまでに依存していることが玉に傷である。


 「一途に愛してくれているとはいえリサはまだ13歳、色んな恋愛を知っておいた方がいい年頃だぞ……」


 ジョセフ達よりも若いうちから結婚ができるとはいえ、流石に結婚したいと思う順序が速すぎるのは良くないことだと思うわけで、ラノベのハーレム主人公みたいに急展開でモテるなんてことをジョセフは求めていない。


 寧ろ、真剣に恋をして、友達から始めてそこから二人の絆が結ばれた時にこそ結婚するものだとジョセフは恋愛感情を失ってありながらも考えている。


 「ジョセフ様、何を描いてらっしゃるのですか?」


 「……んっ、今は日記書いているところだからまた後ででもいいかな?」


「日記とか書いてるんだぁ、結構まめな性格してるのね」


ベッドに腰かけてたジンジャーは頷く。


 「分かりました、また後で声をおかけします」


 リサはベッドに腰をかけた。


 ジョセフはたまにはこうやって日記をゆっくり書きたいと思っていたのだが、いつまでもリサ達にとっての異世界人である真実を隠し通せるとは思ってはいない。相手の心を読める為、異世界人であることは気付かれているだろうが、直接伝えた方が早いだろう。


 「こんな時にスマホがあれば……向こうの世界の情報とか得ることができるんだけどなぁ…侑、仁、ジョナサン、ジョニー、ジョージ、親父、おふくろ達、今頃元気にしてるのかなぁ…」


 そんなことを呟きながらジョセフは紙にイラストを描いていた。


 ジョセフは小学校の頃はイラストを描いたりして楽しんでおり、中学になってからはイラストよりも喧嘩にばかりに明け暮れていて碌な記憶がなかった、これも全て異世界に転移させられたのは、そうゆう人生を楽しく過ごせなかった人間が理想の生活を手に入れるために神様がやっているのかと今なら思えるのだが、ジョセフは異世界に来る前は神の存在を信じていなかった、神なんて人間が作りだしたエゴから生み出されたものであり、全ては他の人間を洗脳するためにあるものだとばかり思っていたが、実際に神様は存在してはいるが神様は全ての人間に平等を与えることはなかった。


 本当に平等であるならばこんなにも格差というものがある筈がないからだ。


 前いた世界でもスクールカースト、中小大企業等の学歴差別、社内での虐め、パワハラ等が頻繁に行われているのだ。それはいつの時代、どの世界で起こりうるものなのだろう。


 「リサ、終わったよ」


 「終わったんですね」


「もう終わったんだ!」


 「……っん、実は話しておきたいと思ったことがあったんだ」


 「どんな話ですか?」


 「俺は……リサが信じてくれるかは分からないけど……実はっ、この世界とは違う別の世界から来たんだ…」


 「はい。私、前から知っていました」


「えっ、ジョセフって異世界人なんだ!てか、リサっちそれ知ってたの?」


 ここなら普通「そんなデタラメ……」とばかり言うとジョセフは思っていたのにあっさりとリサは信じてくれたのだ。


 「ゴブリンから私を救ってくれた時からジョセフ様の心を読んでいたので分かっていました」


 「最初から心を読んでいたって?」


 「はい、ジョセフ様は見ず知らずの人間の為に勇敢に立ち向かい、他人を心配する思いやりのある黄金のように光り輝く精神から別の世界の人間だと分かり、それだからこそ持ち合わせることができる優しさがあるのだと察することができましたわ」


「リサっち、心も読めるってかなり反則じゃん!」


 (そういうことか、最初からリサは俺の秘密を知ったうえで結婚したいと思うようにもなったのか、そうならそうと最初からそう言えばいいものを……)


 出会ってからリサと会話をしたことがなかったジョセフは、ゆっくりと会話もしようとも思ってもいなかったためリサと会話することを新鮮に感じていた。


 「俺以外にもこの世界に来た人間がいるってことがここ最近で分かったがどう思う?」


 「ジョセフ様以外にも?」


 「ああ、まずは浮気調査の時の依頼主のアーサー・サカモトの先祖の話で確信した。もしかしたら、これからもこの世界に転生、転移者が出現するかもしれない。この世界に危機が訪れたりとか地球から召喚した者はこの世界の住人よりも高い潜在能力があったりとかする可能性も否定はできない……」


「もしジョセフ以外に異世界人がいたら勝てる自信ある?」


「正直分からん。ただでさえこの世界のことを理解していないからな」


 ジョセフが今推測しているのは、この調子だと、これからも日本から人が来る可能性があるだろうとリサとジンジャーに話した。神様が手違いで異世界に転移させるものを召喚してしまったということを言っていたからだ。確実に他の日本人がこの世界にやってくることは確定と言ってもいいだろう。


 リサとジンジャーもジョセフという人間がいたからなのか、困惑こそしたものの、話をすぐに飲み込むこと等容易いことだったのだ。


 そして、この世界の人間は妙に日本にいた頃に聞いたことのあるような名前だったり、固有名詞が出てきたりと地球と共通のものがあるみたいだ。ここは本当に異世界なのか疑問に思うところだ。もしかしたら異世界であることに関しては間違いないのだろうがそれを確証できるものがなければそれを解明することができないのだ。


ジョセフのいた世界では魔術もとい、魔法は使えないが、この世界では魔法が使える。マリーの話によればジョセフにも魔力が内に秘められているとの事だったので、何かしら地球と互換性があるだろう。


 ジョセフはリサ、ジンジャーと三人で王都ベイカーハイド城下町で買い物に出かけることにしたのだが、リサの小さな胸とジンジャーの大きな胸が方々の腕に当たり、周囲からガン見されているのはいつもながら羞恥心を感じずにはいられなかった。


 こんなことなら買い物はマリーとテレサに任せればよかったと後悔をしているがもう遅い。


 普段から無口なジョセフだから、碌に会話なんてすることはないのだけど、このまま女の子だけしかいないってのも改善していきたいものだと考えていた。ハーレムが嫌というわけではないため流石に同性で話せる相手は一人くらい欲しいとも考える。


 「おう兄ちゃん、金目のもん出せや!」


 「んなもん持ってるわけねえだろ!俺は年中引きこもりしてんだからよぅ!」


 王都だってのにこんな白昼カツアゲする奴もいるものだなとジョセフは茫然としていた。


 「あのカツアゲされてる男の格好、なんか懐かしいな…それにさっき引きこもりとか言っていたな、あれはどこかの学校のジャージか何かか?」


 ジョセフはそんな光景を茫然と見ているとリサがジョセフの眼前で手を大きく振りながら尋ねてきた。


 「ジョセフ様、どうされますの?」


 「あの男を助ける」


 「そんな無茶ですよ」


「ジョセフって結構お人好しだよねぇ……」


 リサが止めたがるのも分からなくもないのだが、ジョセフにとって同じ転移させられた人間かもしれないと考えると放っておけなかった。


そう考えている間にも、少年は男に一方的に暴行を受けていた。


 「おいガキ、てめえ粋がってる割には全然弱ぇじゃねえか」


 「う…うるせぇ…お前らなんか衛兵とかが来なくても…」


 「とっとと死ねや!」


 ジョセフは男の剣を振り下ろそうとした右手を刹那、後ろから強く握りしめ蹴り飛ばす。


 男はよろめきながらも立位を保った。


 「ぐわっ!」


 「おい、クソハゲヤロー」


 「なっ、何だおめえは?」


 「その男を逃がしてやれ!」


 「バカか?ならてめえも一緒に死ぬか?」


 「悪いことは言わん、辞めておけ…」


 ジョセフは倍以上の身長を持つ男を前にパキッポキッと指を鳴らした。


 「数々の修羅場を潜り抜けたロックンローラーである俺にとって貴様の剣など止まって見える」


 「なぁにぃ~、ロックンローラーだ?馬鹿が死ねぇ!」


 男は剣を勢いよく振り下ろしたがジョセフは軽々と躱した。


 「もう一度チャンスをやる、今度はよく狙うんだな」


 「うっ…うるせえ!」


 「あっ、あぶねぇぞ!」


 男はかなり錯乱しており手に力が力んでいたが、ジョセフは真剣白刃どりで簡単に受け止めた。


「なっ……!」


 そのままジョセフは男の股間に一発蹴りを入れ、男は股間を抑えながら石畳に這いつくばっていた。


 「うっ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 「大人しく寝てろ!」


 「ぐっ……」


 そしてとどめの一発にジョセフは男に延髄に手刀を食らわせた。


 「おい、大丈夫か?」


 「あっ、あぁ…それより…あんたは?」


 「俺はジョセフ、ジョセフ・ジョーンズだ」


 「ジョセフか、俺は…佐藤夏樹さとうなつきだ」


 佐藤夏樹はジョセフに名を名乗り気を失ってしまったのだ、ジョセフはリサに回復魔法を使うように促し、佐藤夏樹という日本人を手当てすることにした。


 「こっ、ここは何処だ?」


 「やっと目が覚めたようだな、君はもしかして日本から来た転移又は転生者か?」


 「日本を知ってるってことはあんたも俺達と同じ世界から来たのか?」


 「ああ、神様の手違いによってな」


 佐藤夏樹は一瞬表情が固まり神様?というような顔をしていた。


 「俺は久しぶりに限定フィギュア買いに行こうと玄関の扉開こうとしたら急にこの世界に来ちまってさ……そしたら急にさっきの男にボコられてたんですけど……」


 「そうか、取り敢えず君が俺と同じ日本人てのは分かった」


 佐藤夏樹は「ちょっと待てぇ!」と言わんばかりの顔で突っ込みを入れようとしており、ジョセフは何が言いたいのか大体は理解していた。


 「その見た目で日本人なんて言われて信用するほど俺だって馬鹿じゃねぇぞ!」


 「説明が足りなかったようだな、俺は日本国籍ではあるが幼少期に日本人夫婦に引き取られた生粋のイギリス人だ。とは言っても両親とも正確には日本に帰化した元イギリス人なんだけどな」


 最初からこう言うべきだったのか、ジョセフは自分が日本人であることを話した瞬間かなり疑われてしまったが日本に帰化したイギリス人であることを伝えると佐藤夏樹は納得しており、取り敢えず佐藤夏樹の身柄を保護することにした。


 「ジョセフ様、お買い物したいんですけど…」


 リサはジョセフをじーーっと睨んでいた。


 「そうだったな、ついでに佐藤夏樹、君も着いてきなよ」


 「えっ、いいのかよ?俺みたいな赤の他人なんかをよ?」


 「行く当てもないんだったら暫くは一緒に行動しておいた方が安全だ」


 佐藤夏樹と一緒にジンジャーとリサの買いものに付き合わせる羽目になってしまったがその分荷物を運ぶのが楽になると考えてたからなのかリサがふくれっ面でじーーっとジョセフを見つめていた。


 ジョセフ達が向かったのは貴族や王族辺りしか寄らないような店で、リサは魔法が付与されている身軽な服装やコートを次々と試着しており、ジョセフは早く終わってくれないかと欠伸をしながら待っていたが佐藤夏樹はわくわくとした目でリサの試着を楽しんでいた。


 「ジョセフ様、似合いますか?」


 リサが試着した服はお姫さまってより天使のような純白のロングコートにブラウス、紺色のスカートでかなりバシッと決めていた。


 「うん、いいね」


 ジョセフは棒読みで答えてしまったからなのかリサは機嫌を損ねてしまい「心がそう言ってません」とジト目で訴えかけていた。


 気に入ったからなのかリサはすぐさま衣服類を購入し満足そうにしているからなのかジョセフは良しとすることにした。


 (リサの奴も可愛いくて礼儀正しいのはいいんだけど少しは俺に依存しなくてもいいようにはしてほしいのだがな…)だからと言って極端に高飛車でわがままなのも嫌だと思いながらもリサのそういう部分も婚約者として受け入れることにした。


 それからは近くにあるカフェに寄って昼食を取ることにし、リサはジョセフにべったりとくっついていた。


 カフェの店員さんはとても可愛らしく、「いらっしゃいませぇ」と明るい声でジョセフ達四人をテーブル席まで誘導してくれた。


 「佐藤夏樹はメニュー決まったか?」


 「ん~っ、あの店員メイド服とか似合いそうだなぁ…」


 メイド服か、確かにあのスレンダーボディで可愛らしいロリ顔を考えるならメイド服も悪くないかもな。


 同じような仲間がいるってのは楽しいものだと感じたジョセフは、この感覚を随分と忘れていたものである。


 「それよりメニューはどうする?俺は紅茶にするけど」


 「わりぃわりぃ、んじゃ俺も紅茶で」


 「私も紅茶を頼みますわ」


「私もそれで〜」


 早速店員に「すみませ~ん」と呼んだ佐藤夏樹は紅茶四つ注文した。


 やっぱり紅茶を飲んでいるときはとても心がリラックスできると思い、ジョセフはコーヒーよりも紅茶派であることを内心リサの心の中に訴えかける。ジョセフにとってコーヒーは苦いし気持ち悪くなるから飲めたものではないからだ。


 「それにしてもよ、異世界に来たら俺TUEEE!とかチートってあるじゃない、あんなの貰ってるやつとかもこの世界に来てるのかな?」


 「どうだろ?俺も神様に能力授けてくれるって言われたけど拒否したよ、代わりにこの世界の読み書きできるようにはしてもらったけどそれだけ」


 「ええ!?それってなんかもったいねえなぁ…」


 「そうかもな、でも神様から授かった力を過信して自分の力だと思い込んでるようじゃ俺は駄目だと思うんだ」


 「ジョセフ、お前って結構そういうの嫌いなタイプとか?」


 「嫌いじゃねえけどそんなんでカッコつけてたってしょうがねえだろ」


 佐藤夏樹はかなりジョセフの境遇を羨ましがっており、自分もそんな感じだったらなあと俯いていた。


 紅茶1杯銅貨五枚の四杯で二十枚を財布から取り出し店員に手渡しした。


 「ありがとうございました~またのご来店お待ちしております」


 明るい声で店員さんが見送ってくれた。


 そこから、街に戻り、日もだいぶ暮れていたため今回はジョセフ達が泊まっている宿に泊まることにし佐藤夏樹の分の部屋は空いてるか確認してみると空いてることだったのでその部屋に泊めてもらうことにし、ジョセフは佐藤夏樹の分の宿代を代わりに支払うことにした。


 佐藤夏樹は深々と頭を下げ遠慮していたものの、ジョセフは「出世払いでいい」とだけ伝えたら納得したようだ。


 「明日は冒険者組合にでも行って佐藤夏樹の登録手続きにでも行くとするか……」

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