第2話 似死さんと雪

ピーンポーンと、朝から僕の家の無機質なインターホンの音がする。時刻は朝の4時…どう考えても常識ないだろ。んまぁなんとなく誰が来たかは予想がつくけど…

「あんまり放置すると絶対連打するからなぁ…」

そう考えてるうちにやはり僕の予想通り、ついに連打し始めた。……。

「あぁぁうるさいうるさい!」

僕はどかどかと寝巻きのまま廊下を歩き、ドアを開ける。

「似死さんうるさいっ!」

想像してた通り、そこに立っていたのはコートにマフラーと、大変暖かそうな格好をした似死さんだった。寒がりなくせになんという行動力だ。

「見てくれ、佐々木!雪だぞ雪!」

「あーはいはい、子供じゃないんだから…」

「私は子供だ!」

「お願いだからそんなドヤ顔で言わないで…」

似死さんというのは僕の住んでるアパートの隣に住んでいる人で、学校でも隣の席の子。本当に何考えてるのか全く読めない子でスリルなことが三度の飯より大好き。そして、スリルな体験を味わうがためだけに死にたがるという、とんでもなく変わった人である。僕はそんな似死さんにいつも振り回されてばかりだけど…

「まぁとにかく、私が子供かはどうでもいい。見てくれ、珍しく雪が降ったんだぞ!」

「だからってこんな朝っぱらから来なくてもいいじゃん…」

「そこでだ。私はなんと…」

「うん、まず人の話聞こうか」

僕たちの住む地域では雪が全く積もらない。なんならそもそも全然降らない。今年は大寒波が来るからもしかしたら雪が降るかもしれないって言われてたけど…

「どんだけ楽しみだったんだよ…」

「?佐々木、ちゃんと聞いてるか?」

「ううん、これっぽっちも聞いてない」

「はぁ!?私がせっかくここまで説明したのに!?まぁいいじゃあ最初からじゃないか…」

そう言って似死さんは床に置いてあった白い塊を持ち上げた。

「うーん…その白い塊は…何かな?」

「雪二郎だ」

「あー雪だるま作ったんだね、二郎ってことはもう一体いるの?」

「いや、こいつが長男だ」

「じゃぁなんで二郎なのさっ!」

「二郎じゃなくて雪二郎だ!別に長男が雪二郎でもいいじゃないか…」

「ややこしいな」

長男なのに雪二郎って…雪太郎とかならまだしもなんで二郎って…

「それで?ただその雪二郎を見せるためだけに来たの?だとしたらマジで迷惑なんだけど…」

「いや、雪二郎はついでだ」

「じゃぁなんで来たの」

「雪合戦でお前をぶちのめす「かいさーん」

こんな寒い中雪合戦なんてごめんだ、絶対やりたくない。

「ちょ、ちょ待ってくれ。まだ話は…」

うん、なんて諦めが悪いんだ。ドア閉めよ。

「あぁぁぁドア開けてくれぇ!!」

ドンドンドンドンと、似死さんがすごい勢いでドアを叩く。あぁもうっ!

「うるさい、近所迷惑!」

「あだっ、」

ドアを開けると同時に開いたドアが似死さんの顔面を直撃した。また、それと同時に足元に置いてあった雪二郎がドアに当たって粉砕した。

「雪二郎ぉぉぉぉ!!」

あ、やば、やらかしたわこれ…絶対似死さんに吊るされる…

「あーそのー似死さんごめん。わざとじゃないんだ」

「……」

あー黙っちゃった。絶対機嫌損ねたわ…

「…ゆ、雪二郎僕が作るからさ?ね?だから機嫌なおして…」

「雪二郎の仇ぃぃ!!」

そう言って似死さんが僕を外へ出して何故か似死さん本人は僕の家に入ってドアを閉めた。

「……え?」

急のことすぎて理解が追いつかない。てかこの状況、似死さんに僕の家乗っ取られてない!?

「ぇ、ちょ、似死さん開けて!?そこ僕の家なんですけど!?それに僕寝巻きしか着てないんだけど!?すっごい寒いんですけど!?」

「ゆ…じ…つ…こい」

「え?扉越しで聞こえないんだけど…」

「雪二郎50体作ってこいっっ!!!」

「はぁ!??こんな格好で!?雪二郎の罪重くない!?50体も!?」

「ごちゃごちゃ言ってるとあと50体増やすぞ」

「速やかに作ってまいります」

その後ちゃんと50体作った僕の手は真っ赤に染まり、似死さんを呼ぼうと家に帰ると、こたつで暖かそうに寝ている似死さんがいた。


似死さんは鬼畜です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る