猫山金太郎物語

チャららA12・山もり

野良のボス


 俺が歩くと、この町のネコどもは目をそらす。


 この真っ白な毛並みと上品な姿からは想像もできないだろうが、ここの連中は、俺を見ると震えあがっちまう。


 車の下にいるブチの野郎なんて、俺の姿を見るやいなやや、ガンっと車体に頭をぶつけるほど飛び上がり、人間からエサをもらっている黒猫の親子なんて、エサを食っている途中だろうが、俺が現れたとたん、親も子も我先われさきにと、逃げ走る。


 こうして、俺は残ったエサをいただき、ゆったりと車の下で昼寝ができるってことよ。


 日が暮れて、散歩がてら少し足をのばせば、オラオラの奴らに囲まれ、

「お前、どこの野良中のらちゅう?」

 なんて聞かれることもある。


 そんなときは、俺は胸を張って、こうこたえるのさ。

金田野良中かねだのらちゅう猫山金太郎ねこやまかねたろう」ってな!


 すると、奴らは蜘蛛の子を散らしたようにいなくなった。


 俺のうわさがどこまで広がっているか、その目安もわかるってことよ。


 そりゃ、最初のころは苦労もしたさ。

 俺はもともと飼い猫だったからな。


 そうさ……、あれは、三か月まえ、俺は野良の厳しさも知らない、飼い猫だったころの話だ――。



 お日様の差し込む、ポカポカしたアパートの一室。

 飼い主のバアちゃんの膝の上で、いっしょに水〇黄門の再放送を見ていたのさ。

 それがとつぜん、ばあちゃんが苦しみだした。

 俺は、すぐさま隣に住むじいちゃんに助けを求めた。


 すぐに救急車は来たけれど、飼い主のバアちゃんはもう帰ってこなかった。

 しばらく、隣のじいちゃんの世話になったけどさ、そのじいちゃんも老人ホームの世話になるって話を聞いて、俺はその晩、姿を消したのさ。


 そうして、その日のうちに、俺は野良の厳しさを知ることになった――。


 行くあてもない俺は、ふらふらと夜の公園に迷い込んだ。


 すると、目の前で野良ネコの集会をしていたんだ。


 俺は関係ないと思って、通り過ぎたのがわるかったんだな。


 見たからに、太鼓持ちと思われるブチ模様の小汚いネコが俺の前に立ちはだかった。


「おい! 挨拶もなく、親分の前を通り過ぎるとはどういう了見りょうけんニャ!」

「そうだニャ!」「ふざけるニャ!」


 そういいながら、小汚いネコたちが集団で俺を取り囲む。


 俺はすぐさま謝ったさ。


「すまなかったな、俺は今日、野良になったばかりなんだ」

「その話し方はなんだニャ!」

「どうして、ニャをつけないニャ!」


「いや、そんな野良のおきてなど、、、ぐふっ」


 俺が話している途中で、奴らは殴る蹴るの暴行をくわえてきた。


 そして、俺はおもったさ、ドラムカンの上で、ドテーっと寝っ転がって、ニヤニヤと笑っている大きなドラ猫が親分なんだと。


 牢屋主ろうやぬしのように高みの見物をしている間に、下っ端のモノがこうやって、新入りをいじめる。


 オレには、そういう知識はあったのさ。


 なにせ、バアちゃんと再放送の水〇黄門は欠かさず見ていたからな。


 しかもバアちゃんは、昼と夜の再放送を見続け、その合い間に相棒の再放送まで見ていたんだ。相棒の相棒はシーズンで代わることがあっても、水〇黄門のうっかり八兵衛は、ずっと同じままなんだぜ。主役の黄門様でさえ、変わっちまうのにさ。


 もしかして、水〇黄門の裏の権力者はうっかり八兵衛なのではないのだろうか、などと考えながら、俺はノラの集団に半殺しの目にあっちまったのさ。


 そうして、夜の公園でボコボコにされた俺は、息も絶え絶えで復讐計画を練ることにした。


 ねるねるねるねる……、そうして、昼も寝て、夜も寝て、、、。


 それでも思い出すのは、やっぱり飼い主のバアちゃんだ。

 一日中、ドラマを見ていたバアちゃんがここで俺にヒントをくれた。


 飼い主のバアちゃんは、「今日から〇は」の再放送ドラマも見ていたんだ。

 ついでにBL漫画もスマホで読んでいた。なっ、アバンギャルドなバアちゃんだろう。


 それがヒントになったのさ。

「今日から〇は」でカチコミのシーンを思い出し、ピンっときた!

 

 そうさ! 奴らのトップをやっつければいいんだと。

 

 あのドラムカンの上で、ドテーっと寝っ転がっている大きなドラ猫野郎を一日たりとも俺は忘れなかった。

 

 そうして、数週間、俺はゴミをあさりながらも、ひっそりと奴の寝床を探し当てた。


 そして、その日はきた!


 昼間、そいつの寝床をさがし、やってやったさ。

 奴を組み伏せ、バックから俺の一物をつっこめば、これで終わりさ。


「うななななな!!!」


 巨大な奴は死にかけのような声を上げた。


 だが、俺も必死だし、それに反撃されちゃたまらん。

 俺は猫だがネコは嫌だ。やはりタチに限る。


 ドラ猫は、次の一発を欲しそうに、

「うななな♡」

 と甘い声で俺の体にしっぽをなでつける。


 もう落ちたも同然だ。

 なっ、ばあちゃんのBL漫画も役に立っただろ。


 そうして、あっというまに噂は広まった。


「あいつは頭のおかしい猫ニャ」

「あいつにかかわると、親分と同じ目にあうニャ!」


 どうだ? 俺の成り上がり野良ネコ人生――。



 そうさ、俺は、この金田地区かねだちく一帯、両刀遣りょうとうづかいのボス猫さ。

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猫山金太郎物語 チャららA12・山もり @mattajunko

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