王太子殺害容疑にかかる聖女アリスへの異端審問
コトリノことり(旧こやま ことり)
とある新聞の記事のいうことには
昨日未明、聖女アリスが王太子ハンスを殺害した容疑で捕縛された。
聖女とは、我らが唯一の神の奇跡をたずさえた尊きお方であることは、読者諸氏はもちろん、赤子すらも知っていることであろう。今代の聖女アリスは神の奇跡たる癒しの力を我らに届けていた。骨折し、農作業できなくなった男の足を元通りにし、十年前に終戦した戦争のけがを引きずり、視力をなくした兵士の目に光を戻した。常から清貧を心がけ、民衆に慈愛を向けていた聖女アリスは、まさに我らの思う聖女の姿そのものであった。
しかし、嗚呼、なんということであろうか。
その聖女アリスが、神への裏切りとしか思えぬ事件を起こしてしまったのである!
事件となった場所は聖サロメ大教会にある、聖女アリスの私室である。まだ太陽も昇る前、宵闇残る早朝に、呼びかけても返事がないことをいぶかしんだ侍女が聖女アリスの部屋に入り、事件発覚となった。
王太子ハンスは幾度も刺された跡があり、血まみれのなかに横たわっていた。そしてその死体となり果てた王太子ハンスの前で、王太子を刺したと思われる血まみれになったナイフを持った聖女アリスが立っていたという。
聖女アリスは本日より聖サロメ大教会本部にて異端審問にかけられる。聖女が異端審問に掛けられるのは、約80年前に行われた聖女カーレン異端事件以来である。聖女カーレンの異端審問は半世紀に及ぶグリム内乱初期のことであり――。
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