第6話 王国side 勇者召喚

「なんだと……」


バーメル女王は魔導鳩からの報告を聞いて驚愕していた。


調査隊が魔王を発見、人間の姿をした幼女であったこと。

報告されたのはそれだけだった。


魔導鳩を返そうとしたが、魔導鳩は溶けて消えた。

それは報告者が既に死んでいる事を示していた。


「よりにもよって、人間の姿……」


古の時代から魔王は存在する。

獣の魔王は群れを大勢率いて虐殺し、魔大樹の魔王は世界を枯らして死屍で自らを潤したと言われている。


中でも人間により近い魔王は知性と魔力が高いと記述があり、かつて最も人類滅亡の危機に瀕したとされている。


ヒトの狡猾さと圧倒的な魔力による暴力による蹂躙。


人型魔王が現れた当時の人類はエルフもドワーフも亜人と人も一丸となって戦い勝利したらしい。


「国防大臣、各国へ大至急通達じゃ。人型魔王出現の予兆あり、我が国の調査隊全滅の為、協力申請と各国会合だ」


人型魔王で考えられるのはおおよそ邪悪な人類、あるいはサキュバス、アンデット、悪魔、吸血鬼などの魔族。


文献に残っている初代魔王にして最古の魔王は吸血鬼であった。

太陽の恩恵を受けれないが、身体能力や魔力は圧倒的だ。

加えて長命である吸血鬼は経験値を積んでいる強者もいる。


「しかし報告時の時間は昼間。雨が降っていたとはいえ、それなりの精鋭も加えていた……」


女王から直々の依頼で調査隊に加えた貴族出身者たちのSランク冒険者パーティ。


曇り空の下での吸血鬼との戦闘で即死するようなら、この国は勇者を除いてその魔王に勝利は無いということになる。


「いずれにしても情報が足りぬな……」


幼女の姿の魔王。

仮に成長してさらに強くなるというのなら、一体どれだけの死者が出るのだろうか。


「女王様、召喚の儀式に進展が」

「さようか!」

「はい」


駆け付けると魔法陣は点滅を繰り返しながら回り、前よりも大きくなっていた。

光の粒がいくつも浮かんでいて、魔力が膨れ上がっている。


「なぜ魔法陣が大きくなっておる?」

「わかりません!」


過去の文献ではこのような記載は無かった。

しかし、今この魔法陣を解いてしまえばおそらくはこの国が吹き飛ぶ可能性があった。


「くッ!皆の者、気張れ!ここで成功しなければ未来はないぞ!!」


あまりに膨大すぎる量を注ぎんだ魔力制御もいよいよ怪しい。

加えて何日も注ぎ続けた魔導師たちの体力の限界は来ている。


腕利きの王国魔導師たちと見込みのある平民たちの力を借りても際どい。


「せめて魔法陣の変化がわかっていればもう少し対応できたものをッ!」


王国魔導師たちの休憩の為の交代時間目前でこれはキツい。


「バーメル様!」


女王は自らの左手を斬りつけて血を魔法陣に垂らした。


「皆の者!ここで決める!練り上げるぞッ!」

「はっ!」


魔力制御の綻びを女王はカバーし、大筋までコントロールして上手く魔導師たちと連携して魔力浸透のムラをなくした。


点滅の感覚が短くなり、光が溢れて儀式の間から影が消えた。


「な、なにも見えぬ!」


まばゆい光と轟音が全てをかき消していく。

そうして徐々に人の気配が光の中から感じられるようになった。


「……勇者召喚ではあったが……」

「バ、バーメル様、これは……」


10人。

女王を始め、勇者召喚の儀式によって現れた勇者たち10人を前に絶句した……


現れた10名は皆倒れていた。


全員が勇者の紋章が首に刻まれていた。

全員が勇者だった。


その意味を、瞬間的に理解出来たのはバーメル女王だけであった。



☆☆☆



目が覚めると知らない天井をぼんやりと眺めていた。


「勇者様、ご機嫌はいかがでしょうか?」


寝ぼけたまま声のする方を見るとメイドがいた。

コスプレというにはどこか仕草に違和感がないが、俺にはメイド自体が違和感でしかなかった。


「……誰?」

「この城に仕えるメイドのメリアと申します」

「ここは?」

「グランドル王国の王都でございます。詳しい事は改めて女王様よりご説明がございます。他の皆様も何名か既にお目覚めになっていますので、ご安心下さい」


自宅のベッドより明らかに豪華な装飾に部屋に飾られているアンティークは全く見覚えはない。


グランドル王国なんて聞いた事もない。

全く状況の掴めないまま、覚えている事を思い出した。


「……そうだ。思い出した……」


黒崎の自殺から、クラスは崩壊した。

どうして黒崎が自殺したのか分からないが、夏休み明けから起こった怪奇現象でクラスのみんなは病んでいった。


そうしてクラス内でケンカが勃発して、みんなが殴りあっててそれからなんか急に教室の床が光り出して……


「……そっからは覚えてないな」


少なくともここは病院じゃない。

どこかも分からない。

メリアというメイドは日本語を喋ってるけど、明らかに日本人じゃない。

アメリカ人とかの方が近い。


「メリアさん、他の起きてる奴らと話がしたいんだけど」

「かしこまりました」


そうしてメリアの案内の元、部屋を出た。


「……まるで豪邸の廊下だな……」

「わが王国の女王様の住まわれる城でございますから」


にっこりと微笑みながら優雅に歩くメリア。

俺がいた部屋から3部屋ほど先の部屋に着くとメリアはノックしてドアを開けた。


「カナ様、失礼致します」

「光也!起きたのね!」

「ああ。……佳奈、今ってどういう状況なんだ?」


そう聞くと佳奈はメリアに席を外すように言って話し始めた。


「話を聞いた感じ、ここって異世界みたい」

「……は?」

「だよね。私も同じ気持ち」


佳奈は部屋の外のメリアに彩希を呼ぶように言って呼んできてもらった。


「光也君、起きたんだね」

「今の現状は彩希の方が詳しく伝えられるわ」

「私の弟がこういうの詳しくて、前に一緒にアニメ見たことがあるの」


そうして彩希から聞いたのはこういう事だった。

俺らは異世界から勇者として召喚されたらしい。


彩希はここにいるのは全員で10名で、クラス転移とかクラス召喚とか言われている現象の事らしい。


あくまでアニメや漫画、小説などでのフィクションだったのに、俺たちは今ここにいるという状況らしい。


「……俺たちは、これからどうなるんだ?」

「分からない……でも、多分、魔王を殺させられるんだと思う」


勝手に呼び出されて魔王を殺せ。

今の俺たちに、魔王退治なんてできるのか?

黒崎の自殺の件で既に最悪の状況だったのに……


「皆様、女王様がお呼びですので、玉座の間へお越しくださいませ」


こちらの気も知らずに、メリアはにっこりと笑って俺らにそう言った。



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