第2話 《かまいたち事件》/解答編



 ――――「じゃあせーので怪しい人物の名前言おうか……せーの」






「「――辻めぐる」」






「その心は?」

 にやりと笑いながら、ミサキは問う。



「怪我の数と、ガラス片の数です。一人目・二人目の、ガラス片が複数で怪我が一つ。これは、『ガラス手裏剣』説でいくなら、何度かかガラスの攻撃を外している。俺のガラス片が一つに、怪我が一つ。これも数は合っている。

 ――――では、辻さんのガラス片が一つで、怪我が複数は? 


 これだけが、数が合ってない。辻さんの怪我……あれ、本当に犯人にやられたものですかね?」


「素直に考えれば、偽装かな」

「でも、なんのために?」

「ホワイダニット。なぜ。動機だね。それも目星はついてるけど……」

「というと?」

「やだ、言わなーい」

「……え?」

「だって……、それは最後にとっておくだろう?」

「いや、そういうのいいんで」

「自分で考えれば?」

「な、なんだ、この人…………」

「名探偵はそういうものなのさ。真相はもったいつけないと」




 6 【六月十一日 19:00】




 ――――春日ハルトは、何かがおかしい。

 ミサキはそう考えていた。

 

 根拠の一つとして、ガラスの破片がある。

 完全に組み上げたわけではないが、写真を撮って、それぞれの破片の割れる前の形を想定する。

 ハルトが被害にあった現場のガラス片。

 あれは、一人目と二人目の現場から持ち去ったものだったことがわかった。

 では、彼が犯人か? 

 もしくは、共犯者で、こちらの捜査を撹乱しているのか。


「さて……、情報は出揃ったか」


 ミサキは整理するように事件について言葉をこぼしていく。

 

 ――四人の被害者。

 そのうち、二人が偽装だ。

 辻めぐる。春日ハルト。

 ――――あの時のことを思えば、どちらが犯人なのかはもうわかる。

 

 ただ、そうなるとどちらかは犯人ではないのに、偽装を施したということになる。


 それは一体なぜか――?



「いずれにせよ……これで、やっと始められるね……アキラ」




 8 【六月十ニ日 17:38】




「――――犯人はあなたですね、辻めぐるさん」

 

 休日の夕暮れ。

 白銀ミサキによる宣告は、唐突に放たれていた。


「バレちゃった? ふーだにっと? でしたっけ? 犯人が誰かとか、別にいいよね、そこは。候補なんてアタシしかいないし」


「……認めるんだな!?」とハルト。


「…………」

 ハルトの言葉に対し、表情を豹変させて、鋭い視線を突き刺すめぐる。

 そして――


「……アタシが犯人としてさ、じゃあアンタは一体なに?」


「どういう意味だ?」

「とぼけちゃってさあ! やっぱり力づくで聞き出すしかないか!」


 そう言ってスマホを取り出すめぐる。


「ハルトくん……来るよ! 《怪異》だ!」



「もう遅いし! 

 

 ――《憑依インストール》:《鎌鼬かまいたち》ッ!」


 

 めぐるは自身をスマホで撮影。

 同時、彼女の背後に巨大な《かまいたち》が出現。

 強烈な風が吹き荒ぶ。

 さらに、彼女は背負っていたケースから木刀を取り出す。

 それも、二刀だ。


「部活じゃ互角くらいだったけど、さすがに今はもう絶対に負けないよ……。《怪異》を使ってるからじゃない……この技を使うから!」



 駆け出すめぐる。



「《辻風流/攻勢七式――翡翠嵐舞》」



「なっ……!」


 ハルトは目を剥いた。

 明らかに剣道の動きではない。

 どころか、尋常な剣術の動きですらなかった。

 だが、技の術理はすぐにわかった。

 《かまいたち》を――風を利用した剣術だ。

 自分の動きを風で加速させ、相手の動きを風で阻害し、一方的に連撃を加え続ける。

 ハルトが反撃をする暇など与えない。

 このまま削りきって、それで終わり。




「ほらほら、さっさと吐いちゃってよ! そうすれば楽に――――……、え?」


 めぐるは、違和感に気づいた。


(なに、その動き……っ!?)


 ハルトを捉えることができない。

 風の阻害も、二刀による連撃も、全て読み切られている。

 ありえない。

 怪異の絡まない二刀だけならまだしも、なぜ風の流れを読んで、それを利用して動きを加速さ、こちらの斬撃をかわす――などということができる?

 今が初見のはずだ。

 怪異など、知らないはずだ。


 彼は――春日ハルトは、一体何者だ?



 その時だった。

 めぐるが何かに躓いて、体勢を崩した。




 ◆






「風を操れるのもすごいけど……なにせこっちは、核爆弾でも壊れないらしいから」


 ――――ぬりかべくんだ。

 事前にこの展開を読んで、ハルトはぬりかべくんを仕込んでいた。

 あとは仕掛けた場所を覚えて、自身はそこを避けて、相手を躓かせればいい。

 倒れかけた瞬間、背後から押さえつけられて、スマホが奪い取られた。


「白銀先輩、それなんとかなりますか!?」

「なるよ。はい、《かまいたち》、ゲットだぜ……っと」


 あっさりと、ミサキによって《怪異》を奪われるめぐる。


「なんで、こんなこと……」

「ホワイダニットも簡単さ。既に彼女が話していたからね」


 ――友人である松原サクの、ストーカー被害。 めぐるは犯人が《怪異》を使っていても倒せるように、自身も《怪異》の力を磨いていたのだ。


「クソ……クソクソクソッ……これじゃ、このままじゃ、サクちゃんが……ッ! クソッ、ちっくしょう……ごめん……ごめん、サクちゃん……」


「あっはっは! そんなんいクソクソ言うこともないだろう! そんな言葉遣いは一部の性癖の人にしか刺さらないよ?」


「は……?」と、唖然とするめぐる。

「はぁぁぁ…………?」ハルトは、めぐるより遥かに大きな声を出してしまった。


「辻めぐる君。キミは罪を犯してしまったけれどね……それでも、もう、依頼はされている。

 私はね、《怪異》にまつわる謎があれば、それでいいんだ。

 キミが犯人であることなんて、どうっ、でもっ、いいっっ!!


「……」

「……」

 めぐるも、ハルトも、どうリアクションしていいのかわからなかった。


「キミの依頼した事件も、きっちり解決してあげるから、心配しなくていいんだよ!!」



 薄々思っていたが、はっきりした。

 ハルトは思う。


 この女は……。

 自称・名探偵の白銀ミサキとかいう女は、倫理観がぶっ壊れている。


 壊れているのだとすれば。

 

 ハルトは、彼女を――――…………。





 9





「――――結論は出た。

 やはりお前はここで殺すことにしたよ、白銀ミサキ」



 辻めぐるの事件が終わった直後だった。

 めぐるの処分については、一度保留。

 怪異犯罪は、通常とは別の処理がされるのだが、《かまいたち》のないめぐるに危険性はないので、一度保留で構わないということになった。


 そして。


 現在――ハルトは、ミサキに、刀を突きつけていた。

  


「アキラの件だろう? ふふ、私はずっと君を待っていたよ。

 転校生の春日ハルトくん……いいや。

 

 警視庁公安部・特別怪異犯罪対策室・第三課……通称《カイサン》

 カイサンの特別潜入捜査官である、春日ハルトくんと言ったほうがいいかな?」





「全部わかっていたわけだ……《名探偵》白銀ミサキ。


 いいや、俺の姉さんを殺した《怪異の王》……《玉藻の前》」

















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