第4話 千年前からの片思い


 

「おやおやすごい量じゃのう」

 

 

 淡い光によって照らされる、北の魔王城最上階玉座の間。12年間、主不在の空の玉座と化していた椅子に座り、多量のワインを貪るのはシルヴァ。10年前、リュミエールを捨てた日からずっとこうだ。年に数度様子を見に来るエリュテイアの瞳が愉快そうに細められた。

 

 

「坊を手放してこうも荒れるとは……なあシルヴァよ。何故坊を手放した?」

「手放す? 馬鹿を言うな。妾は元から手放す気でいた。リュミエールあれは妾を殺させる為に育てていた。何を言っても離れないと喧しいリュミエールを引き離すなら、あの時が絶好の機会チャンスだったんだ」

「……ほう? なら、何故お主はこんなにも荒れている? 魔王城に戻ってからずっとワイン浸りではないかえ」

「……」

 

 

 床に転がる無数のワイン瓶、微かな残骸が床を濡らし、周囲を芳醇な葡萄酒臭で囲う。

 ずっとだ。

 リュミエールを手放してから、シルヴァはずっと酒を煽り続けていた。

 グラスを大きく口へ傾けたシルヴァは口端から零れたワインを拭った。グラスを銀の炎で跡形もなく消すと天を仰いだ。

 

 

「退屈になった」

「……」

「前までは、少し目を離すと泣くうるさい赤ん坊がいた。人間の赤子が何を食べるか調べていると泣いた。些細な温度変化で具合を崩す赤子が面倒だった」

 

 

 何度見捨ててやろうと、何度殺してやろうと抱いたか。回数にしたら数え切れない。

 

 

「……だが……どうしてかな……結局……赤子を捨てることはなかった」

 

 

 聖女の腹に宿っていた将来自分を殺してくれる可能性を秘めた子供。リュミエールと名付けた当時の心境を理解できなくても、今なら出来る気がする。

 

 

「あいつがいるだけで温かった。面倒だが退屈はしなかった。長く生きてきたが“普通”に生きるというのも悪くなかった」

「……シルヴァよ……ずっと不思議だったんじゃ。お主は5大陸に君臨する魔王で唯一下僕を持たぬ魔王じゃ。どうして1人に拘った?」

 

 

 エリュテイアの平坦としながらも、端にあるシルヴァを気遣う声色。“紅蓮の魔王”の所以とされる赤い髪を指に巻いてシルヴァは前を見た。

 

 

「拘ったんじゃない。そもそも興味がなかった。お前も他の魔王も知っての通り、妾は力が欲しかった。がむしゃらに力を積んで、他の魔族共と毎日殺し合い、軈て魔王となった。魔王という立場も興味がないんだ。欲しい奴がいるならくれてやるさ」

「言うのう。……だが、北の魔王はシルヴァ以外になれんよ。気象の荒い連中ばかりだからのう、北は」

「違いないな」

 

 

 シルヴァもその1人。

 

 

「……いつまで、酒を飲み続けるんだ?」

 

 

 毎日、朝・昼・晩、永遠にワインを飲み続ける様は人間だったらとっくの昔にアルコール中毒を発症して死んでいる。人外ならではの体質で酔いもなければ死ぬこともない。シルヴァは新しいワイン瓶を引き寄せた。細い指でコルクを抜き、新しいグラスに注いだ。満タンまで入れると一気に飲み干した。

 

 

「……さてな」

「待っているんじゃろう? 坊を」

「……」

 

 

 10年前、王都中心街の路地裏でシルヴァとリュミエールを囲んだ多数の対魔師。内の1人である男が告げた。リュミエールは聖女カテリーナと神王アイテールの息子だと。彼等を救う、次代のアーサーだと。アーサーは代々の勇者の名前。魔王討伐をしに来る勇者の名前がアーサーの意味をあの時からずっと考えていた。シルヴァはグラスを浮遊させ、小さな丸テーブルに置いた。

 

 

「エリュテイア。北の神王アイテールには弟がいたな」

「ああ、いたのう。それがどうした?」

「……そいつの名前がアーサー=ヴェルレエヌだった」

「! ……ほう?」

 

 

 興味深げに赤目を細めたエリュテイア。自身の自慢の髪を触りながら、頭の引き出しを片っ端から探っていく。

 

 

「そうじゃ……そうじゃ。北の直系神族は2人。天空王アイテールとその弟ヴェルレエヌ。奴の呼び名は……ああ……“悪魔喰らい”じゃったな」

「そうだったか?」

「そうじゃよ。そう、奴は異端の神族じゃった。それもその筈じゃよ。奴等、兄弟は兄弟でも腹違いじゃ」



 父親は先代神王。

 だが、母親は神に仕える修道女。

 シルヴァの翡翠色の瞳が驚いたようにエリュテイアを見上げた。

 

 

「人間?」

「うむ。ただの人間じゃない。かなりの特異体質者じゃよ。儂の城に住む元天使が言っとったが……」

 

 

 人間大好きを公言するエリュテイアの魔王城には、極少数だが敵だった天使がいる。他の天使に虐められ、死にかけていたところをエリュテイアに拾われた者ばかり。力の弱い、それも瀕死の天使を懐に入れたくらいで脅威に晒されるエリュテイアではない。

 助けた何人かの内、神王家の事情に少々詳しい者がいた。

 

 

「ヴェルレエヌの母は、神族に力を与えられる極めて特異な人間だったそうな」

「人間が神力を持っていたと?」

「持っていた、というより、増幅させる力を持っていた、というのが正しい。かの女性と口付けをするか、体を交わることで力が増幅していったそうな。軈てその話を聞いた当時の神王が彼女を攫って手籠にし、子を孕ませたのじゃ」

「それがヴェルレエヌか」

「うむ。だが、特異体質といえど、肉体そのものは普通の人間じゃ。ヴェルレエヌを生んですぐに母親は死んでおる。……じゃがの、奴が“悪魔喰らい”と呼ばれるのはそこからきておる。奴は母親の特異体質を受け継いでおっての」

 

 

 その時だ。エリュテイアが次の言葉を紡ごうとした直後、魔王城に異変が起きた。轟音も振動もない。だが、明らかに攻撃された。主であるシルヴァが最も感じた。何事かと2人の魔王は出口を見つめた。

 誰かが来る。

 魔王が貼った結界を音もなく破った強者。

 シルヴァの身に流れる血が熱い。

 強者が現れる期待? 興奮? 

 ――どれも違う気がした。

 

 扉がゆっくりと開かれた。

 

 

「…………」

 

 

 暗闇の向こうから先に見えたのは、光輝く黄金。

 金色の髪を揺らし、金色の瞳をシルヴァに捉えたまま離さない侵入者は、玉座へ進む英雄の如きオーラで歩く。神族の力が込められた白い装束からは、濃度の高い神力が感じる。シルヴァは玉座から動かず、真っ直ぐに歩いて来る侵入者から決して目を離さなかった。人にとって10年は決して短くない。たった10年で見違える程成長した嘗ての子供は、当時と変わらない愛らしい顔をしているのに。

 シルヴァを見つめる感情は無だった。

 ……かと思いきや。

 

 ふにゃりと笑って見せた。

 思いもしない変化にシルヴァは困惑し、側にいるエリュテイアは面白い物が見れると即座に隅の方へ移動した。

 侵入者――基、大きくなったリュミエールが開口一番放ったのが――

 

 

「会いたかったよ。我が愛しの魔王陛下」だった。

 

 

「……」

 

 

 リュミエール。

 金貨を溶かしたような髪と瞳。

 外見はリュミエール以外の何者でもない。

 

 ……しかし、とてつもない違和感があった。

 先程リュミエールの発した声。

 声変わりを果たし、人間の女なら聞き惚れるであろう美声に成長していた。声が変わったくらいで抱かない。なら何に? そう、彼は今“我が愛しの魔王陛下”と紡いだのだ。この台詞は千年前、奴が……初代勇者が発した言葉と似ている。

 何も言わず、睨むようにリュミエールらしき青年をみ続けているとほんのりと顔を赤らめた。

 

 

「そんなに見つめないでよ。あなたに再会するのならって、格好良く見てもらいたくて気合い入れたのがバレちゃった? それとも僕に惚れてくれた?」

「……くだらん口を叩くな。お前は誰だ?」

「えー? ずっと一緒にいたのに分からない? やっぱり、魔王でも10年経つと人の見分けがつかない?」

「ふざけるな。お前がリュミエールではないのは分かっている。

 ――もう一度聞くぞ。お前は誰だ」

 

 

 途端、彼の唇が歪に吊り上がった。

 

 

「はは……あ、はははははははは!! うん、いいよいいよシルヴァ。我が愛しの魔王。でも不正解。僕はリュミエールだよ。ただ、やっと“起きた”だけなんだ」

「起きた?」

「そう。僕はリュミエール。君が名前をつけ、育ててくれたあの子供だよ。でもちょっと違うところを言うと……“リュミエール”という個人はもういないってことかな」

 

 

 彼は険しさが増した顔つきで睨み、下手に刺激すると開戦しそうなシルヴァに構わず近付くと跪いた。

 

 

「改めて自己紹介しよう。

 僕はアーサー=ヴェルレエヌ。名前知ってる?」

「……ああ、神王の腹違いの弟の名だろう」

「うん。ふふ……あいつは昔から、僕が嫌いだったんだ。半分は人間の血が流れた僕を、汚れた血だって。自分の父親が手籠にして生ませたくせにね。そのくせ、僕の持つ特殊能力を非常に恐れていた」

「“悪魔喰らい”の力か」

「そう。ねえシルヴァ。君は、何故千年前殺した僕がこうして目の前にいるのかと考えているよね? 僕に答えを言わせてほしい。僕はあなたの望みを叶えたい」

「殺した? ……あの初代勇者はお前だったのか」

「ふふ。そうだよ」

 

 

 最初に勇者になった人間は、歴代の勇者の中で最も強力な神力を持っていた。

 長年の疑問が今解けた。

 強い筈だ。半分は神の血を持っていたのだから。

 ヴェルレエヌはシルヴァの望みを叶えたいと言うが無駄だ。千年前殺した男が、姿を変えて現れたとしてもシルヴァを殺せない。圧倒的力で殺される未来しかない。

 嘲笑を鳴らすもヴェルレエヌは美しい微笑みを消さない。寧ろ、シルヴァに蔑まれただけで恍惚の色を追加した。シルヴァは無表情になり汚物を見る目で見下ろすも、シルヴァに何を向けられても興奮の材料にしかならないらしいヴェルレエヌには意味がなかった。吹き出す笑いが聞こえたのでギロリと目を動かすと、隅に移動して観察しているエリュテイアがニヤニヤと笑っている。面白がっているのだ。

 

 

「ぷぷ、ああすまん、儂のことは空気だと思ってくれ」

「笑いを吹き出す空気があったとはな。初めて知った」

「意地悪言うでない。面白いんじゃよ、そこの元坊が」



 紅蓮の瞳が愉快げにヴェルレエヌに移動する。彼も金色の瞳をエリュテイアに向ける。だが、そこにシルヴァに向けていたものはない。酷薄な瞳があるだけ。

 

 

「エリュテイア=クルスニク。南の大陸を支配する“紅蓮の魔王”か。僕とシルヴァの空間に異物がいるのは許せない。早々に退場を申し出よう」

「酷い言い草じゃのう。お主の中にあの坊はおらんのかえ?」

「必要ないだろう」

 

 

 あっさりとヴェルレエヌは言う。

 

 

「僕に必要なのは、シルヴァに会い、シルヴァに求愛するための器だけなんだ。やっと完成した完璧な器に不純物はいらないのさ!」

「完成?」

「そうだよシルヴァ。ああ、あなたは不思議に思っていたね。何故勇者の名前が“アーサー”なのかを。教えてあげよう」

 

 

 エリュテイアからシルヴァに目を移された。酷薄さは消え、異常な熱愛を秘めた金色の瞳に寒気がしたシルヴァだが表には出さなかった。黙ってヴェルレエヌの言葉を待った。

 

 

「そもそも、何故魔王討伐に選ばれた初代勇者が僕だったのかを説明しないとね」

 

 

 千年前――

 当時、魔王の座に就き、ありと凡ゆる方法を用いても圧倒的力で敵を屠るシルヴァを神族は極めて脅威としていた。何れシルヴァの力が北の大陸を恐怖に陥れると危惧。しかし、何度精鋭を送っては殺される運命を繰り返され、深刻な人手不足に陥っていた当時。ある策が使われた。それが適正のある人間に勇者の称号と神力を授け、魔王を討伐する任務。人間でもかなりの力を持つ輩はいる。神王アイテールは適正のある人間探しを始めた。だが直後、真っ先に立候補した者がいた。

 それがアーサー=ヴェルレエヌ。

 先代神王と特異体質の母を持つ、神族の異端児。

 適正者が見つかるまでどれだけの時間がかかるか分からない。なら先ずは、自分が行こうと手を挙げたのだ。彼の特殊能力を恐れていたアイテールは、これ幸いとばかりにヴェルレエヌを人間と偽り初代勇者に任命した。集められた人間の精鋭と共に魔王城に乗り込み、あっさりと殺されたばかりか、力を喰われたヴェルレエヌにアイテールは非常に腹を立てた。

 所詮は汚れた血の異端児。役立たずの穀潰し、と。

 

 

「でもね、僕の目的は最初からあなただったのさ、シルヴァ。5大陸の魔王は子供の頃から教えられていた。

 東を支配する、“氷結の魔王”グラース=アブソリュート

 西を支配する、“金剛の魔王”アダマス=ナイトメア

 南を支配する、“紅蓮の魔王”エリュテイア=クルスニク

 中央を支配する、“森羅万象の魔王”フィスィ=ソレイユ

 そしてあなただ、シルヴァ」

「……」

「あなたの“銀の魔王”の名は、僕の力を得てから」

「なんだ、今更返せとでもいうのか」

「そんなせこいことは言わないよ。僕は魔王の顔も覚えている。その中であなたが最も美しかった。群れをなさず、ひたすらに力を求めるあなたがこの世の何よりも美しかった。だから僕はあなたの側にいたくなった」

 

 

 自身の力を喰わせたのは、愛するシルヴァの糧となりたかったから。

 悪意狂気は数えきれないほど受けてきた。

 純粋な狂気、というものを改めて受けて戦慄した。跪くこいつは頭が狂っていると。神族でありながら、魔王に求愛する時点で既に狂っている。

 

 

「でも、僕はあなたより弱い。でも、僕には他の天使や神族から奪った知識があった」

 

 

 母親の特殊能力を受け注ぐヴェルレエヌを、アイテールと同じく忌み嫌う輩はいた。けれど、利用しようと近付く輩も大勢いた。

 己の環境が異常だと理解していたからこそ、逆に利用してやろうと画策した。力を欲した強欲共は人畜無害の顔を浮かべるヴェルレエヌと何度も口付けをし、何度も体を重ねた。中には男だっていたが逆に手玉に取ってやった。

 力を増幅させ、益々ヴェルレエヌを求める強欲者達だったが……気付くとヴェルレエヌの足元には死体の山が完成されていた。

 

 

「僕のこの力はね、力を与える代わりに相当な束縛力があってね。僕から一定の距離を取ると次第に精神をおかしくさせ、最終的には幻覚に囚われ、自害をもたらすのさ」

「一種の契約魔法だな」

「まあね。力を与える代わりに、僕の側にいろってこと。はは、まあこれが露見されて誰も僕に近付かなくなって楽にはなった。そして、死んだ奴等の力と知識は、僕のところに来たんだ。死んだのなら、力を与えた僕に報いろってことだよね」

「お前の母親もそうだったのか」

「かもしれないね。まあ、あの人は父が常に囲っていたからよく知らない。会ったことすらないし」

 

 

 ヴェルレエヌを生んで亡くなった母親は、どんな気持ちで神王に囲われていたのか。恐れたか、喜んだか。シルヴァには想像すらつかない。

 

 

「僕はね、出陣する前にある禁術を残したんだ」

 

 

 適正のある人間を見つけるのは簡単じゃない。そこでヴェルレエヌは人間の教会と手を組んだ。

 それが――

 

 

「聖女の力を持つ女を、僕を産み落とす為の孕み袋にさせるようにしたんだ」

 

 

 純粋な、太陽の如き輝きで放たれたとんでもない台詞は、魔王2人を驚愕させるのに十分な効力があった。

 

 

「『輪廻式受胎魔法』って言ってね。僕の魂を、死の直後、教会に残した魔法式に移すんだ。そして、聖女に選ばれた女に力と偽って僕の魂を肉体に宿し、子を生ませるんだ。生まれた子は必ず男であり、次の勇者に選ばれる。何故か分かるよね?」

「……お前の、力を持っているからか?」

「違うよ。君に殺される為さ」

 

 

 生まれ、殺され、生まれ、殺され――。

 無限に続く生と死を繰り返すことでシルヴァの側にいられる強い神力を持つ子供が生まれる。そう期待したとヴェルレエヌは語る。さすがのシルヴァも顔が引き攣っていた。隅にいるエリュテイアもドン引きであった。千年もかかるとは思っていなかったと嘆息されるとある答えに結びついた。

 

 

「まさか……リュミエールか……?」

「そうだよ。君が聖女カテリーナの腹から取り出し、育てたリュミエールこそ、僕があなたの側にいる為にずっと待ち続けていた器だったのさ。言ったでしょう? やっと完成したって」

「……」

 

 

 シルヴァー! と笑顔で手を伸ばして走ってくる幼児の顔が脳裏に蘇る。純粋に自分を慕い、母を殺した仇と言っても大切にされていたせいで憎むという気持ちはないと、シルヴァが大好きだと宣言した子供。我儘で、食いしん坊で、甘えん坊で、時に泣き虫で。……だが、一緒にいて楽しいと感じたリュミエール。

 そのリュミエールが千年前殺した半神族の男の狂気の結果生まれた器だった……

 

 シルヴァは言葉をなくした。

 

 

「ヴェルレエヌよ……お主、半分人間とは言え神族じゃろう? よくもまあ、人間を犠牲にしてやらかせるのう」

 

 

 非難の声色で放つエリュテイアへ嫌悪を隠しもしない金色が睨む。

 

 

「人間の負の感情を糧とする魔族の王に言われたくないね。でもそれが? 僕には関係ないよ。僕はシルヴァが、愛しの魔王の側にいられるのなら何だってするよ。第一、歴代の勇者を生んだ女達は教会に莫大な報酬を貰っているんだ。非難される謂れはない」

「歴代の勇者の名前が“アーサー”なのはお主だからか?」

「まあね。表向きは、初代勇者の名を授けることで勇者の意思を底上げしてやろうっていうやつ」

「腐っとるな。お前も教会の連中も。確かに魔王である儂が言うのもなんだが、人間を守るお主等が裏では人間を孕み袋にするとはの」

「何かを為すには犠牲はつきものさ。いいじゃないか、人間は僕達神族に守られているんだ。多少の犠牲は払ってもらわないと」

 

 

 ね? とシルヴァに微笑んだヴェルレエヌ。

 

 

 

 

 刹那――――

 

 

 

 ヴェルレエヌは後方へ神速の速さで吹き飛んだ。

 激しい硝煙が周囲に上がる。

 パラパラと石の欠片が壁から落ちる。

 

 

「シルヴァよ……お主……なんだかんだ言いながら……あの坊を……気に入っていたのだな」

 

 

 悲しげな感情に染まったエリュテイアの視線の先には……

 玉座から立ち上がり、腕を大きく払ったシルヴァがいた。

 

 

 俯くシルヴァの頬に流れる涙が……無機質な床に落ちた。

 

 

 

 

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