第45話 イストリア城塞に襲い来る悪魔たち
ディリオスは城門前に先に到着した。
しかし、すぐに不自然さに気がついた。あの二人が行って
これ程まで時間がかかる事への不自然さに気づいた。
彼はそう思うと人通りの多い道を行かず、力を込めずに船の硬い場所を
蹴りながら、波止場まで着いた。辺りを見回したがそれらしい人だかりは無かった。
それどころか、配備していた黒衣の者たちも消えていた。
彼はすぐに防波堤の出入り口の、鉄製扉を引き揚げている
左右の鎖を飛苦無を投げて、切り落とした。
そしてミーシャの元へ向かって、人外では見えない速度を出して最短距離で、いつでも戦えるよう体制を整えて彼女の部屋まで着いた。
「セシリア! ミーシャは?」
「まだお戻りになってませんが……」
「敵が侵入している! 警戒態勢を敷くんだ!!」
彼はそれだけ言うと、王妃ミアの部屋へと向かった。扉を守る騎士に黒衣の者は「開けろ!!」と命じた。
騎士たちは何かが起きたのかと、強くノックしたが返事が無かった。
ディリオスは扉をそのまま蹴り破って、騎士と共に中に入った。
「扉は開けたまま、静かに出入口を固めろ」騎士たちに命じた。
ディリオスは黒衣を纏い、フードを浅く被って、目を閉じたままゆっくりと部屋の中を歩き出した。扉を開けさせたのは、いざとなったら窓を割って逃げるかもしれない事と、近づけば空気の流れが、僅かに変わるためであった。
彼は集中する為だけに、目を閉じた訳では無かった。目を閉じている事を見せる為にフードを浅く被り、わざと隙を作る事によって、自分を囮にして、致命傷を避けるため心臓や首、頭部に飛苦無を集めていた。
目を閉じた相手になら、必ず攻撃を仕掛けてくると思ったからだった。その証拠に敵ながら、称賛に値するほど、完全に気配を殺していた。
その為、時折深く息を吐くように苦しそうに見せた。
敵は相当な使い手だという事は、すでにアツキとサツキで理解していた。
彼がわざと酷く咳き込んだ。
その瞬間、背後から首を落とすように何者かが斬りつけた。
剣は薄氷のように脆く砕け散った。男は振り向き様に腹部にアッパーカットを打ち込み、その者は気を失った。腹部には拳の痕がハッキリと残って切り目さえ出ていた。
すぐにミーシャに駆け寄った。騎士たちに指で王妃ミアを見るように合図した。
息がある事に安堵した。そして騎士たちを見た。彼らは頷いた。
両名とも無事で何よりだと思ったが、敵がいる事から思念を送らなかった。
見るからに悪魔だったが、相当な手練れだった。だからディリオスはアツキに声を出して呼びかけた。「アツキ!!」数秒待ったが返事が無かった。
「セシリア!!」彼は大声で叫んだ。
彼女は飛んできた。「どうかされたのですか?!」そこに倒れている奴のせいだ。
悪魔だ。しかも相当な強さを持っている。アツキとサツキにも連絡不能だ。
「どこから入ったのかは分からないが、防波堤に配備している俺たちの仲間は
全員どこにも見当たらなかった」念のため、防波堤の出入り口は封鎖した。
「セシリア。お前はすぐにネストルとカミーユを呼んできてくれ。俺はここに残っている。皆がきたら、俺は敵とアツキとサツキを探す。急げ、ジュンやブライアン等の戦える者たちにも声をかけていけ」
「彼女はすぐに走り出した。そして兵士を動員するよう指示を出しながら、兄ネストルの元へと急いだ」ここまで侵入された事は初めてだった。その事で彼女の思考を鈍らせていた。
城中が慌ただしくなった。リュシアンには誰も声をかけなかったが、ディリオスの為ならと、深い闇の中から自分を無理矢理引きずり出した。同室にいたレオニードはすぐに駆け寄った。「大丈夫ですか?」
「レオニード。私は再び戦う道を選ぶ」苦しそうに、彼はレオニードを見た。
「城内が慌ただしい。何か今までにない事が起きた証拠だ。アリヴィアンとヴァジムはどこにいる?」
「すぐそこにいます」
「では二人にも呼び掛けて、私を下に連れて行ってくれ」
「わかりました! 海からなら直ぐにエネルギーを満たせます」
北の勇者は、ディリオスの苦境を、見過ごす訳にはいかなかった。
必ず役立ち、返せない程の借りを、少しでも返していこうと思った。
勿論、そんなものはディリオスは求めて無かった。
だが、彼の苦境に対して、黙っているつもりは毛頭なかった。
彼は友の為に立ち上がる時は今だと、昔の自分を思い出しながら
それを自信に変えて、戦う決意をした。
リュシアンは海に右手を当てた。海の変化は見た目には殆ど分からなかったが、
彼は見る見るうちに、体や顔つきが変わっていった。それは昔よりも強いほどの
強さだった。「行くぞ! 今度は我らがディリオスに恩を返す時だ!!」
白い髪の狼のように鋭い顔つきで、ディリオスの元へ向かった。
どこの部屋にいるのかは、兵士の行き来で明白だった。
「ディリオス! そのミーシャ姫は君にとって大切な存在なんだろ?」
「そうだ。お前はやっぱり凄い奴だな」真に強い者は、いざという時頼りになると彼は信じていた。状況的に笑みを浮かべれないはずの二人は、笑みを浮かべ合った。
「わかった。私たちが命を懸けて守る。もう大丈夫だ。悪魔はそいつだな? 生きているのか?」鋭い目つきで、悪魔に目をやった。
「ああ、息はある」
「アリヴィアン! こいつらの狙いを全て探れ。ディリオスは見ててくれ」
ディリオスは頷いた。そして昔のリュシアンのような、力強さを頼もしく思った。
「お任せください。額に手を当てた」
「繋がりました」
「まずは役目も果たせず、何故戻ってきたのかを聞け」
アリヴィアンは強い口調で問い質した。彼女の能力は、直接対象者に触れる事により、その対象者の望む世界を見せることが出来る。そしてその対象者が恐れている者を、夢に近い幻覚のような世界で出現させて、対象者が見ているその恐れる相手に、アリヴィアンがその恐れる者に投影し言葉を発すると、その恐れる者の口調に自動で変化させるため、違和感を感じさせずに、バレることなく真意を探ることの出来る能力だった。ただ対象者が死亡又は、意識がある場合には無力であった。
意識を失ったまま、悪魔は喋り出した。
「ミーシャ姫をあと一歩で奪えたのですが、ディリオスの奴に邪魔されました。申し訳ありません」
「仲間はどうした?」
「奴らとは別行動をしていたので、どうなったのかはわかりません」
「俺の配下は他に何人やられた?」
「申し訳ありません……それも不明です。ですが、ディリオスを最後に怒らせるのは、あまり良いとは思いませんでした。私が一撃でやられたほどです。真の遺伝子に目覚めたら、我らにとって利するとは思えません」
「それは助言か? それともふざけているのか?」
「進言でございます。ベリアル様直臣のバルド様が、負ける事などあり得ません」
「それぞれに役目を与えた。お前はミーシャ強奪が使命のはずだ」
「重々承知しています……」
「お前たちが本当に分かっているのなら、順々にお前たちの使命を言ってみろ。全部答えられたらもう一度チャンスをやる」
「我々五大副官の使命は、わたくしギルバリンは王妃ミア暗殺、そしてミーシャ強奪です。アーシュケルは幻覚の結界を気づかれる事無く、イストリア城塞全体にすでに張っております」
「それなら出入りは既に自由なのか?」
「はい。問題ございません。我々の出入りに気づく者もいたようですが、アーシュケルが対応したようです」
「殺したのか?」
「最初の任務が幻覚の結界が目的でしたので、死人が出ると死臭や、血が流れる事を怖れて、後々任務に支障がきたすと判断し、“無限夢現”に落としたそうです。五人ほどいたようですが、全員問題なく眠らせています」
ディリオスは心からホッとした。
「グリムゲルはダグラス王暗殺が任務で、ベノジェスはロバート王暗殺が任務です。バルド様はディリオス暗殺が任務で以上になります」
「それじゃあ足りないだろ?」
「そうでした。申し訳ありません。お許しください。カミーユとリュシアン暗殺任務はドルドスです」
「お前任務を舐めてるのか? お前たちが失敗したら、我らの将であるベリアル様から俺は叱られるんだ。俺は第六位の指揮官でもある。お前たちは知らないだろうが、あの方がお怒りになると恐ろしい……お前らでは想像もつかない程のな。もっと真面目に命を捨ててこい」
「ありがとうございます。それでは行ってまいります」
「これは今までに無い緊急事態だ……俺の相手は第六位の悪魔か……俺は自分で処理する」
「リュシアンは仲間と共に、カミーユ、ネストル、セシリアで協力して敵を倒せ、相手は当然強いはずだ。お前たちに複数人の部下がいる事を承知しながらも、二人の暗殺を命じられていた。強さでは第六位の指揮官バルドの次に強いのだろう。ダグラス王とロバート王にはそれほど手強い刺客は送らないはずだ」
「城門を守る意味は今は無い。ダグラス王の部屋にロバート王を連れていってハヤブサ部隊に守らせろ」
「あと幻覚を消さないと不味い。アツキとサツキは元々は標的では無かった。だが、邪魔だったんだ。だから狙われた。アリヴィアンの特殊能力は使える。今後の為にも戦闘はなるべく控えてくれ。リュシアン頼んだぞ」
「城門には俺だけでいく。俺を直に狙ってくるほどの相手だ。弱くはない。死闘になるだろうから、誰にも近づかさせるな。あと倒したから死んだと思うな、幻覚で死んだように見せかけるだけかもしれない」
(しかし、城門外から幻覚を見せるには難関だ。通常の景色を映しつつ入ったことになる。ミーシャを狙った悪魔が、かなり手強かった。俺でなければ殺されていただろう。気配も完全に消していたしな、そう考えると難敵と言える。だが、旅立つ前に、事が起きたのはある意味幸運だと言えるだろう)
(だが、六位の指揮官が自ら来るのは、どういうことだ? 一体何が起きている?
現在任務を遂行しているのは、幻覚の能力者だと言っていたな。基本的に無いものをあるように見せるものだが、五大副官のひとりの仕業だと言っていた。そして強力なエネルギーで結界は破壊できると、あの爺さんは言っていた)
ディリオスは城壁に降り立つと、ゆっくりと息を吸い込んで、白い息をゆっくりと深く吐いた。そして再び更にゆっくりと息を吸い込んだ。そして一気に、天にも届く程の咆哮を上げた。叫び続ける間に、彼のエネルギーはどんどん高まっていった。イストリア城塞が震えるほど叫び続けた。高まるエネルギーによって内側から結界は破壊され出して真の姿を見せた。
「漆黒の者ども!! 貴様らの出番だ! 敵と味方を探し出せ!」
かれらはこの声が耳に入る前に、皆消えるほどの速さで動き出した。
「来るならいつでも来やがれ!! バルド!!」凄まじい速さで悪魔が接近してきた。お互いに拳を正面から放った。両者とも拳が完全に入ったが、どちらも一歩も退かずに睨み合った。拳は左右の肩に突き刺さった。暫くは使えないほどの威力が両者にはあった。
そして城壁の上で、お互いほぼ同時に能力を発動した。黒衣を脱ぎ去り九十本の飛苦無と、それを繋げていた合金糸を丸めて腰にかけた。黒刀を上刃向きに構えてディリオスは対峙した。
バルドは翼から圧倒的なエネルギーを放出しながら、変異を遂げた。強靭な体は見ただけでその強さの程は理解できた。そして人型でありながらも、内に秘めたるその力は想像以上だった。そして指先を、縦にゆっくりと振った。
小さな裂け目から赤い目をした蝙蝠が噴き出してきた。
ディリオスもすぐに応戦した。“
しかし、微動だにせず、口元だけが緩んだ。ディリオスは即座に四重の手を考えだし、実行した。龍の雄叫びをかわして、影からバレた黒刀をかわして横からの拳打を見舞う予定であったが、バレていると察して、黒刀の速度を一気に上げて、自らの股下から上に向けて振り上げた。そして紙で切れたように、浅く斬れた。
浅く斬れたと言う事は、読み切れなかったと言う意味だと、真の強者なら知っている事だった。ディリオスは全てを投げ捨てるようにバルドの懐に入り込み、浅く斬れた場所に手刀の連撃を入れていった。
硬い体でも切り口があるなら、それほど問題は無かった。彼の手の剣の斬撃は止まる事無く打ち込んでいった。風を背後から感じて、彼は後ろ斜めに、その身を退いた。
何者もいなかったが、先ほど感じた風の高さから、彼は場所を推測し、ディリオスは自分の力との差も分からない程度の者だと瞬時に見破った。そしてその者の安易な行動から幻覚能力者しか有り得ないと判断した。
彼は瞬時に鋼よりも切れる糸に切れ味を増した、合金糸で回転しながら周辺一帯を斬り刻んだ。光速で回転していた為、避けきれず、その頭と体を綺麗に斬り落とした。
「ジュン。幻覚使いは殺した。アツキとサツキたちを探し出せ。クローディアたちも使って探させろ。あとミーシャを襲った悪魔はもう用済みだ。しっかり殺しておけ」
「はっ!」小声と同時に何かが飛んで行った。
「貴様。その程度なのか?」バルドは笑みを見せた。
「そっちこそだ。その程度で俺に勝つ気か?」胸の傷を一瞬で閉じていった。
「お互い様子見してたってことか……愉しませてもらおうか」
バルドとディリオスはお互いに構えた。
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