覚醒!勝利の王
灰色の世界。全てが灰色となり、両面カードとユーリだけが色を持つ。
炎を吐こうとした姿のまま固まった巨竜を前に、ユーリはそれをただ見上げる。
「この、声は」
『ったく、おせぇよ!ずっと叫んでたんだが?』
「いや、誰?」
『
響く声は良く分からない言葉を紡ぐ。
「えっと、何?」
『つまり、違う世界の
響く声はどこか自慢げで。
「そのプロ?がどうして」
『さあな?気が付いたらクリーチャーに転生していた!』
そこで、漸くユーリは気が付く。語りかけているのは光輝く両面カードではない。その後ろにあるカラス?のカードだということに。
「つまり、別世界のデュエリストで、今は
『そそ、そういうこと。
で?今どうなってんの?』
案外頼れなかった。
けれども、賭けるしかない。ユーリは時の止まった世界で言葉を切り出す。
「勝たなきゃ行けない相手が居る」
『じゃあ勝てよ。ぶっ壊れ最強カードの一種、お前の手にあるだろ?』
その言葉にユーリは輝く両面カードを見る。
「勝利の王」
ユーリは思い出す。6つの文明界には12の王が居るという話を。
うち、名を知られるものは6柱。
闇文明、堕天王アーク・ルシファー
光文明、楽園王アルヴァロン
風文明、斉天王ヴァヌマーン
水文明、解命王エレメンディア
地文明、輪廻王ユグド・ギガンディス
そして……火文明、勝利王ガイアール・レクス
「ガイアール・レクス……」
『良く分かってるじゃないか』
その声に、ユーリはカードに目を落とす。
「熱血、星界……」
やはり文字は訳が分からない。けれども、今のユーリには確かにそう読めた。
『読めるじゃないか。なら、戦え。真のデュエリストとして!』
「どうやって?」
『いやそこからかよ!?』
カラスのカードがカタカタと蠢く。
『あーもう!デッキは?』
「残ってるのは6枚」
『アホか!?
デッキは60枚+次元領域最大8枚+バレットリボルバーが0か12だろ!?何で1/10しか無いんだよ!?』
「大半は取られた。マナチャージなんて理解不能な事が出来る筈もなく使えない俺より使い道があるからって」
ぽつりと呟くユーリに、更にカードは溜め息をついた。
『あー、デュエルのルール何も知らないのか。
いや、そもそも異世界に決闘者が居ること自体がマジで分からん超現象なんだが……』
カードが確認するように言葉を放つ。
『マジで無理な気がするんだけど……』
「それでも」
『あーもう!6枚って冗談だろ!?
でも、まだ微かな希望はある』
「ならば、どうしろと!?」
『
分かんないなら合わせて叫べ!
「ゲェェト!オープンッ!」
その瞬間、デッキと呼ばれた6枚のカードが燃え上がり……ユーリの左腕を覆うように、龍の腕と爪を模した紅黒のガントレットが現れる。
その手の甲部分にはスターサファイアのような巨大な石が嵌め込まれており……それに吸い込まれるようにして全てのカードが消える。
『ブレイブユアハート!』
「ブレイズユアフラッグ!」
無意識に、言葉を続ける。
宝石から5つの光が飛び出し、ユーリの前でふわふわと浮かぶ5枚のカードに変わる。
『それが手札だ!』
「どう使えと?」
『マナが無ければ使えない!今回は無理だ!』
言われ、ユーリはカード群を見る。その中に、カラスのクリーチャーは無い。
「なら」
『……俺のカードはあるか?』
「無い!」
『ならば、今回マナは必要ない!勝利の女神は……確かに此方に微笑んだようだぜ、ユーリ!』
もう分かるだろうと、声が促す。
ガントレットを通して、燃え上がる闘志が心を照らす。
「『
その瞬間、世界は色付き……止まっていた三頭竜が動き出す。
燃え盛る炎がその狂暴な不揃いの牙の間から漏れ……
『走り!護れ!』
「ああ、此方だ化け物!」
叫び、ユーリは少女と竜の間に立ち塞がるように大地を駆け抜け
一つの口から炎が放たれる。だが、それは……
『デッキとは
姿を見せぬカードが不可視の盾となり防ぐ!
「うぐっ!」
走る痛みに、ガントレットで胸を抑えるユーリ。
「けふっ!」
地面に落ちるのは喉から溢れる血。
「防いだ、筈が」
『ま、デッキが魂みたいなもんで、それが元々6枚、初期手札除けば1枚。って本来の55倍死にかけスタートだから苦しいのも当然ってか……』
響く声は、どこかお茶らけていて。こんな時なのに……死ぬとは欠片も思っていない。
ドクン!と心臓が跳ねる。
『決闘者なんだ。今なら読めるだろう、ユーリ!
さあ、ピンチの時こそ……革命を起こそうぜ!』
その声に呼ばれるように、両面カードが輝きながらユーリの前に姿を見せる。
何事か書かれている。そうとしか分からなかったそのカードが、今は……鎖に囲まれた銀河に見えた。
「熱血星界 ガイアールの効果発動!」
読める、叫べる。理解できる。
「自分のカードが山札を離れる時!自身のバトルゾーンにクリーチャーが3体以上存在せず」
ユーリに召喚獣は居ない。当然……3体ものクリーチャーを使役してるはずがない。
「それが山札の最後のカードであるならば、公開しても良い!」
盾として砕けていった光が凝縮し、一枚のカードとなる。
それは……当然!カラスの描かれたカード!
「それが火文明を持つ、
俺の最後のカードは!」
読める!
「火/闇文明!デーモン・"ブラッド"!
地獄のゴエティア ナベリウス!」
カッ!と輝いたカードが実体を持ち……闇が燃え上がるや虚空に描かれていたカラスの悪魔を招来する!
「そのクリーチャーをバトルゾーンに出し……」
ドキン!と更に心臓が燃え跳ねる。
「次元領域のこのカードを重ねて
ドキン!ドキン!ダン!ダン!
心臓が口から飛び出しそうなほど熱く熱く、激しく鼓動する!鳴動するカードの鼓動とシンクロし、ユーリ自身が燃え上がる!
「ドキン!」
『ダン!』
「ドキン!」
『ダン!』
『聞こえるだろう、炎の鼓動が!
追い込まれたその危機をひっくり返す、禁断の力……革命の鼓動が!』
「
バキン!と両面カードの端に見える鎖が砕け散る。
ユーリはその燃えるカードを左手に……
『さあ、運命も、勝敗も!全てを革命し……
ひっくり返したれやぁっ!』
「
自身すらも燃えながら表返す!
煌めくのは銀河。燃え上がる闘志!
炎の龍は明確な形を描き……燃える赤き銀河の盾と剣を携え蒼き鎧を纏う二足歩行の黒龍の姿を刻む!
「革命せよ!俺の
輝く蒼き銀河がカラス……ナベリウスへと収束し、カードに描かれた龍へと覚醒、燃え上がり大地に降臨する!
「ガァイッ!レクスゥゥッ!!」
その名を、勝熱星河 ガイレクス!炎のデュエル・マスターの力。顕現する火文明の王、勝利王の姿!
『グ!ガァッ!?』
突如現れた己並の巨躯に、三頭の竜は始めて脅威を感じたのか吼える。
そして残された二頭が今も蓄えたままの炎をもって追撃しようとして……
『勝熱星河 ガイレクスが星界放した時!』
「相手のクリーチャーをパワーが高い順に3体まで選び!破壊する!」
『ガグギィィッ!?』
突如銀河のような蒼爆発によって残る首が吹き飛び、中央の頭だけになった赤竜が苦悶の叫びをあげる。
「残った!?」
『ま、向こうもデュエルのクリーチャーじゃなく生きた生物、お前のデッキみたいに多少の生命力で耐えるんだろ!』
なおも炎を残された頭に燃やし、赤竜は抵抗の意志を見せるが!
「無駄だ!
このクリーチャーが星界放した攻撃の終了時、ターンを終了しても良い!
その後!おれのターンを行う!」
一瞬の灰色。時は吹き飛び!攻撃は行われず!
燃える銀河の剣が、赤竜を縦に両断した
「時を飛び越え、勝利の運命を掴み取る!それが、革命!」
『勇気!』
「『絶対勝利の力だ!』」
完全に両断された巨竜の体は崩れ落ち……一枚のカードとなって消えた。
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