第16話 つぼみ


2日目、サバイバル訓練。

しかし、これはもうほぼキャンプと同じで、

薪を集め焚火を作る。

丈夫な木で柱を作り、大きな葉っぱなどで屋根を付けて簡易テントにするなど……


どこでもできるようなことを王都の裏山でやってるだけでしか無かった。

(大事なことだとは思うんだけどね……)


ちょっぴり退屈な時間をもくもくとサバイバル作業で過ぎた一日となった……。



最終日、3日目の朝。


マキシ班長が皆を集めて、朝礼を始めた。

「みんな、わかってると思うけど最終日だ。しおりにも書いてあるように、何もない日だ」


(確かにしおりにも”最終日の予定は無し”とある……)


「では、何をしたら……?」

不安げにラズが質問した。


コホンと班長が咳ばらいをしたのち、

「逆に最終日なら、なにがしたい?」


一同は一瞬考えたが、キリが沈黙を破った。

「戦闘が……したい」


皆も顔を見合わせ頷きあう。気持ちは同じだったようだ。

初日から戦闘訓練だったせいもあるんだろうけど、あの時の事を早く実践したい。


「申し訳ないが、仮免許の君たちに与えられた戦闘訓練は準備の取れたあの1回のみだ」

と、マキシ班長がキッパリと断言した。


(さすがにそういう決まりってものがあるよね……)


「じゃあ、偶然にも魔物と遭遇した場合は別ですか?」

と、かなり画期的なアイデアを出すラズ。


しかし、班長は首を横に振りながら

「残念だが、故意に魔物と戦う行為もこの演習では許されていないね」


(もうこの日程では戦闘訓練は出来ないのか……)


「戦いこそが本懐の冒険者の演習で、それはあまりにも制約が厳しすぎませか?」

食い下がるラズ。


「そうだな……基本的に”冒険者は自由”だ、理不尽な制約など今からされるべきじゃない」

班長も個人的には賛成のようだが……

「でもな、冒険者とくに”大人”には、やっていい事とやってはならない事という、大事な約束事みたいな物があるんだよ、そういう意味での制限だと感じてもらえたら助かるよ」

と、苦笑いで答える班長。


「”覚悟”の話ですか?」

私はふいにそう感じて答えていた。

(”死ぬ覚悟”……その言葉が脳裏を横切ったからだったと思う)


少し難しい顔をして班長が答えてくれた。

「ハナ君にはもうそういう話をする相手がいるんだな……

 そうだ、”覚悟”の話になるんだよ」


覚悟ならとっくにできている! なんて勇ましく言えたらよかったんだけど、

初日の不甲斐ない戦闘の事もあるし、仮免許中にこの班長に対して、真っ向正面から言い返せるほど、身の程知らずはもうここには居なかった。


奇抜な戦い方は見てて面白いけど、それだけでは仲間を護れないと知ったラズ。

自分のやりたい事だけで大技ばかりに固執して周りを見ていなかったキリ。

出来る事が少ないのにそれすらまともに出来ないハナ。

自己主張が無さ過ぎて役に立てなかったアリィ。


「皆はまだ”つぼみ”なんだ。焦らなくていい。これからもっと楽しい冒険、危険な境遇、悲しい別れも、たくさん経験するだろう……今はその準備なんだ。

 覚悟だって、いますぐ出来てなくていいんだよ」

班長の優しい笑顔はとても大きく、遠く感じられた……。


(あぁ……この人は少なくても私たちより多くの経験をしてきている……)


一同、黙ったままの時間が過ぎる……


こういう時、口火を切るのはいつもこの人だった。

「なぁ、だったら最終日はこの4人で、斡旋所に行ってクエストを受注しないか?

 俺たち、もうパーティだろ?」

そう、セオリー通りのセリフ回しもあってのリーダー格”ラズ”だった。


アニィは待ってたと言わんばかりに目をキラキラさせ、頬を赤らめて何度も頷いている。

私も反対じゃない……

でも、キリはどうなのだろうか?

ふいにハナはキリの顔色をうかがっていた。


「いいぜ……お前たちとなら、やってやる」

口数は少ないけど、決意の表れを感じた……


すると全員の視線が私に集まっているのを感じた。

(あ、返事してない……)


「ハナさん……厳しいかな?」

寂しそうな顔のラズ

「ハナ……」

”いいよね?”とも取れる顔で見つめるアニィ

「……」

(失敬、キリさんは読み取れるような表情はしてない)


「もちろんです! 不甲斐ない治癒師だけど……」

どうしても最後までチカラの入った言葉が出なかった……


「”ライト”を複数展開できる奴が何言ってやがる……」

失笑しながら、キリが呟いた。

「そうだよ! あの魔法を皆と一緒にもっと鍛えていこうよ!」

ラズは良いところでいい事を言う。

「ハナと……もっと一緒に冒険したい……」

恥ずかしそうにアニィが言う。


”パンパン”と班長が手を打った。

「話は付いたようだね。さぁ、荷物をまとめて、君たちは次の一歩を踏み出すんだ、

 これこそが最終日の目的なんだからね」


(全部お見通しかぁ~かなわないなぁ~この人には……)


帰り道、私たちの背筋はピンと伸びていた。

先の見えない不安も、昨日までの自分たちにも、今の私たちならちゃんと向かい合える。

”覚悟”に対する一歩をまた一つクリアしたんだと思えた……。



続く。

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