第7話

 そんなわけで、魔物の害と聖女の噂の真相を探るため、旅立つことになりました!

 愉快なメンバーを紹介します。


・私(バケモノ化が進む疲れた会社員)

・ザイラードさん(騎士団長。できる上司No.1。仕事を整理して一緒に来てくれることになった)

・レジェド(レジェンドドラゴン。かわいい)

・シルフェ(シルバーフェンリル。かわいい)

・クドウ(アイスフェニックス。ペンギン)

・コウコちゃん(お稲荷様、黒狐。かわいい)


 ここまではいつメンと呼ぶに相応しい。

 そして、さらに新メンバーの紹介です。


・猫王子(王宮から外に出なかったため、こういう旅は初めて。人間に戻り、私にぎゃふんと言わせるために見聞を広げようとしている。猫だからかわいい)

・ベルナドット十一世(銀髪紫目のイケメンヴァンパイア、ほぼ執事。丁寧口調だが私への恨みは大きい。私に魔物とはなんたるかを教えるために同行。コウモリのときはかわいい)


 うん。新しいメンバーが悉く私に負の感情があるが、まあ仕方がない。

 第七騎士団のある辺境と王都は移動魔法陣で繋がっているため、移動はすぐだ。

 が、今回の目的地である東の村には移動魔法陣はないらしい。

 というわけで、まるでハブ空港を経由するように、私たちは一度王都へと飛ぶことになった。そして、移動魔法陣で東の村に一番近い主要都市へ飛び、そこからは馬車という旅路の予定である。

 旅に出るまで三日。

 どうせならば早く東の村へと行き、現状を知ったほうがいいだろうということで、ザイラードさんが急いでいろいろと整えてくれたらしい。さすがしごでき上司である。


「王宮か! 久しぶりだが、父と母に会うのか?」

「ああ。救国の聖女自らが被害の出た村へと視察に向かうんだ。国としては聖女の旅立ちに感謝し、周りへとアピールしたいからな。本来なら式典でも開きたいところだろう」

「ふん、こいつが村に行くぐらいでそんなに騒ぐことでもないだろうに」

「国を統べるということはそういうことだ。今回は急なことだった上にトールの希望もあったから、式典などはせず、陛下と王妃が見送ることで体裁を保つようだな」

「本当に、全然なにもなくて良かったんですけどね……。ちょっと見てみたいだけだったので……」


 魔物の害が出たならば、ちょっと見てみようかな。聖女の悪い噂が立っているなら、私本人が行って誤解を解けたらいいのにな。そんな安易で安直な安請け合いの提案だった。

 が、「救国の聖女の巡礼」という、神秘的な国事のようになってしまったのだ。驚きである。東の村が聖地になってしまう……。


「本来なら貴族を招いた晩餐会を三日行い、トールを乗せた馬車で王都を巡り、出店なども許可するパレードをしたかったようだ」

「絶対にイヤですね……」


 まず、貴族の晩餐会には全然出たくない。王都のパレードは見る側ならいいが、馬車に乗って練り歩く側は本当に勘弁してほしい。


「お祭りは行きたいですけどね」


 ね。


「トールは祭りが好きなのか?」


 私の呟きをザイラードさんが拾う。

 私はそれに頷いて返した。


「はい。出店で買い食いするのも、うろうろするのも好きです。人混みが得意ではないので、すぐに疲れて休憩したくなりますが」


 日本の祭りのことを思い出す。

 やきそばもフライドポテトもりんご飴も好きだ。人混みから離れて、適当なものを食べて、パレードに参加している人を横目で見るぐらいがちょうどよかった。

 なんとなくみんな浮かれていて、音楽がかかり、なにかのタレの焼ける匂いがして。


「異世界の祭りってどんなのでしょうか。興味があります」


 そう言うと、ザイラードさんがふわっと笑った。

 そして、私の手を取る。


「こちらの祭りも楽しいぞ。出店には果物のジュースや肉を焼いたもの、魚もあるし、その土地にしかない食べ物もある。王都の祭りだとすこし洒落たものが多いかもしれない」

「わぁ、いいですね」


 想像しただけで、おなかが鳴りそうだ。

 ザイラードさんは勧め方もうまい。

 日本の祭りへの懐かしさが、異世界の祭りへの興味に変わっていく。聖女巡礼パレードはいやだが、王都での祭りは開催してもらってもよかったかもしれない。

 まあ、今回は急すぎて準備の時間がないから、無理だっただろうが。


「今度、一緒に行くか?」

「あ、行きたいですね」


 ザイラードさんの誘いに一も二もなく飛びつく。

 みんなで行ければ楽しそうだ。

 すると、ザイラードさんは私の手をぎゅっと握って――


「そのときはこうして手を繋いでもいいか?」

「あ、う、え、……もち、ろん?」


 さっきから手を取られていたわけだが、あまりにも自然で気にしていなかった。

 が、今は手を持ち上げられ、私の視線に入るようにされている。

 そうなると、ザイラードさんの手の大きさや温かさを感じ、「手を握られている」という状況が途端に恥ずかしくなってきた。

 頬に勝手に熱が集まる。

 ザイラードさんはふっと笑い、繋いでいた手から力を抜いた。

 そして、今度は私の指と指の間に絡み合わせるように、ザイラードさんの指が入ってきた。これは……?


「こちらの繋ぎ方でもいいか?」

「え、う、あ……は、い」


 ザイラードさんから色気が放たれる。

 手を繋いでいる私は逃げることもできず、そのまま真正面でそれを受けてしまった。まずい。もはや、ちゃんとした言葉を話せていない気がする。

 だって、色気がすごい。そして、この手の繋ぎ方の攻撃力も強い。全体的に私の脈拍を上げにかかっている。


「こちらの繋ぎ方のほうが、トールがここにいると感じられてうれしいんだ」


 ザイラードさんはそう言うと、どこか憂いを帯びたように笑顔を浮かべた。

 鼓動が速くなっていた私に、その表情はドスッと胸に突き刺さる。

 なんだろう。胸がきゅーんとした。

 頼り甲斐のあるザイラードさんのこんな表情を見てしまい、しかもそれが私に関することだと思うと、ぎゅうと抱きしめたいような、そんな感覚に囚われる。

 今、私とザイラードさんはいわゆる「恋人繋ぎ」をしているが、それでザイラードさんが喜んでくれるなら、いつでも差し出す。そんな気概が生まれた。


「ザイラードさんがこちらのほうがいいなら、こちらにしましょう。私もこれなら迷子にならないと思います」


 ザイラードさんが私の手を取るときは多い。だがいつもはエスコートといった感じで、そっと添えられている。すこし強いときは握手する感じだったり?

 こうして指を交差させる繋ぎ方はドキドキするが、今の私には気概がある。

 ので、使命感を持ってザイラードさんをまっすぐ見つめた。

 すると、ザイラードさんはそんな私に一瞬驚いた顔をする。そして、ハハハッと笑った。


「っ、そうだな、迷子にもなりにくいな」

「はい。私がふらふらしていても、離さないでください」


 ザイラードさんが爽やかに笑っている。

 さっきの憂いはなくなっていて、私はほっと胸を撫でおろした。

 憂いを帯びた表情も素敵だったが、やはりザイラードさんにはこうやって楽しそうに笑って欲しい。

 ザイラードさんの表情を見て、私もにこにこ笑う。よかったよかった一安心。


「……離さない」


 ザイラードさんはそう言うと、ぎゅうと私を抱きしめる。

 そして、繋いでいた手をそのまま持ち上げ、私の手の甲にチュッと唇を寄せた。

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