第4話 山小屋で情報交換……そして気がついてしまう

 妙な発煙筒もどきの音で先程のイノシシなどが近寄ってこないことを確認してから俺たちは周りの探索をすることにした。山小屋をベース基地にしながら周囲を警戒しつつ、俺とシュウトくんで手分けして辺りを探索する。俺が槍を持っている関係で俺がちょっと遠い場所を、シュウトくんが走って山小屋に逃げられる距離で散策をしていた。




 探索していると、ちょうど見晴らしのいい岩場があったので登ってみる。登り切る前に異変には気がついていたが、見ないことにして岩場を登りきった。


「やっぱり……月が……3つあるな……」


 改めて確認すると、かなり大きな月の隣に普通の大きさの月が2つ付いている感じだった。これは、別世界なんだろうか? 夢の可能性が一番高いな……しかし、リアリティがものすごい。夢でもこんなに色々なものを再現出来るものなのだろうか……


 俺は本当は最初から気がついていたのだが、植物の形、特に葉っぱの形が見たこともないものばかりでおかしいと思っていたのだ。



 思考が固まる。どう受け止めれば良いんだろう……この状況を……



 頭がボーッとした状態で風景を眺めていると、遠い場所に町らしきものが何個か見える。人がいるんだな……とりあえず二人に報告か……食べられる野草でも持って帰ろうかと思っていたが、この世界では俺の地球での常識は通用しなさそうなことに呆然とし手立ち尽くしてしまった……


 これ……俺は……帰れるのか? ……もう妻は出産が終わっただろうか……無事だっただろうか? 俺がいなくても大丈夫だろうか? ……そんなことを考えていると意識をしていないのに俺の頬に涙が伝わって落ちていった。


 来れたんだから帰れるよな? 俺は自分にそう言い聞かせてトボトボと歩いて山小屋まで戻る。足取りも重く現実感がなかった。




 山小屋に帰ると扉の前でちょっと考えてしまう。困ったな……どちらにしろすぐに分かるから正直に見たままのことを話せばいいか…… 


「タクマさん、おかえりなさい。どうだった?」

「ああ……はい、水」

「ありがとう……何かあったのね?」


 俺は力なく頷く。混乱と言うより、現状が現実? なのか夢なのかがわからないがどちらにしろ受け入れ難かった。


「ああ……あった。シュウトくんが戻ってきてから話そうか」

「……」


 俺はしばらく頭の整理……をしていたが何も案が浮かんでこなかった。そんな折に縄梯子を登ってくる音が聞こえる。


「ただいまー、変なもの見つけたよ!」

「おかえり。変なもの? なぁに?」

「ほら、これ」

「ん? 折れた日本刀かな?」

「だよね、日本刀だよね?」


 日本刀にしてはなんか随分直刀だな……サーベルっぽいような?


「おや? グリップがなんか、見たことないやつだね? 凸凹してる? 革なのか?」

「ん~大分古いわね……武器としては使えなさそうだねぇ」

「うーん……これで殴ったら痛そうですけど、あのイノシシには効かないだろうなぁ」


 シュウトくんの持ってきた日本刀は博物館に展示されている様な年代物に見えた。もちろん刀身が錆だらけで使い物にはならないだろうが……過去にもここに日本人が来たと考えたほうが良さそうだな……




「さて、みんな集まったし、情報共有といきますか」

「あー、僕も一応、気がついちゃったんですよね……」

「え? なぁに? あたしだけ仲間外れ?」


 俺は無言で月が見えるであろう方向の山小屋の窓の板戸を開ける。チサトさんが覗き込みしばし固まる。


「えっ! うっそ!……」

「どうやらここ、地球じゃないみたいなんだよな……」

「僕もはじめて見た時は固まりましたよ」

「え……夢じゃないよね……帰れないじゃないの……」


 チサトさんは泣くのを耐えてくれている……大泣きしたらイノシシとか来ちゃうもんな……それに引き換えなぜかシュウトくんはちょっと嬉しそうだ。


「やっぱりこれ、異世界転移ってやつですかね?」

「その、イセカイテンイとはなんなんだい? 前も聞いた様な?」

「あれ? 知らないんですか? トラックとかに轢かれると異世界に転生しちゃったり転移しちゃうって話ですよ」


「すまない……わからないかも……」

「修斗! ふざけるのはやめて! どう考えても今は現実だよ! 漫画の世界じゃないんだよ!」

「ご、ごめん……でも、ここ……どう考えても地球じゃないんだ……」

「そうだな。植物も見たことのない種類のものがあったり、似ているんだけど色々なところが違う感じだね。そもそも月が違うだけでもう別の星にいると考えたほうが良い」


「……なんで二人ともそんなに冷静なの! 帰れないんだよ!」


「……」



「……俺は帰る方法を探す。こっちに来れたんだから帰る方法ももちろんあると考えたい……」



 俺は普通に話したつもりだったが、声にはなぜか怒気が含まれてしまった……

 チサトさんがぎょっとした表情をし、シュウトくんがえっ? と言った感じになる。ちょっと恥ずかしくなってしまった。


「あ、あたしも手伝うわ! 家に帰りたいもの!」


「僕は……ちょっと考えさせてください。あ、でも人里を探すのには賛成です。ここでサバイバル生活なんてしたら人生詰んじゃいますよね?」

「それなら、すでに遠くの方にはそれっぽい町みたいのは見つけたから安心してくれ、問題は結構遠そうなのと……」


「のと?」

「食べ物と武器かな……」

「そうだね、まずは食料……なんだけど、世界が違うので食べられるものなんかは試していかなければいけないね。町っぽいところに行っても食料を分けてもらえない可能性もあるし」

「世知辛いなぁ……」


「……敵対的な可能性もありますしね」

「ネットで見た、どっかの国の孤島の現住人的な場合もあるのか……」


 グゥーーー


 チサトさんのお腹の音がいい感じで鳴り響く。チサトさんの顔も真っ赤になる。乙女なんだっけか? 反応が初だな……高校生ってこんな感じだっけか?


「……すまないが、食料はまだ見つけてないんだ……」


「わ、わかってます……」


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