第肆拾捌話 想いよ永遠に。

大黒鼠を出現させぬらりひょんを凪から遠ざける。


(海坊主との戦闘で9体になったけどぬらりひょんを払うくらいの力が俺には無い。せいぜい時間稼ぎが関の山か…)


「上等ッ」


持てる最大限をぬらりひょんへ。


大黒鼠の攻撃を去なし、牛呂の戦斧“打伐”をも遇らう。

畳み掛けるように戌乖の抜刀。その刃を肘と膝で打ちつけ叩き折る。


「怪我人はあっちへ行っておれ」


“掌底”


手のひらから放たれる波動を腹に受け後方へと吹っ飛ぶ。


「1人戦線離脱じゃな。どうした?3人とも顔色が優れないのう」


戌乖は2体の妖怪との戦闘、その損傷を思いにより無理やり動かしていた。が先の攻撃により気絶。戦線を離脱せざる終えなかった。


辰川はぬらりひょんの呼び出した妖怪との対峙で満身創痍、立っているのがやっとの状態。


鼠入は日に2度の臨界解放により疲労困憊、度重なる連戦に妖力切れを起こす間近。


牛呂は海坊主の臨界解放により肋を3箇所、左足を折る重傷、本来ならば立つことすらできないはず。彼女は丑の能力、常人離れした筋力により骨折している足を筋肉により補強し無理やり立っている状態。


対してぬらりひょんは神眼により集めた妖怪の力を最大限活用でき、妖力切れも起こさないほど妖力に余裕があり、妖怪の為軽い損傷程度ならば即座に回復する。


優勢なのは火を見るよりも明らかである。


ゴゴゴゴゴゴゴゴ…


寒い、冷たい、体の芯から凍るほどの寒気を感じる。それは“地獄の門”が開いた証であった。


(まずい!このままここに地獄の妖怪達が押し寄せたらー)


(終わる…)


(ここまでと言うのか…)


「はっはははは」


“水流”


ぬらりひょんは高笑いしながら3人を水流で押し流す。その水流の威力は海坊主の臨界解放時と同等以上の威力であった。


押し流した事を確認した後、地獄の門へと向かい歩く。


「これで私の念願が叶う!!さぁ出てくるのだ!妖怪達!この世を蹂躙するのだ!!」


地獄の門が完全に開ききり、暗い闇の中から妖怪が出てくる。


「訳が無いだろ?」


“孤髑毒傷(こどくどくしょう)”


門から吹き出される紫色の煙、その煙はぬらりひょんだけに纏わり付き犯す。


「なんじゃこの煙は…?毒か!」ゴフッ


「よく分かってるじゃないか、ぬらりひょん」


「貴様は沙霧!?何故ここに…まさか!?」


門から出てくる人物。それはぬらりひょんが殺した、死んだはずの巳津沙霧であった。


「そのまさかさ。地獄の門は地獄と現世を繋ぐ物、なら私が通れない理由は無いよね?ちなみに援軍を期待していたのだろうけどそれも来ないよ?」


「なんじゃと?」


「じじいには分からないかな〜?私がある程度始末してから来たって言ってるんだよ!向こうでは閻魔が抑えてるしね」


「よくも私の長年の計画を邪魔しおって!」


“臨界解放・百鬼夜行絵巻”


呼び出された妖怪は沙霧に向かって襲い掛かる。


「殺せッ!!」


「これはもう一回地獄に行っちゃうかもな〜♪(比喩とかじゃないよガチの奴ね)」


“酸霧”


口から霧を吐き、倒れている凪を小脇に抱え距離をとる。その霧に触れた妖怪達は溶け次々と倒れる。


(どうしようかね…私の臨界解放は1人の時のみだからね)


「!?」


巳津の目の前に溢れてくる妖怪達は地面から突き出された赤い剣に体を射抜かれる。地面から突き出される赤い剣は妖怪達を貫いた後赤い霧状になり消える。


「巳津か!」


「ウルさんじゃないか、元気そうで何よりだ。それと九尾と八城ちゃん久しぶりだね」


「巳津さん!?」


「地獄の門が開いた影響かえ?」


「まあそんなとこ、さてぬらりひょんを祓おうか」


巳津は抱えた凪を八城に引き渡しぬらりひょんへと向き直る。


「凪くん…」


「地獄の門を閉じるには凪の折れた心を元に戻す必要がある。八城ちゃんの声がけに頼る他無い事申し訳なく思うがどうか頼む」


「…はい」


「増援など来ても結果は変わらぬ。わしがあの中に入り妖怪達を引き連れて行ったら良いだけのこと!!」


ぬらりひょんは臨界解放にて呼び寄せた妖怪達を引き連れ3人に向かう。



……く…


声が聞こえる。


…ぎ……


俺を呼ぶ声が。


………ん


でもそっちに行けないんだ。


な………


体が動かない。ポッキリと芯が折れたように。


「凪くん!」


八城さん?


彼女の声がした。居るはずのない。彼女の声。戦場とは程遠い優しい声、誰かを心配するかの様な…



呼びかける。自分に大きな力が無いのは分かってる。この体質のせいで苦労した事。でも今はそれを活かせるかもしれない。私の呼びかけ、声にどれだけ力を持たせられるか分からない。でも私は彼に、凪くんの名前を呼ぶ。


言霊(ことだま)。

彼女の持つ力。八城琥珀は普通の人間だ。彼女の両親も人間であり、その先祖も普通のごく一般的な人物達であった。


突然変異。


八城琥珀の人生は霊感があるで済まされていた。人より多くの異形を見、人より多くの異形と接してきた。彼女はそれが運命なのだと、そう思って生きてきた。


転機。


彼女の人生が変わり始めたのは中学3年生の冬、12月7日。その日、憑かれた妖怪から少しづつ妖力を吸われ続け、動けなくなり保健室に運ばれる。そこに偶然現れたある男子生徒。その男子生徒は彼女に憑いていた妖怪を祓い、足早にその場所を離れた。


(あの日から私は…)


今打ち明けよう。助けてくれたことを。今まで何度も助けてくれたことを。今度は自分の番だと。


「凪くん!昔保健室で魘されてた私を助けてくれてありがとう。その日からね私、我慢しなくなったんだよ」


両親にも打ち明けた。力のこと。そんな私を優しく抱きしめてくれた両親。今まで偉かったね、よく頑張ったねと。その言葉に涙が出た。


「我慢ばかりしてたけど、凪くんのおかげで私変われたんだ。高校に入って再会した時、踊るくらい嬉しかったんだ」


そう。思えばあの時に既に“恋”に落ちていたのだろう。助けてくれたあの日から。


我慢なんてしない。伝えよう。彼に私の気持ちを。場違いというのは分かっている。でも今、彼に伝えたい。少しだけ妖力(ちから)を込めて。


「真季波凪くん、貴方が好きです」

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