【リメイク】ほぼ存在しない俺を、学園の姫だけは見つける。

プロローグ

Ep0.ほぼ存在しない男

　……まずは自己紹介からさせてもらおう。

　俺の名前は江波戸（えばと）　蓮（れん）。

　現在16歳、平均よりは偏差値（へんさち）が高い進学校に通うただの高校生だ。

　そんな進学校に通い続けるための努力が功（こう）を奏（そう）しているのか、成績はそこそこ高め。

　だが、運動は嫌いな部類であり、筋肉もあまりついていないヒョロガリだ。

　身長には恵（めぐま）まれている方だと思う。だが女顔で、全体的なルックスに自身はない。

　加えて人と話すことは苦手で、クラスの地位としてはド陰（いん）キャに位置している。

　一見は日本中に数多くいる多種多様な若者、その中でも目立たぬ部類の男が俺だ。

　まあ、貸賃（ちんたい）マンションの一室を借りて一人暮らしをしている点は珍しいかもしれない。

　だが、俺は他との絶対的な違いが一つある。

　『一見』と言っていたし、チート能力持ちの主人公的存在、とでも思うだろう。

　ラノベは俺も嗜（たしな）んでいるから、そう思う気持ちはとてもよく分かるさ。

　だが、違う。能力……みたいなものではあるが、俺のそれは良い物とは言えない。

　それが何かというと……ずまり、影が有り得ない程に薄いこの体質だ。

　……まあまあ、どうか慌てないでくれ。盛ってるとか、冗談を言っているわけじゃない。

　その塩梅（あんばい）が如何（いかが）な物なのか、具体的な例を詳しく説明していこう。

　まず一つが、今や少し懐かしく感じてくる中学校。その卒業アルバムだ。

　普通、学校のアルバムにはクラス、もしくは学年の集合写真があるものだろう？

　勿論（もちろん）、俺の母校にも卒業アルバムには各クラスの集合写真を貼（は）っている。

　しかし、俺のクラスだった約40人の集合写真に、俺は二人映っていた。

　しかもその内の片方は、端の方にある合成と分かるような跡が残っているもの。

　……そうだ。

　既（すで）に写っていたはずなのに、そこには不在と思われてしまっていたんだ。

　正直、その日の出席確認にちゃんと主張したのだから分かって欲しかった気はする。

　……まあ、今更気づいたところで後の祭りであるのに間違いはないが。

　それはさておき、まだ他に例がある。

　ただ、あまり長くなっても億劫（おっくう）だと思われそうだし、なるべく簡単に纏（まと）めて説明しよう。

　学校の友人感で、雑談している時に立つのが疲れると近くの席に座ることがあるだろう？

　俺もその被害（ひがい）を受けたことがある。

　だが俺はひと味違う。

　その被害にあってしまったのは、現在進行形で座っている時にだった。

　更に、加害者である相手は俺の上に座っていることを気づいてくれる事は無い。

　ただ、指摘（してき）したとして気まずくなるためその時は耐えるしかなかった。

　あとは……

　普通、学校というのは朝にHRの時間を儲け、出席確認やら連絡をするものだろう？

　俺の学校もそうだ。ウチの担任は少し面倒そうにしながら態々（わざわざ）こなしてくれている。

　しかし出席確認の時、俺は影が薄いため無断（むだん）欠席と確認されかけたことがあるのだ。

　俺はそうされそうになった時、勿論のこと出席していることを焦（あせ）って主張した。

　……しかし、それを普通の声でやったとしても気づかれることは無い。

　皆は普通の声量で俺を認知できないのだ。幸い、大声は例外であるが。

　ただ、教室で一人大声を上げるなど、陰キャにとっては恥（は）ずかしいことこの上ないだろう？

　しかし、俺には皆勤賞（かいきんしょう）が掛（か）かっている。今やもう毎朝の日課である。

　……言い忘れていたことに今更気づいたが、俺は視覚面以外にも影が薄い。

　今説明した通り、触覚面や聴覚面もそうだ。流石に嗅覚と味覚は知らん。

　……そして、記憶面においてもそれは影響してしまう。

　俺は今まで生きた中で、血縁関係以外に存在を一日以上覚えられたことがないのだ。

　出席確認をする際、担任は俺の前が確認してから出席簿を見ると決まって顔を傾（かし）げる。

　そのままその名を呼び、そして俺が大声を上げてから担任が俺の顔を見るも、顔を傾げる。

　……つまり言えば、毎日俺の名前を呼んで俺の顔を見るのに存在を認知していないのだ。

　しかし、それは珍しいことでは無い。

　どんな短い期間の別れでも、そいつと次会った時に俺は必ず存在を忘れられていた。

　｢誰？｣と訊かれるのは今や日常茶飯事（にちじょうさはんじ）。

　友達だなんて、できたことは無い。

　今も俺を覚えてくれている人など、例外を除（のぞ）けばほとんどいないだろう。

　［ほぼ存在しない男］。

　そんな体質を持つ自分に、厨二病（ちゅうにびょう）を患（わずら）った何時（いつ）しかの俺はこう名付けた。

　ただ、今でもその名を使っている。なんだかしっくりくるし、割り切れるのだ。

　自分に友達はいない、作れないのは。

　寂しくないのか？という、否定のできない質問を訊かれた時には。

｢ほぼ存在しないから｣

　そう、割り切れるのだ。

　だから俺は、今日も独りで学園生活を送っていた。