第十一話 GATE 遊園地 彼の地に、無様に戦えり


 「あ、花!こっちこっちー」


 駅に着くと、こちらに気づいた楽が手を大きく降ってきた。

 今日は待ちに待ったデート当日。

 計画は完璧。資金も完璧。コンディションは…やや不安定だ。


 「お、おはよう楽。今日もまた元気だな」

 「うん、元気。花の方は何だか眠そうだね。でっかいクマができてるよ」

 「はは、昨日は楽とデ…遊園地に行くのが楽しみすぎて眠れなかったんだ」


 昨日の夜、計画を練るのに集中しすぎて睡眠を疎かにしてしまった。だが楽の手前、弱いところを見せる訳にはいかない。

 ここへ来る途中コンビニで目覚ましドリンクを買い込んでおいた。これでバッチリのはず……だ!


 「にひひ、まだまだ花も子供だね。…あ!あれじゃない?遊園地行きのバスって」

 「ん?ああそうみたいだな。じゃあ早速乗り込ん…で…」

 「…?どうしたの花?そんな原作を読んだ事のない監督が作った実写映画を見た後みたいな顔して?」


 俺は自分の目を疑った。いや、正確には今見えたものを認めたくなかった。

 俺達が今から並ぼうとしていたバス停の前に、いるはずのない人影が見えたのだった。

 

 「では皆さん!他の人に迷惑の掛からぬようキチンと並んで待って下さい!」

 「「「「うぃーーす」」」」


 そこには[Tを○す会 一行]と書かれた旗を持つ白井と共に、銀杏や李などなど、見たことのある人物が俺たちの乗ろうとしたバスの前にぞろぞろといた。

 というか田中を除く一年B組の生徒全員がそこにいた。


 「それでは今からバスに乗りますので!軽く持ち物のチェックをします!Tを○すための武器は持ちましたか?」

 「「「「はーーい!」」」」

 「Tを縛り上げるための縄は持ちましたか?」

 「「「「はーーい!」」」」

 「では最後に大事な事です!あわよくばTの幼馴染と仲良くなりたいという欲求は置いてきましたか?」

 「「「「…………」」」」

 「……それでは張り切って行きましょう!」

 「「「「うぉぉぉぉぉ!」」」」

 

 俺はそんな光景を目にし、思わずその場に立ち尽くす。

 すると楽が純粋な目を奴らに向け話しかけてきた。


 「わぁ!なんか暑苦しいのが一杯いる!なんだろ?体育会系のイベントでもあるのかな?でもでもあれだとあたしたち乗れないね。次のに乗ろっか!」

 「…そ、ソッスネ」

 

 俺は気分を沈めるため、持ってきた目覚ましドリンクを一口飲む。

 だが既に、俺の目はそんなものを飲まなくてもバキバキに冴えていた。

 

 こうして、俺の一筋縄ではいきそうにないデートが始まるのだった。



 「それでは、チケットをお見せください!」

 「……チッ」


 俺は優しい声で話しかけてくる遊園地の入場口スタッフを睨みつけ、大きく舌打ちをした。理由は簡単、入場口スタッフの顔が見たことのある奴だからだ。


 こんなに筋肉モリモリの男を見間違えるはずがない。

 こいつは出席番号一番、何より一番を愛する男。相生一番だ。


 一番は俺が睨んでいることなど意に介さず、狭い入場口にでかい体を無理矢理入れ、笑顔のままこちらを見てくる。

 だがそんな場違い感満載の一番に、楽は可愛らしくチケットを渡した。


 「はいこれ!チケット!あのねこれね、花が抽選会で当てたんだって!すごいでしょ!」

 「それでは拝見させていただきま…えっ可愛い…おっと失礼しました。チケット二枚確認いたしまし…えっこの子持って帰っていい?」


 俺は渾身の力を込め、一番の顔面へ拳を放つ。

 だが流石は筋肉もりもりマッチョマンの変態。奴は楽から一時も目を離すことなく、俺の拳を受け止めた。


 「失礼、顔に小蝿がいましたので」

 「そうでしたか。それはお気遣いありがとうございます」


 一番は俺の拳を握りしめたまま笑顔でこちらを威圧してくる。俺も負けじと笑顔で奴を威嚇した。

 すると一番は突然握りしめた拳を引き俺の体を引き寄せると、耳元でこう囁いてきた。


 「…今回はこの子の可愛さに免じて見逃してやるが、気をつけろ。中にいるのは俺以上にヤル気のある奴らばかりだ。きっと無事では帰れんぞ」

 「それでも俺は行く。今日この場でこいつに告るって決めたからな」

 「…それなら仕方ない。お前の事は覚えておいてやるよ…三分ぐらい」


 そう言い俺を解放すると、一番は背中を強く叩いてきた。


 「それでは二名様。どうぞ夢の時間をお過ごしください!」

 「わーい!花、今日は楽しもうね!」

 「ああ…ああ!もちろん」


 俺は一年B組の良心の事を三分間だけ感謝し、遊園地デートを開始した。

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