第10話見物

 12人全員が退場し終わると、視線が再び進行役の生徒に戻った。


 「それでは、第二回の投票に移るため、一度最初の席へ戻ってください。全員が席に着いたタイミングで前回使わなかったカードの回収及び、新しいカードの配布を行います。それでは移動を開始してください」


 指示に従って全体は動き出したが、拳斗は違和感を感じた。第二回の投票に移るために残った二枚のカードの回収と新しいカードの配布はまだわかるとして、なぜ一旦元の席に着かせるのか疑問を抱いたが、すでに納得のできないことなど山ほど起こっているためいちいち気にすることはさして意味のないことなのだろうと自分を納得させて席へ向かった。


 進行役の生徒が言った通り、席に着くと前から回収箱を持った生徒と新しいカードを配布する生徒が手際よく回ってきた。新しく配られたカードは一回目の投票で使ったものと同じものに見える。投票箱に入っているパーだけを出してもう一度配る方が効率がよさそうに見えるため、新たにカードを配るということは何か違いがあるのではないかと疑う気持ちも十分納得のいくものだが、特に変わりはないようだった。


 「まだカードが回収されていない、もしくは新しいカードが配られていないという方はいませんか。いないようでしたら第二回に移りたいと思います。第一回同様投票までの自由時間は20分です。その間は何をしていただいも構いません。それでは開始します。……始め!」


 第二回はもうすでにルールも把握しているため特に説明もなく流れるように始まってしまった。確かに第一回は自由時間20分、投票から結果発表まで諸々約15分、今回12人しか脱落者が出なかったためこのペースでいくと相当の時間を要することは容易に想像がつくため、少し雑になっても早く進めたいという気持ちはわかるが、試験を受けている側の人間からすると高校入学という人生を決めるかもしれない大事な時に少しくらい心の準備をする時間がが欲しいというものだ。


 今回は第一回と違いゲームが始まって早くに動きが現れた。開始してまずはすぐに前回形成された5つの国に蜘蛛の子を散らすように分かれていった。


 拳斗もまずは木村の統率する国に足を向けたが、その際偶然壇上で学校長と話す天童の姿が目に入った。


 「天童先生、今年の新入生の様子はどうですかな?」


 校長は自分の少し禿げ上がった頭をなでるように搔きながら言った。


 「はい…。今はまだ判断しかねますが、例年よりは見ごたえのある試験になるかもしれません。今までもこの試験は見てきましたが、国を形成するのは早くても2回目、遅いときは最終盤いよいよ最後の10名を決めるような段階で見られました。しかし今回は第一回の投票から国を形成し、さらにその全てが第二回に残っている。もしかしたら、今年のレベルは相当高いのやもしれません」


 「そうですな。第一回の投票でランダムに勝ち残った生徒同士で国を作ってもたかが知れておる。だが、今回は第一回で生まれた国がすべて残っておる。これほどまでに規模の大きい国取りは見たことがない。それに第二回にこんなにたくさんの人が残っておるのも初めて見た。緑山高校史上に残る優秀な学年になるかの?」


 「そうであればいいと考えています」


 ふぉっふぉっふぉっと言う絵にかいたような笑い声で校長は楽し気に笑っている。天童はというと生徒の前で最初に話していた時とは違い校長にはかしこまった態度で臨むようだ。

 

 拳斗は遠目にその様子を見ていたが何を話しているかまではわからなかった。こちらを見ながら話しているところを考えると試験に関することだろうと思い、上級生や教員、天童、校長の見世物になっているような気がして苛立ちを感じざるを得なかった。とはいえ今はそんなことにいちいち気をそがれている場合ではなかった。拳斗は前回の投票で起きたすべての国が同じ手を出すという現象について木村の意見を聞きたかったし、今回の投票をどうするかという考えをまとめる必要があった。20分という時間は当初多すぎはしないかと思ったが、今となってはたった20分で答えを出すのは不可能に近いと考える様になっていた。それに、知るすべはもはやないが、他の国がどのようにして投票する手を決めているのかも気になるところだった。


 木村の国だけではなくそれぞれの国は前回集まっていた場所と同じ場所に結集していた。拳斗とあずさを含む木村の国では一回目を抜けたとはいえ浮かない表情をしている人がほとんどである。それも仕方のないことで、前回の投票で上手くいけば国が一つか二つは脱落するとみていたからだ。しかしこれだけの人数が第二回の投票に残ることになると、勝ち残るためには前回と同じ、もしくはそれ以上のリスクが生まれることになる。5つの国がすべて同じ手をだすという事実を見てしまった以上、前回のように二種類しか手が出ない場合、手が一種類しか出ない場合をレアケースとして軽視して考えることはもうできなくなっていた。


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