第三話

 なぜこのお姫様が騎士学校にいるのか。


 アデルナは四年制の王立魔導学校を飛び級し二年で、しかも主席で卒業した。もう教えることはない、と教授たちから太鼓判まで押された。


 卒業のその足でアデルナは十四歳で騎士学校に特待入学した。そしてサクッと四年飛び級をしイザークと同じ学年に編入、二年で主席卒業を迎えた。イザークにしてみれば悪夢を見ているようだった。


 騎士学校であっても誰もこのお姫様の武術に敵わない。教師であってもあっという間にアデルナに斬り伏せられた。皆からは剣聖とか剣匠とか剣神とか呼ばれちゃってる。その美貌も相まって伝説級の人気だ。

 騎士学校入る必要もなかったんじゃない?というくらい圧倒的だった。


 イザークは騎士学校入学後二年にして、在学中なのにアデルナの従者に戻された。

 自由はたった二年だったか。短かったな。イザークはわびしく嘆息した。しかも最初の二年は飛び級の猛勉強のために使ってしまった。卒業まで残り二年、これから自由を謳歌する!はずが、同学年にドヤ顔で姫が編入してきた。


「きちんと飛び級したようね。ちょうどよかったわ。」


 四年で卒業するよう指示したのはまさかここまで見越してなのか。だとしたら本当に恐ろしい。イザークは頭を抱えた。

 何度も言うが公爵令嬢が騎士学校に入る必要もないだろうに、なんで入学してきたのか。


「兄者と話してたのよ。そしたら騎士学校を二年で卒業すればいいって。」

「はぁ?!なんでまたそんなことを?!」

「相談したらそういう話になったのよ。まあついでに箔もつくしいいと思ってね。」


 意味がわからない。なんのハク?婚約のつりにでも書くの?そりゃ王立の魔導学校、騎士学校合わせて六年も飛び級、しかもどっちも特待生枠に加え主席卒業。もう怪物の一言では語れないでしょ?

 いっそ将軍にでもなるつもりか?あ、なるほどそっちのハクね!イザークは全力で納得した。


 同級生からは、公爵家令嬢付き従者であるイザークに羨望と嫉妬の目を向けられる。騎士はどの名家に雇われるかでその格が決まるからだ。

 代われるなら是非とも代わって欲しい!全力でお願いしたい!とイザークは心中悔しがる。

 すでに王族に次ぐ公爵家お抱えが決まっていると思われるイザークに嫉妬もやむないだろう。実際は騎士としてお抱えでないところが残念だが。


 イザークは黒髪に黄金の瞳、父が中東系だったため異国風の顔立ちをしているとよく言われる。それが騎士学校では悪目立ちした。何かと視線が集まる。アデルナが編入してからはなおさらだった。

 イザーク自身の剣の腕も評価されていたから表立った嫌がらせは受けてはいない。だがそれはアデルナの強権も効いている。

 イザークがちょっとしたいさかいで絡まれれば、必ずこのお嬢様が殴り込んできたのだ。


「従者の不始末は主人の不始末。私がお話を伺いますわ。」


 そう言い放ってカッコよく相手をボコボコにする。

 色々な意味でアデルナを敵に回してはならない。

 その破壊力を知る者達の共通認識だ。




 そうしてつつがなくアデルナとイザークは騎士学校を卒業した。この時点でアデルナは十六歳。

 そして父の泣き落としでアデルナは約束の私立の魔術学園へ通っている。魔術学園は十六歳から三年制。今回もアデルナは飛び級を試みるが、ここは長男に止められた。


「魔導学校と騎士学校はいいが、行儀学校を飛び級は外聞が悪い。」


 表向きは魔術学園だが、実際はマナー教育と貴族の社交の場である趣旨を考えれば確かにそうであった。王立魔導学校を飛び級の上に首席で卒業したアデルナにはぬるくて当然だ。


「私にこのくだらない学校に三年も通えと?ありえないわ!」

「お前は自分の立場も考えろ。婚約に差し支えるだろう?家名にも傷がつく。」

「そんなものどうでもいいです!イザーク!稽古よ!ついてきなさい!」


 アデルナが兄者と呼ぶ嫡男ブルーノがそう諭せばアデルナは憤然として顔を背ける。確かに婚約的にはマイナスか。


 顔よし、スタイルよし、頭脳よし、家柄よし、金あり、権力あり。さらにこの物理破壊力。ここまで一人に与えるのなら大人しい性格も与えて欲しかった。腕を掴まれズルズルと訓練場に連れていかれるイザークは嘆息した。


 これほどのハイスペックなのに姫様に婚約者がいないのがイザークは不思議だった。

 このモンスターゴリラな性格と怪力は知れ渡っていない。ならばこの家柄と見た目で引く手数多になるはず。なぜ未だに婚約者がいないのだろうか?



 そうして今でもアデルナは学園に通っている。

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