ヴァルキリーズストーム外伝 プロジェクトX(ちょめ)2 烈風よ吹け

綿屋伊織

第1話

 大日本帝国とアメリカ合衆国―――


 政治・経済、そして軍事的な意味合いにおいて、その結びつきは強い。


 だが、この世界ならではの違いがある。


 主力戦闘機がその最たる証明になるだろう。


 米軍の主力戦闘機は、F-18やF-15。

 そろそろF−22が投入された頃。

 対する大日本帝国海軍航空隊の主力戦闘機は、Su-37。


 ……つまり、どこにも緊密さがない。


 大日本帝国軍は、少なくとも戦闘機の分野において、米国とはむしろ犬猿の仲に近い存在といえるのだ。


 米国が、帝国の兵器を自国製にしたいのは山々だ。

 帝国も、米国製を望んでいる。


 これは本当だ。

 

 それでもここまで食い違ったのは、簡単な理由だ。

 戦闘機に関して、軍事的・経済的な利益とを天秤にかけた場合、現実世界と傾く方向が少しだけ違っただけなのだ。


 1940年代、赤色戦争終戦当時、ジェット戦闘機開発に失敗した帝国に対し、莫大なコストと引き替えに、ジェット戦闘機の技術を売りつけようとしたのは米国だ。

 日本としてはありがたい話だったが、米国は費用だけもらってから様々な難癖をつけて、結局、技術を渡さず、日本は結局、ロシアから技術を購入することになった。

 これがそもそもの始まりだ。

 それ以来、米国は、数度に渡る帝国軍主力戦闘機更新に際して、帝国による自国開発を徹底した方法で潰すと同時に、ついでといわんばかりに、自国からの戦闘機売却でさえ認めなかった。

 米国は常に自国の航空産業界の保護を名目として、日本に技術が移ることにアレルギーにも似た拒絶反応を示すのだ。

いつの時代も、「日本人に売ると損害になるのか!?」という日本人からの批判は黙殺され続けた。

 米国人にはわかっている。

 日本人に売りつけると、本国製よりスゴい戦闘機になってしまう。

 それは、かつてのゼロ戦から始まる帝国軍戦闘機の性能を見れば明白。

 米国は、それを転売されることで世界的マーケットにおける被害を恐れたのだ。


 それでも、帝国軍からすれば、米国の戦闘機は、実戦に裏打ちされた性能は常に魅力だった。


 だからこそ、帝国軍主力戦闘機の更新に際しては、常に筆頭に米国製戦闘機がリストアップされ続けた。


 F-14

 F-15

 F-16

 F-18

 そして、F-22

 ……。

 次こそは次こそは――

 そう、期待はしても全て実現したためしがない。

 せいぜい、米国が「この程度ならいいか」とか、「他国でも大量に使われてるし」といった理由で認めた「フリーダムファイター」に類する戦闘機や、F-4程度が例外としてあげられる程度だ。


 全ての交渉において、帝国は、引き渡される戦闘機を、「実戦投入可能な状態の戦闘機」と要求した。

 買い手としては、至極当然な要求だ。

 だが、対する米国は、アビオニクス全てをブラックボックス化しないと引き渡しに応じない姿勢を崩さず、加えて、不当なまでに高額なライセンス費用を要求し、時には騙しまでする。

 

 帝国軍がF-14導入を検討した頃には、他にもこんなエピソードが残っている。


 帝国軍の高官が、米国側代表に、こう、問いかけた。

「貴国から引き渡されるF-14を、そのまま我が空母のカタパルトから撃ち出したら?」


 対する米代表の回答。

「コスト的に割に合わない。棺桶二人分を撃ち出した方がよい」


 結果、国土不沈空母ドクトリンに従い、スウェーデンを参考に独自の防空体制を確立した陸軍は、有事の際、一時的に滑走路からの離着陸可能、10分以下での再給油/再武装が可能という垂涎の特性を持つ「サーブ35 ドラケン」を、さらに後年、この後継機である「サーブ 37 ビゲン」を導入。

 双方とも、開発国を上回る規模で生産・配備した後、「サーブ 39 グリペン」をスウェーデンと共に開発した。

 

 また、A-10も、すでにフェアチャイルド社から中島飛行機がライセンス譲渡を受けている関係で、海に向かっては対艦ミサイル運搬。陸に向かっては、対地攻撃・対戦車掃討兵器というローテクにして万能の攻撃機として、大量生産・導入されている。

 

 対して空母機動部隊の運用を主眼に置く海軍は、当初こそF-4で我慢していたが、後にミラージュ海軍型に乗り換え、最終的には、その長大な国土を防衛するために開発されたロシア帝国製戦闘機「Su-27」シリーズを経てSu-37を導入。

 日本製のアビオニクス、複合素材、エンジンを与えられた日本製Su-37(Su-37IJ)は、お披露目となった合同演習において米軍F-15をミサイル戦・格闘戦双方で圧倒して米政府上層部を青くさせて以来、“世界最強の第四世代戦闘機”として不動の地位を確保している。


 だが―――


 これほどまでにして揃えた航空機が、何の役にも立たないのが、後に三十年戦争と呼ばれた戦争開戦当初のことだ。


 現代の航空機は、いわば電子装備の塊がジェット噴射で空を飛ぶようなものだ。

 操縦桿の操作一つまでが電子装備で管理されている。

 それが、現代の航空機。


 だから―――


 電子装備とジェット推進機関に致命的ダメージを与える狩野粒子影響下では飛ぶことが出来ない。


 ミサイルを無効化されれば、戦えない。

 ジェット推進機関は爆発するから、飛べない。


 ないない尽くしの役立たず。


 それが、この戦争での戦闘機―――いや、航空機なのだ。



 航空機の運用を最大の戦闘手段として定義してきた海軍は、これに冗談ではなく、恐怖しあることを企画した。


 何を企画したのか?


 狩野粒子下で運用可能な航空機の開発。


 ―――これだ。



「大体、何と戦えというんですか?」

 メーカー技術者まで集められた上での会議の席上、メーカーの技師からそんな声が挙がったのも無理はない。


「どんな敵と戦うことを想定しているんですか?」

 この問いかけに、誰も答えられないのだ。

 妖魔。

 それはわかる。

 だが、それがどんな相手で、どんな弱点があって、どんな兵器が有効なのか、彼らはほとんど知らないのだ。


「海軍の要求するところは一つだ」

 海軍側の席から立ち上がったのは、大柄な体格をした男。階級章は大佐だ。

 厳つい顔つきに走る火傷と深い傷跡。

 彼がどんな人生を歩んできたかを、その顔が語っていた。


「すでに別チームが無電子装備―――NEE(ニー・Non-Electronic Equipmentの略)規格のヘリを開発中なのは知っているだろう。その護衛、そして、対地攻撃任務に投入出来る戦闘爆撃機が欲しい」


「そんな代物を投入するのは、パイロットを死にに送るようなものです!」

 メーカー側の技師の一人が目を見開いた。

「海軍は正気ですか!?」


「―――正気だ」

 大佐は頷いた。

「細かい要求はともかく、もっと具体的に要求を言えば、想定する敵は、ヘリ部隊を襲うだろう飛行可能な小型妖魔。

 こいつらの実在を海軍は確認していないが、多くの情報筋はそれとおぼしき存在を確認している。

 そこで、こいつらのヘリ部隊襲撃時に、阻止出来る兵力がほしい。

 ヘリ部隊に随伴可能で、ヘリ部隊から降りた歩兵を上空から火力支援も出来るのは当然だ」


「ジェットでは無理です」

 メーカー側の技師で最年長の男が言った。

「我が社の独自研究では、A-10でさえ、アビオニクスをはずしたジェットエンジンを搭載した場合、燃料消費調整がきわめて困難で」

「赤色戦争から朝鮮戦争当時の戦闘機でも……ヘリ随伴護衛は……かなり厳しいです」

「―――そうだろうな」

「技術的改良を試みる前に帝国が滅びます」


「そうだ」


「しかも、大佐」

 女性技師が挙手の後、言った。

「ヘリ部隊を海軍が?」


「陸(おか)の上では、海軍が出る幕はこの程度だ」

 大佐は自嘲気味に笑った。

「海軍が飛行艦を導入していれば、話は別だろうが」


「―――レシプロ」

 最年長の男は、思いついたように言った。

「ターボは無理か?……大佐、ジェットは無理ですけど、プロペラ機なら何とかなるんじゃないか……そう、言いたいんじゃないですか?」


「図星だ」

 大佐は悪びれもせずに頷いた。


「さらに具体的に海軍の要求を伝える―――“烈風”および“スカイレーダー”を改修、NEE(ニー)規格に適合した機として欲しい。しかも、武装と防御は強化、さらに量産性の向上、製造コストの低減は言うまでもない」




 これを受け、メーカー首脳が協議した結果は、


「個別開発は全てにおいて無駄」


 これだ。


 メーカーが恐れたのは、これ以上において戦域が拡大し、自社へ被害が及ぶこと。

 それはとりも直さず、帝国が潰れることと同義語だ。


 メーカーは、プロペラ機開発経験のあるベテランと公募した若手技師を集め、四つのチームを組むことにした。


 烈風担当をA、Bチーム

 スカイレーダー担当をC、Dチーム


 チームを競わせることで開発をより良きものにしようという配慮が、そこにはあった。


 ベテランと若手、共にこのプロジェクトには目の色を変え、こぞって志願した。


 自分達の技術で、死んでいった国民の恨みを晴らしたい!

 自分達の技術で、これ以上、国民を死なずに済ませることが出来れば!


 そんな一心で志願する者の中には、申請書を血文字で書き上げ、志願を訴えた者までいたことが、技師達にとってこのプロジェクト参加の意義が大きいかの証拠となるだろう。


 日本航空機産業の超エリート達が選りすぐられ、一カ所に集められたのは、大佐の会議からわずか1週間後のこと。


 新聞では、陸軍が開発した八式戦車への搭乗を、戦車兵達が拒否したと報じていた。


「こいつか」

 Aチームに配属された中に、中島飛行機から派遣された若手技師・貴水(たかみ)一也がいた。

 彼の目の前では、飛行可能なレシプロ戦闘機―――A7M「烈風」が、爆音を轟かせている。


「よく残っていたなぁ」


「帝国軍事博物館がレストアしたものよ」


 横に立っていたのは、浅倉南(あさくら・みなみ)。

 光菱重工から派遣されてきた、帝国航空業界若手のホープとまで呼ばれる航空技師。


 貴水は、その端正な彼女の横顔を羨望のまなざしで見つめながら言った。


「XF-47とは違いますか?」


「あっちはジェット―――こっちはレシプロ」


「浅倉技師は、何故、この機の開発に?」

 失礼だとは思いながら、貴水は訊ねた。

「確か、XF-47の主任開発技師の一人だったはず」

 それが貴水にはわからない。

 XF-47はアメリカどころか、世界中が注目し、警戒する第五世代戦闘機。

 一部では、「第六世代戦闘機」とまで囁かれるモンスターマシンだ。

 その基本設計は―――目の前の女性によってなされたことを知っている。

 つまり、XF-47は、この女性なしには生まれない。


 ―――XF-47という胎児を宿した母胎。


 それが、この女性なのだ。


「理由が必要?」

 浅倉はため息混じりにそう言った。

 その視線は、烈風から離れはしない。


「出来れば」


「―――娘の敵よ」


「……娘?」


「もし、魔族相手に47が通用するなら、ここにはいない。私が深空(みそら)の敵を討つには、この機を戦場へ送り出す必要がある。それじゃ、理由にならない?」


「失礼しました」

 貴水は、そう答えるしかなかった。



「機体はカーボンコンポジットで製造―――パーツ分割は最小限度にとどめ」

「通信装置は真空管を使用」

「機銃は25ミリを提案する」


 始まった会議。

 それは、各開発担当者同士による機体重量の奪い合いと、


「推力が弱すぎる」

「そんな程度で、実戦で役に立つのか?」


 エンジン開発担当者へのつるし上げに終始した。


 機体と武装双方の総合担当者である浅倉と、エンジン専門担当の貴水。


 特にこの二人の対立は深刻だった。


 浅倉は、25ミリ4門計2,000発、さらにこの状態で他武装2.5トンまでを要求してきたのだ。

 

 対する貴水は、時速750キロ―――かつての烈風の最高速度700キロの更新を目指す。



「戦闘速度に何の意味があるのよ!」

「航空機の速度はそのまま戦闘力に―――」

 浅倉の怒鳴り声に、貴水は弱々しい反論に終始する。

 弁舌巧みな浅倉が、疎ましい反面、羨ましい。

「あなたね!」

 浅倉がテーブルを叩きながら怒鳴る。

「こいつの任務は何!?高速度での戦闘なんて、要望書のどこに書いてあるの?どこ!?」

「……し、しかし」

「対地攻撃任務が主眼でしょ!?なら、重武装にこそ神経を注ぎなさいっ!それから、こんなに構造を凝ったら整備性が落ちる!現場の整備兵のことも考えなさいっ!あなた、要望書、ちゃんと読んでるの!?」

「……」

「何睨んでるのよ!悔しかったらやってみせなさい!」


 やってやる!

 深夜、設計図を前に、貴水は唸った。


 あのアマ、絶対、ヘコませてやる!


 整備性は―――

 出力は―――

 耐弾性は―――


 貴水は連日、徹夜で設計図面と向き合った。


 試作型の組み上げと同時のテスト―――


「駄目だっ!」

 貴水は怒鳴った。

「こんなスペックじゃ使えないっ!」

 ベンチマークテストの結果は貴水を満足させなかった。

「タービンを見直す!」


 エンジンを停止させ、整備兵達にエンジン解体を命じる貴水に同僚がうんざりした顔で言った。

「おい、中島さんよぉ。―――懲りすぎるなって、光菱の浅倉さんからも言われてるだろ?」


「この程度は必要の範囲内です!」


 こうやって貴水によって産み出されたエンジン。

 タ−46

 エンジン開発という点から見れば、タ−46エンジンは短期間で開発された割に、恐るべき高性能エンジンとして知られる。


 整備性

 耐久性

 信頼性

 全てにおいて前人未踏の世界最高峰のレシプロエンジンと言えた。


 その開発を一手に引き受けた貴水が倒れたのは、海軍によるエンジン検証の結果、採用が決定したことを聞いた直後だった。


「―――え?」


 机に座っていたはずだ。


 貴水はそう思って首を傾げた。


 目の前にあるのは、どう見ても見知らぬ天井。

 しかも、昼間だったはずなのに、何故か真っ暗だ。


 どうしたんだ?


 起きあがろうとするのに、体が思うように動かない。


「―――寝てなさい」


 横からの声に、貴水は声の主を捜した。

 声の主は知っている―――浅倉だ。


「過労で倒れたのよ」

 カーテンの仕切の向こう。

 浅倉の声がする。


「―――浅倉技師も?」


「似たようなもの―――早く復活しなくちゃ」


 不思議と消毒液の匂いが鼻をつく。


「早く、烈風を戦場に送らなくちゃ―――深空(みそら)に会わせる顔がない」


「……浅倉技師は、力みすぎですよ」

 貴水は言った。

「もう少し、肩の力を抜いた方がいい―――俺、新人の時、先輩技師からよく言われましたよ」


「……あの子は」

 浅倉の声は、どこか晴れ渡ったような、不思議な色を含んでいた。

「まだ3つだった―――空を見るのが好きな子で……私のせいで……死んだ」


「……」


「私から深空を、私の空を奪った魔族が憎い。あの子の敵を討ってあげなくちゃ、私の罪は消えはしない―――これ以上、深空のような子を、増やしちゃいけない」

 その声は、貴水の耳には、背筋が震えるほど澄み渡って聞こえた。

「烈風の翼は―――子供達を護るための翼にしなくちゃ……いけないのよ」


「―――そう、ですね」

 本当に、口べたは損だ。

 こんな時、気の利いた言葉一つ、思いつくことの出来ない自分に嫌気がさす。


「エンジン、見事だったわよ?」

 しばらくした後、浅倉が言った。

「よく工夫されている。あれと張り合えるレシプロエンジンは、ちょっと思いつかない」


「あ、ありがとうございます」


「ふふっ。もっとうれしそうな声出しなさい」


「は、はぁ……」


「私も、25ミリ機銃、どうにかしなくちゃ」


「何か問題でも?」


「機体に組み込んで射撃すると、機銃の射撃軸がズレるのよ」


「あっ!それって」

 貴水は思いついたことがあった。

「俺、答え知ってます」


「えっ?」


「中島の先輩から聞きました。機銃固定の方法に問題がある。特に、光菱の場合、防振板が薄いし、単なるゴムだから駄目だって」


「……中島の方法、図面で頂戴」


「はい」

 貴水はベッドから起きあがった。


「何?もう動けるの?」


「浅倉技師からのご命令ですから」


「ふふっ……若いって羨ましい」


「浅倉技師だって」


「私はもう三十路越えてるわよ……ありがとう。後で飯村技師に渡しておいて」


「はい」


「上手くいったらお礼してあげる―――何がいい?」


「デートしてください」


「ストレートね」


「ははっ……じ、冗談ですよ」


「……ま、いいでしょう」


「えっ!?」


「どうせ、未亡人ですからね」


「……」


「哀れまないでね?―――さ、私は少し休ませてもらう。さっきの件、よろしく」


「はい」

 ベッドの下にあった靴を履き、立ち上がった気配に気づいたのか、浅倉は言った。


「カーテンは絶対に開けないで」


「何故です?」




「女の寝顔は見るもんじゃないわ」





 貴水は、

 そういうものか。

 そうとしか思わなかった。




 だが―――


 翌日、出勤した貴水は、妙に騒がしい職場にとまどった。


「ど、どうしたんですか?」


「おう!貴水か!」

 飯田技師が青い顔で貴水に振り返った。

「浅倉さんが」

「?」


 今、何て言われた?


 貴水は、それが理解できなかった。

 いや、理解を拒んだのだろう。


 だが、飯田技師は確かに言った。



「ついさっき、息を引き取ったそうだ」




 浅倉は、病院に過労で担ぎ込まれたんじゃない。


 事故で担ぎ込まれたんだ。


 25ミリ機銃調整中の暴発事故。


 一人の技師が25ミリ砲弾に体を砕かれ、浅倉は跳弾の破片を全身に浴び、左足を切断された。


 カーテンは絶対に開けないで。


 あれは、自分のそんな姿を、誰にも見られたくなかったからだったんだ。


「……」

 貴水は、職場の騒ぎを、ただ呆然として見つめるしか出来なかった。




 ギィィィィィンッ!


 超低空進入する烈風が、白いターゲットに機銃掃射を浴びせ、急上昇して飛び去る。

 ターゲットへの集弾性能は申し分ない。

 航空技師浅倉の最後の作品となった機銃は、作り手の性格そのままに、まっすぐに目標を砕く。


 ―――これなら、大丈夫だ。


 貴水は胸のすくような思いで空を見上げた。


「浅倉さん」

 空の向こうにいるはずの浅倉と、その子に、貴水は語りかけた。

「―――さすがです」



 それから二ヶ月後―――


「ブラボーワンよりブラボー全機!急降下爆撃、続けっ!」

 魔族の弓兵が放つ攻撃が機体をかすめる。

 三番機が直撃を受けて四散するが、そんなことを構っている余裕はない。

「そんな弾にぃっ!」

 急降下がもたらすG。

 機体の振動と、内蔵が体内を上下するような奇妙な感覚に耐えながら、パイロット達が目指すのは、地上の敵。

「引き上げろっ!」

 操縦桿を力任せに引き、地面を逃げまどう妖魔達めがけて、胴体にぶら下げたハイパーナパームを投下。


 炎のドームが妖魔達を焼き尽くす。


「ブラボー全機、反転して機銃掃射にかかれっ!歩兵隊を支援するぞ!」

「了解っ!」


 烈風―――


 烈風72型と命名されたレシプロ戦闘機は、航空機各社により連日生産され、戦場へと送り出された。

 

 一年戦争中を通じて、ヘリボーン部隊の護衛、偵察、観測、対地攻撃等、およそ航空機が行える全てといわれるほどの幅広い任務に従事。

 兵士達の空の守護神として活躍した。


  烈風改72型・要目

  乗員:1名

  全長全幅:10,55×14メートル

  発動機:タ−46(3,500馬力)×1

  自重:3,895キロ

  速力:時速715キロ

  航続力:5500キロ

  武装:25ミリ機関砲×4


 総生産機数は約12,000機。

 喪失は約8,200機。

 パイロットの多くは、短期訓練を受けただけの志願兵―――しかも、その多くは10代後半の少年少女達。


 戦後、光菱の要請でXF-47の開発に従事することになった貴水は、烈風について語る時、必ずこう言ったという。


 開発者たる浅倉技師は、子供達を戦場に送りたくない一心で烈風を作り上げた。

 だが、真実の烈風は、子供達によって運用された。

 子供達の戦う手段として―――


 これは、一体、どういう皮肉であろうか―――と。



 

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