第7話 ただの泡ですが、人間と人魚って結構違う生き物ですよね
種族の差が海より深く山より高い件について。
俺はそれを超えられるのだろうかとちょっと怯む。外見の違いは越えられた……。そうだ越えたのだ。うん、いける。俺ならできる。そう自分自身に言い聞かせつつも、ただの泡に対する性教育に関しては後日に回させてもらう。ちょと今は無理。色々俺の心が耐えきれない。
今までただの泡の事を変態だと思っていたけれど、これだけ生活習慣が違うと、性教育の話を始めれば絶対俺が泡から変態扱いされる気がする。ただの泡に蔑んだ目で見られ……いや、目が何処か分からないからそれはないが、避けられたり、家出されたら泣く。とにかく色々辛いので、できるならもう少し先延ばししたい。
「そういえば、卵を守るのは雄と言っていたが、子育ては雄がするのか?」
『人魚は二人で子育てするのが基本ですね。卵から孵すまでは雄の仕事ですが』
「母親がするわけではないんだな」
『そうですね。そもそも人間のように母親が乳を出して赤ん坊に飲ませるわけではないので。どちらでも餌を与えられますから』
そう言われると、人間の方が頭が固いのかもしれない。乳は確かに母親しか出せないが、乳を飲むのなんて一年程度だ。他の事なら、どちらだって出来る。
だとすると、俺も育児に参加するべきだな。ただ、赤子のことなど分からないので、先に勉強が必要だ。彼女との間に子供を作るのか……そもそもできるのか分からないのだけれど、直前に慌てるよりは、しっかり今から知識を身に付けておくべきだろう。
『それに、最初は卵食べてますし。親がやる事なんて、外敵と戦うぐらいですね』
「ん? 卵?」
『はい。生まれなかった卵は、赤ちゃんのご飯になります』
……それは、所謂共食い?
俺は泡を凝視した。生まれなかったということは、無精卵だったということだろうが……鶏の卵を食べるのとは意味が違うと思う。
『卵って栄養価高いんですよ』
「……そうだな」
それが人魚の習慣というのならば、俺がとやかく言っても仕方がない話だ。色々人間と違い過ぎてショッキングだけれど。
『後は、時折子供同士で共食いが始まってしまう事があるので、気を付けないといけないぐらいですかね。人魚は生まれたばかりの頃は小魚みたいで、餌と間違えられやすいんですよ。月齢が違う子供同士が近くにいると危ないですね』
……そういえば、金魚も共食いをすると聞いた事がある。赤ん坊を餌と間違えて、親が食べてしまうのだ。
人魚の目はあまりよくない的な事も言っていたしな。それにしても、人魚というのは思った以上に魚よりの生態のようだ。
『後は食べ物が少なくなると—―』
「ありがとう。もう十分だ」
色々、人魚事情がディープだ。既に溺れそうだ。
『私は食べるより、食べてもらいたい派ですけれど』
なるほど。
俺に食べていいと言っていたのはこの習慣からか。
根気よく人間は共食いしないことを伝えていこう。そして俺もうっかり食べさせられないよう気を付けようと思った。
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