最後はひとつ

素素sai

最後はひとつ

氷の山に雨が降って雪が溶けて霙になれば最後には海になる。

海にまざってわからなくなる。境界など最初からなかったかのように見えはじめる。

気が遠くなるほどの時が経てば、そこになにかがあったことなど誰も記憶していないだろう。

すべては海からはじまったのだから、また海になって終わるのだろう。海に呑まれて終わるのだろう。


これは、わたしたちが海へ戻るための準備なのだ。


自分たちで小さな氷の山を創り、崩しながら自身の中へ取り込む。

そして、スプーン1杯の小さな海をひとつ残す。

少しずつ、じんわりと細胞に染み渡ってゆく水分が、いつの日か、わたしたちを海へと還してくれるだろう。そうして、時を追うごとにいなくなって、そこには果てのない海だけが、ただ、静かに唸っているのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最後はひとつ 素素sai @motomoto_rororo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説