第37話 あなたの想い、あなたへの想い
「おおおおおおおおおおおおおっっっ!」
雄叫びを上げながら、将軍が俺の後ろで
はは……帰りは将軍の武頼みで、と考えてはいたけど、それでも将軍の強さが圧倒的過ぎなんですが。
「将軍! このまま一気に城に帰還します! いいですね!」
「っ! うむ! 任せたぞ、子孝!」
「はいっ!」
俺達武定の軍勢はその勢いのまま崔の陣を抜け、武定城へと帰還した。
「はああああ……」
城の城門が閉じられた瞬間、俺は安堵のあまり大きく息を吐く。
「子孝……助かった」
「…………………………」
背中越しに将軍が弱々しい声で礼を述べるが、俺はそれを無視して無言で馬を下りる。
すると将軍も、同じように馬から降りて不安そうな表情で俺の顔を
本当に……この
「っ!?」
「あなたは! 一体何を考えているんですかっ! あなたに何かあったら……万が一、その命を落とすようなことになってしまったらどうするつもりなんですか!」
俺は将軍の……白蓮様の胸倉をつかみ、顔を近づけて大声で怒鳴った。
この
あなたがいなくなったら……俺は……っ!
「だ、だが! このまま城に閉じこもっていても、状況が好転することもない! それに……っ!」
「だから言ってるじゃないですか! この俺が、命に代えても策を見出すと! なのに!」
すると。
「……
「っ!?」
白蓮様の雰囲気が、急に変わる。
「お主こそ……子孝こそ、分かっていないではないかっ! あのまま【模擬戦】で潜り続けておったら、お主は戦で破れる前に死んでしまうではないか! それを……それを、この我に指をくわえて眺めていろと言うのかっっっ!」
「で、ですが!」
「『ですが』ではない! 子孝は分かっておらぬのだ! 子孝が……お主がいなければ、誰が我を見てくれるのだ……誰が我を、受け入れてくれるのだあ……っ!」
驚いたことに、白蓮様は俺の胸にしがみ付き、肩を震わせて泣き出してしまった。
あの……いつも自信に満ち
「我は! 子孝がいないと駄目なのだ! 我には、子孝が……子孝だけが……っ」
「は、白蓮様……ですが、あなたは当代随一の英傑です……この大陸で、あなたを見ないなど……受け入れないなど、それこそあり得ないではないですか……」
彼女の肩を抱き、俺は少し困惑しながらそう告げると。
「そんなものに何の価値がある……何の意味がある……我は……子孝の優しい眼差しが欲しいのだ……子孝の、この温かい胸が愛しいのだ……」
「白蓮、様……」
ああ……そうか……。
俺はずっと、思い違いをしていた。
俺は、白蓮様は英傑だから、俺なんかの支えなんて取るに足らないものでしかないと思っていた。
だけど、本当は違ったんだ。
白蓮様が俺に好意を持っていることには気づいてはいたが、まさか俺と同じほどに
そして。
「我は……子孝さえいれば何もいらない。お主さえ傍にいてくれれば、国も、地位も、名誉も……」
ああ、俺は知らず知らず、この大切な
俺が白蓮様を崇拝するあまり、このお方は英傑であろうとしてくれていたのか……。
本当に、俺はどこまで馬鹿なんだ……っ!
「……俺は、絶対にあなたのお傍を離れませんよ。あなたが嫌だって言っても、俺はしがみ付いて離しませんから。もちろん……死んであなたの前から姿を消すなんて、まっぴらごめんですからね?」
「あ……し、子孝……」
涙で濡らした琥珀色の瞳で、白蓮様が俺の顔を
はは……こんな素敵な|女性にこんなに求められるだなんて、俺はなんて幸せな男なんだ……。
「白蓮様……この戦が終わったら、あなたに
「そ、それでは今までと変わらないではないか!? またあのように命を削るような真似をするつもりなのかっ! それでは……それでは、全然理解していないではないか!」
あ……伝え方を間違えた。
「あ、あははー……大丈夫です、これまでのような無茶な真似はもうしませんよ。だって……」
俺はすう、と息を吸って一拍置くと。
「だって、
そう告げた瞬間、白蓮様の瞳に輝きが戻る。
「で、では……!」
「はい……もう、この策しか思い浮かびませんでした。後は……試すのみ、です」
そう言って、俺は力強く頷いた。
「う、うむ! やはり子孝はすごい! 本当にすごい!」
「あはは……」
ああ……あなたはいつまでも、そうやってこの俺を認めてくれる。
あの頃と一切変わらない、その輝く琥珀色の瞳で。
その時。
「お嬢様! 子孝殿!」
「漢升!」
「漢升殿!」
いつものような悪戯めいた様子も一切なく。
はあ……だけど、漢升殿のことなので心配ないとは思ってはいたが、とにかく無事でよかった。
「お嬢様……よくぞご無事で……!」
「うむ! その……子孝が我を助けてくれたのだ。ふふ……お主にも、子孝の雄姿を見せたかったぞ……」
「はっは、拙者もあの戦場にいたのですぞ? 当然見ておりますとも」
まあ、そりゃそうか。
だけど漢升殿、その視線を俺はどう受け止めればよいのでしょうか?
「いやはや、これで拙者の肩の荷も降りようというもの。そのようにお二人の仲睦まじい姿を見れたのですからな?」
「「あ……」」
あー……そういえば俺と白蓮様、抱き合ったままだった。
「そそ、その! 漢升、これは違……「はは、でしょう?」……って、子孝!?」
白蓮様は照れ隠しのために言い訳めいたことを言おうとしても、俺はもう遠慮しない。
だって、白蓮様の心を……想いを知ってしまったのだから。
だけど……漢升殿の『いい加減気づくべき』との言葉、今なら理解できる。
本当に、俺はこんなに傍で見つめ続けていたのに、全然気づいていなかったんだからなあ……。
「はっは! これは拙者も何とか生きているうちに四代目にお仕えできそうですな!」
「ななななななななな!」
真っ赤になった白蓮様が慌てふためくけど……はは、俺の身体からは一切離れようとはしないんだな。まあ、俺も離すつもりはないけど。
とはいえ、このままじゃ策も練れないから惜しいけど仕方ないな。惜しいけど。
「白蓮様、それじゃ……」
「あ……な、なら、せめて手を繋いでいても、その……よいか……?」
ええとー……なんですかね、この可愛い将軍様は。
そんなことを言われてしまったら、俺は頷くしかないのですが。
「もちろんです。白蓮様……では、行ってきます」
「う、うむ! 子孝……頑張れ!」
「はい!」
さあ……行こう。
白蓮様と俺の、未来のために。
「【模擬戦】」
俺は全ての感覚を遮断し、頭の中に
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