第4話国取りじゃんけん

 国取りじゃんけん。そうスクリーンに大きく映し出された飾りっけのない無機質な文字に拳斗は驚きを隠せなかった。


 (こんな大事な試験でじゃんけん?しかも国取りじゃんけんってなんだ?)


 どうやら国取りじゃんけんを知らない人間は拳斗だけではなかったらしい。周りを見ると他の生徒も拳斗と同じように動揺を隠しきれていない様子だった。初めて聞くじゃんけんの名前にどよめきが起こる中、スクリーンはさらに次のスライドを映し出した。

 

 グー、チョキ、パーの三つが勢力図のように均衡している図が表示されている。拳斗はまるで三国志のようだ、と月並みな感想を覚えた。


 「国取りじゃんけん、ルールは至ってシンプル。それは、グー、チョキ、パーがそれぞれ書かれた3つのカードがこれから配られる。そのうちから1つを選び投票時間になったら壇上に設置する投票箱の中へ投函する。開票された結果、3種類のうち最も票が多かった1種類が勝ちとなる。また、偶然2種類しか選ばれなかった場合、この場合は先ほどの例とは逆に投票数の少なかった方が勝ちとなる。1種類しか選ばれなかった場合は当然再投票となる」


 スクリーンにはルールをさらにわかりやすくするために説明の映像が流れている。説明を見ている間に前の方から生徒会の役員と思われる生徒がグー、チョキ、パーの3つの絵が描かれた簡単なつくりのカードを配ってまわっている。配られた生徒はカードをよく観察したり裏返したりしているがどうやらカード自体に細工は施されていないらしい。


 そして、拳斗の元にもカードがやってきた。


 (カードはたった三枚。しかもこの中から使うのは一枚のみ、か…。カードなのに結構しっかりしているな。遠くからじゃわからなかったがペラペラじゃなくてプラスチック製で少し厚みがあるんだな。カードの表にはグー、チョキ、パーの簡単なイラストか。裏も無地だしいよいよ運否天賦の勝負じゃねぇか。それにしてもこんな運要素に依存したゲームで本当に入学者を決めようとしているのか?正気じゃない……)


 「カードは今配られた通りだ、疑ってみても細工はない。投票までの時間は20分。その間は何をしていても構わない。仮に投票されなかった場合は問答無用で失格。二枚以上投票箱に入れた場合は最初に入れたもの以外は無効票となる。以上だ。質問のある者はいるか」


 質問などできる雰囲気ではない中、勇気を振り絞った生徒が現時点でほぼ全員が知りたい一番重要な質問を投げかけた。

 

 「あの…新入生は、何人に絞られるんでしょうか…」


 天童は質問が来ることを予期していなかったのか多少驚いた表情を見せたがそれもほんの一瞬で、また今まで通りの何を考えているのか掴めない顔に戻り、マイクを握りなおした。


 「あぁ、申し訳ない。伝え忘れていたが、新入生は150人を予定している。ゲームは投票により勝ち残った人数が150人よりも多かった場合は勝ち残った人間で2回戦、勝ち残った人数が150人に満たない場合は負けた人間で2回戦。いずれの場合も1、2人の誤差はあるかもしれないがおよそ150人前後になるまでゲームは行う。それでは健闘を祈る」


 再び会場が一気にざわついた。新入生として現時点で体育館にいるのは300人。つまり二分の一の確率で失格。二人に一人は強制的に不合格の烙印を押されることになる。今隣に座っている人間か、もしくは自分が1時間かそこらで学校を去ることになるのだ。


 (二分の一の確率で不合格。形式こそ違えどまさに『じゃんけん』だな…)


 新入生たちはもはやどうしていいかわからずちらちら周りを見たり様子をうかがっている。しばらくして、前まで天童がたっていた位置に腕章をつけた生徒が代わってマイクを持って立っていて、天童は壇上の自分の席へ戻っていた。


 「時間も押していますので、ゲームを開始したいと思います。投票までの自由時間は20分。20分後一人ずつ前の投票箱に投票していただきます。それでは…始め!」


  

 こうして、役員と思われる生徒の掛け声により私立緑山高校入学への生き残りを賭けた『国取りじゃんけん』が始まった。




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