第十話 1年B組でも恋がしたい!


 「夜遅くにごめん。今大丈夫か?」

 「どしたの花?夜に電話してくるなんて久しぶりじゃん」

 「いや、あのさ、今日福引で遊園地のチケット当てたんだけど…もし良かったら週末一緒に行かないか?」


 俺はベッドの上で携帯を握りしめ、声をやや上擦らせながら聞く。


 何年も一緒に遊んできたが、二人っきりで遊ぶことなんて一度もなかった。いつも側には俺の姉妹か楽の姉が近くにいた。


 それに頭のいい楽のことだ。もしかしたらこれがデートだと勘づいてしまうかもしれない。

 俺は高鳴る胸を握りしめ返事を待つ。すると携帯から楽の嬉しそうな声が聞こえてきた。


 「え!遊園地!行く行く行くー!週末でしょ?暇暇ー!」

 「そ、そうか!なら日曜日の八時に駅前集合にしよう」

 「りょ!」


 その後俺たちは何に乗りたいか話し合う事にした。

 だが結論が出る事はなく楽が寝落ちしたため、俺は朝までゆっくりと楽の寝息ASMRを楽しむのだった。



 翌日の教室。俺はノートへ明後日のデートプランを書き連なっていた。


 どこでランチにするかどこで気分を高めさせるかどこで告白するか。

 我ながら完璧なプランに思わず涎が出てしまう。


 「ぐっへへへ、んがははは、うぐふふふ、べへへへへへへへ」

 「…ねえ闇野。花道の奴がまるで悪の計画を立てる科学者みたいになってんだけど、何か知ってる?」

 「詳しいことは知らないであるが、どうやら昨日吾輩のあげた遊園地チケットが関係しているようなのだ」

 「え?あの花道がたわしと共に崩れ落ちた後、闇野が適当に投げてみたら当たったあの遊園地ペアチケット?」


 李の問いに、田中はその通りだと静かに頷いた。

 するとそんな会話に興味を示したのか、自分の席で本を読んでいた銀杏が田中と李の会話へと混ざってきた。


 「その話…少し腑に落ちんな」

 「やあ銀杏。唐突に出てきて、どこが腑に落ちないって言うんだい?」

 「ああ、そもそもあのエロ以外に興奮することのない多々良が、何故遊園地などにあそこまで興奮する?きっと…何か裏があるに違いない」


 銀杏のやけに鋭い推理に、二人は成程と納得のいった顔をする。

 それと同時に三人は、俺へと疑いの目を向け始めた。


 「コスプレイベントが開催されるとか?」

 「人気グラビアアイドルの握手会があるのではないか?」

 「もしかしてマジック〇ラー号が来るとか?」

 「きっと素人〇貞筆おろし企画の撮影会があるのだ」


 二人は次々と的外れな予想をする。

 だがそんな中、銀杏は真剣な顔で頭を悩ませると、一つの予想を震えながら口に出した。


 「……まさか……いや、そんな事は絶対にない。だが……あの様子から察するに……もしかして……デートか?」

 「「⁉︎」」

 

 銀杏のその言葉に、李と田中だけでなく周りにいたクラスメイトまでもが凍りつく。

 そして示し合わせたかのように、全員が恐る恐る俺へと視線を移す。


 だがそんな状況に微塵も気づいていない俺は、意気揚々とデートプランを練っていた。


 「ぐふへへへへ、ここで……『告白』っと……。ぎゃきききききき」


 そして俺は興奮のあまり、思わずデートの内容を口にしてしまう。


 これこそが人生七転び八起きの内の三転び目。俺の人生においてのルート分岐点。

 この時俺が『告白』と口に出さなければ、あんな事にはならなかった………と思う。



 「…聞いたか?」

 「ああ、確かに奴は『告白』とその口から発した。奴が今練っているのはデートプランに間違いない」

 「くそぉ、まさかこのクラスから裏切り者が出るなんて…みんな仲良しだと思ってたのに」

 「俺らが灰色の青春を歩いているってのに、あいつだけが彼女を作るなんて許されるはずがない!」

 「裏切り者には死よりも恐ろしい目に合わせるのが我らB組だ。早速放課後に会議を開き、意見を募るとする!」

 「「「「意義なし!」」」」

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